BYD シーライオン7▲BYDの国内第4弾となるクロスオーバーSUVスタイルのBEV。先に登場したセダンモデルであるシールをベースとした、上級モデルとなる。搭載されるバッテリーは、重量増ながら安全性と耐久性の高いLFP(リン酸リチウムイオン)バッテリー

ノっているBYDの第4弾は上級クロスオーバーSUV

「Build Your Dream、夢を創れ」、略してBYD。なんとも素晴らしい社名、ブランド名ではないか。中国メーカーと聞いて日本では侮る方々もまだまだ多いけれど、その貪欲な開発精神、豊富な資金、製品化のスピード、多くのタレント、そして何より自動車産業にかける熱量の大きさで、国産メーカーをもはや凌駕しつつあることは明らかだ。

もちろん、様々な地政学的背景をくみ取ってメーカーそのものの価値を吟味し評価することは大事なことだけれど、一方で商品が存在し日本でも正規ディーラーネットワークが(スピードをもって)築かれ、すでに彼らの車を楽しんでいるユーザーがいる以上、メディアとしてもまずはその商品性をしっかりと吟味し伝えていく必要がある。既存の国内外ブランドと同じ土俵で。

BYDはノっている。2024年には前年比40%アップの生産台数で日産、ホンダを超え堂々の400万台クラブ仲間入り。好調な販売台数を支えているのは、実はPHEVで約6割を占める。日本での実績はわずかに累計4000台だが、上陸以来2年半でディーラー数は40店舗以上と確実に商売の基礎を固めつつある。

今年中にはPHEV乗用車も日本でリリース。もとより電動バスなど公共ツールですでに実績があるわけだから、日本市場への本気度を疑う余地はない。さらに、運転支援の無料アップデートや驚異的な急速充電システム(5分400km、ただし日本での実現は今のところ難しい)、何より嬉しいのはこの時代にあって車両価格値下げ、とポジティブなニュースには事欠かない。

商品ラインナップとしてはこれまでコンパクトハッチのドルフィン、コンパクトSUVのATTO 3、そしてスポーツサルーンのシールと3種類のフルエレクトロニックモデル(BEV)を用意していたが、今回新たにクロスオーバーSUVのシーライオン7を追加した。4番目の海洋シリーズである。
 

BYD シーライオン7▲オーシャン・エックス・フェイスと呼ばれる特徴的なフロントマスクをはじめ、「海洋シリーズ」共通のエクステリアデザインを採用
BYD シーライオン7▲ルーフが後端に向けて穏やかに傾斜するクーペスタイルを採用。リアゲートにはダックテール型スポイラーが備わる

オススメはパフォーマンスに優れたAWDモデル

基本的にはセダンであるシールのメカニカルコンポーネントをSUV用に転用したモデルだ。それゆえ後輪駆動と四輪駆動(AWD)の2グレードを用意する。前者の性能は0→100km/h加速で6.7秒、最大航続距離が590kmであるのに対して、後者は航続距離こそ540kmに下がるものの0→100加速は4.5秒とスポーツセダンと呼ぶにふさわしい。バッテリー容量はいずれも82.56kWh。特徴的なブレードバッテリーを使う。

流行りのクーペSUVフォルムは、セダンのシールよりも常識的と言えるもので、トレンドの最前線を走っているように思う。アルファ ロメオやアウディで一時代を築いたヴォルフガング・エッガー率いるデザインチームの作品だ。

インテリアも“驚かされすぎる”ことはなく、それでいて新鮮味もあるデザインだ。これまでどんな車に乗ってきた人であっても違和感なく使いこなせるだろう。例の回転するセンターディスプレイも健在である。
 

BYD シーライオン7▲可変ダンピングアブソーバーを標準装備。AWDには走行状況に応じてモーターを制御するiTAC(インテリジェンス・トルク・アダプテーション・コントロール)も採用した

その乗り味はどうか。実をいうとシールでは後輪駆動の方が断然に乗りやすく、完成度が高かった。AWDで思い切った加速を試すと前後輪の協調がうまくなく、スタビリティに多少不満を覚える瞬間があったのだ。シーライオン7を試すにあたり、そこを特に気にしながらドライブしてみたのだが、ほとんど気にならないレベルまで改善されていた。となれば断然、パフォーマンスに優れたAWDモデルがオススメになってくる。乗り比べると、後輪駆動モデルのかったるさが妙に目立ってしまうからだ。

街中をゆったり走る分には、文句のつけようはない。乗り心地もクラス標準レベルを上回る仕上がりで、静かなBEVゆえに気になるノイズや振動もほぼ感じなかった。徐々に速度を上げていっても安定感や安心感は揺らぐことがない。高速走行も問題なかった。いやはや、もはや国産ジェネラルブランドと完成度では遜色ないレベルである。

試しにワインディングロードで少しペースを上げてみる。シールも良かったが、背が高くなったシーライオン7でも峠道を器用にこなした。重心の低いBEVの特性を上手に生かした足回りのチューニングを受けている。

価格を考えると競争力は非常に高い。気になるとすればBEV+中国製ゆえのリセールバリューと、何年か後のクオリティ耐久性くらいだろうか。このあたりはマーケットの動向をこれから観察して見極めたいところだ。
 

BYD シーライオン7▲各種機能が統合された、回転式マルチタッチスクリーンを採用したシンプルなインテリア
BYD シーライオン7▲スタート/ストップボタンやシフトなど、スイッチ類はセンターコンソールにまとめられている
BYD シーライオン7▲内装はブラックで統一。シートにはナッパレザーを用いるなど、高級感も高められている
BYD シーライオン7▲フロントウインドウとフロント側サイドウインドウには防音/熱線吸収ガラスを用いるなど、快適性にも注力されている
文/西川淳 写真/郡大二郎、ビーワイディージャパン

自動車評論家

西川淳

大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。

ライバルとなるテスラ モデルY(先代)の中古車市場は?

テスラ モデルY(先代)

BEVブランド「テスラ」のミドルクラスSUV、日本には2022年6月に導入された。1基のモーターで後輪を駆動させるRWDと、前後1基ずつのモーターの4WDとなるパフォーマンスをラインナップ。ブランド共通のシンプルなインテリアや、スマートフォンとの連携などもポイントとなる。

2025年4月中旬時点で、中古車市場には75台程度が流通しており、支払総額の価格帯は340万~780万円。流通量はRWDモデルが45台程度とパフォーマンスより若干多くなっている。
 

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文/編集部、写真/テスラモーターズ