【試乗】新型 アストンマーティン DBX707|減速まで楽しい! スーパーカー級スペックをもつスーパーSUVの現行王者
カテゴリー: アストンマーティンの試乗レポート
2022/07/18
日常性も忘れぬ、背が高いだけのスーパースポーツ
アストンマーティンは機先を制したかったに違いない。エンジン付きスーパーSUVの最終決戦がいよいよ始まる2022年、DBXの高性能版「707」を今年2月にリリースした。まるでスポーツカーのような走りをみせるDBXを一気にパワーアップ。名実ともに最新スーパーSUV界のトップに立ったと言っていい。
ただし、“現時点では”だ。というのもこれからランボルギーニはウルスのマイナーチェンジを実施するし、秋にはフェラーリが12気筒エンジンを積んだプロサングエをデビューさせる。スーパーカー級スペックを誇るスーパーSUVの役者が揃うのだ。
707という数字は4L V8ツインターボエンジンの最高出力を表す。スタンダード仕様のスペックは最高出力550ps、最大トルク700N・mだったから、それぞれ+157ps、+200N・mということになり、すさまじいまでの数値向上である。
スタンダードモデルとはまるで違うトランスミッションシステムも組み合わせた。トルコンレスの湿式多板クラッチ式で、高スペックへの耐性はもとより変速の速さと効率の良さを追求する。
強力なパワートレーンを生かすも殺すもシャシーのデキ次第だが、コントロール性をいっそう機敏に仕立てるべく、サスペンション構成パーツの変更はもとより、リアトラックは拡大され、種々の電子制御システムも改良された他、ブレーキパフォーマンスも大幅に向上させた。さらに動的に理想というべき52:48という前後重量配分を実現。これは55%以上のフロントヘビーとなることが常の大排気量エンジン搭載のスーパーSUVにあって異例のスペックだと言っていい。
SUV 離れしたハイスペックモデルに戦々恐々として乗り込めば、意外に扱いやすくて拍子抜けするほどだった。普通にアクセルペダルを踏んでいる限り、大きくなったターボチャージャーはその存在感をあらわにすることはなく、あまりにもスムーズな加速にノーマルより遅いんじゃないかと思ってしまったほど。
ハイパワーターボ車の加速といえば、昔の“ドッカン”とは言わないまでも、恐怖感を伴うほど爆発的なものであってもおかしくない。けれども707の加速はスリリングさとはほとんど無縁で、スムーズかつ洗練されている。暴力的ではない。速さを実感するのは、その気になってマニュアル操作で変速したときや、横目に流れる景色をふと見たとき、そして思いのほか高い速度域で走っていることにメーターを見て気づいたときくらいだった。要するにこのハイスペックであってもまだボディ&シャシーが優っているということ。
重量バランスの良さが利いているのだろう。強いボディに支えられたサスペンションは常によく働き、ドライバーの腰と一体となり自在に動く。左右に振ればオン・ザ・レールとはこのことで、それなりの速度域であっても、そして初めて走るようなワインディングロードであっても、いきなりリズムに乗って走ることができた。
最も感動したのはブレーキフィールだ。まるで速度にのった車体すべてをブレーキペダルでしっかり受け止めているかのようで、減速そのものがとてつもなく楽しい。
街中の乗り心地も悪くなかった。超高性能だけれども実用性を忘れていないという点だけはスーパースポーツカーとは違うが、DBX707は4枚ドアで背が高いだけの、正真正銘のスーパースポーツだった。
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
アストンマーティン DBXの中古車市場は?
アストンマーティン初となるSUV。接着アルミニウム構造を用いた専用ボディに、4L V8ツインターボを搭載した。アストンマーティンらしい走りをもった“GTカー”として、多用途性とスポーティな走りを実現する。ブランド初の5人乗り仕様でもある。
中古車は2500万円以上の相場で、15台前後が流通。内外装の仕様や装備、特にインテリアの仕立てが物件ごとに異なることが多いので、気に入った1台を探してみてはいかがだろうか。