三菱 ランサーエボリューションVIの魅力を再検証! 中谷明彦が語る開発秘話は? Z世代モータージャーナリストはランエボ試乗で“良さ”がわかるのか? 【カーセンサー中谷塾】#1
2025/03/19

過去の名車にZ世代のモータージャーナリストが試乗!
「昔の車は良かったなー!」
車が好きな諸先輩方はそう言うことが多いけれど、どんなところが良かったの? Z世代の私でも「良い」って思えるの?
本企画は、Z世代の駆け出しモータージャーナリスト・瀬イオナが、師匠と仰ぐ中谷明彦さんから、名車と言われる過去のモデルを中心に車のことはもちろん、デビュー当時のエピソードなどを振り返りながら教えてもらい、実際に試乗してみようという企画。
その名も「カーセンサー中谷塾」
懐かしい車たちの魅力を掘り下げ、その輝かしい歴史を後世に引き継がせてもらおうじゃないか。
記念すべき第1回は、中谷さんも開発に携わったという三菱の名車、ランサーエボリューションVIだ。

自動車ジャーナリスト
瀬イオナ
車メディアの雑誌編集部員を経て、2024年にフリーランスとして独立。「走って書ける」自動車ジャーナリストを目指して修行しながら、若手ジャーナリストとして活動中している。車業界に入ったきっかけは、某動画で中谷明彦師匠を見つけたこと。現在に至るまで「ドライビング」はもちろん「ジャーナリスト」の心得など業界におけるすべてを教わりながら日々鍛錬中である。趣味はドライブ、レーシングカート、サウナ。

レーサー/モータージャーナリスト
中谷明彦
武蔵工業大学工学部機械工学科卒(塑性工学専攻)。大学在学中よりレーサー/モータージャーナリストとして活動。1988年全日本F3選手権覇者となるなど国内外で活躍中。自動車関連の開発、イベント運営、雑誌企画など様々な分野でのコンサルタントも行っている。高性能車の車両運動性能や電子制御特性の解析を得意としている。1989年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員として就任。1997年よりドライビング理論研究会「中谷塾」を開設しF1パイロット・佐藤琢磨らを輩出。
中谷明彦さんも開発に携わった三菱 ランサーエボリューションVI



中谷塾長! 記念すべき第1回目の連載ということで「ランサーエボリューションVI」を用意してみました!

懐かしいね~。僕はランエボⅤから開発に関わっていたんだ。

ということは1998年に国内で発売された時ですね。携わったきっかけはなんだったんですか?

メーカーから率直に速くしてほしいって相談されたのが最初かな。オフロードのラリーでは速いが、ターマック(舗装路)でも速くしたいと三菱は考えていたみたいで、どうすれば速くなりますか? って問われたから、速くなるアイテムやセッティングなどをいろいろ提案してどんどん開発に携わっていったんだ。

「速くしてほしい」ってすごくシンプルな依頼ですね(笑)。

三菱はラリーやジムカーナで速くて盛んだったけど、サーキットレースでも活躍させたいと言うので、携われるのはとても光栄だったよ。ただ年間の開発予算は決められていてすべて変えるわけにはいかなかったから、最終モデルのランエボⅩのファイナルエディションまで、コツコツと実現させていった感じになるね。

実は連載が始まると決まったときから、最初はランエボにしようと心に決めていました。ランエボVIでの開発では、主にどんなところに携わったんですか?

まずは、フロントだね。Ⅴまではナンバーが真ん中でその両サイドにフォグランプが配置されていた。それでサーキットを走ると、後ろにあるインタークーラーが冷えにくくなってしまっていたから、ナンバーは左側オフセットさせて、フォグランプは両外側に配置し直して、走行時に直接受ける風を多くなるように見直したんだ。


フォグランプはサイドに寄せると重いのは付けられないから小さくなってしまう……といろいろ言われたけど、僕はそれでよかったんだ。だって軽量化につながるし、想像してみてほしいんだけど、ラリーでカウンター当てて曲がっていった先は当然、サイド部分からコーナー出口を向いて抜けていく。車体の端にフォグランプを配置すれば、コーナー出口を少しでも早く照らせるでしょってね。サーキット走る人に向けて、少しでも軽くするためにフォグランプを外してカバーを付けるパーツも出したんだよ。

なんと! この顔のデザインは中谷師匠が携わっていたんですね。

ゴツゴツした迫力ある顔にしたかったし、このデザインは自信を持ってオススメできる。Z世代の若者からみても、眺めていてやっぱりいいと思わない?

見た目がゴツゴツといかつくて個人的にはタイプなお顔です。私、車を運転しているときってロボットを操作しているようで、なんだか自分がパワーアップしたような感じになるんです。それが好きで、自分でもマニュアル車に乗っていろいろドライブに行ったりレースしたりするんですが、ランエボは相棒にしたい、そんなロボット感がたまりません!

あ~、「アムロ行きまーす!」的なね。わかるわかる。



師匠が出演していた当時のバトル映像を見ていたのですが、なんだか戦闘力がとても上がっている印象でした。中身も一新したんですか?

実際、先代のVに比べてとても速くなったよ。でもそれはサーキットではの話で、ラリーやジムカーナ勢にとっては速くなくなってしまう場合があるんだよね。

え、それってどういうことですか??

フロントロールセンターのセッティングが関係していて、社内でも議論が白熱したときがあったんだけど、僕は「上げろ」と言った。高くすることでハイスピードでコーナーを曲がってもロールしないんだよ。安定して駆動力がかかっているから、速くてゼロカウンターのような走りができたんだ。一方で、ラリーやジムカーナ勢からは「下げて」くれと言われていた。それはステアリングをたくさん切ったときに内輪タイヤもきちんと地面に接地させて曲がらないとダメな状況。そのためにはフロントロールセンターは下げないといけないんだよね。

ターマックで速く走るか、ラリーやジムカーナで速く走るか……悩みどころですよね。

三菱は相当迷ってたけど、結局じゃあ2種類出しましょうってことになった(笑)。ロールセンターを下げたものを用意して、サーキットを走る人に向けて30mm高くしたオプション設定を用意しますって。今じゃ考えられないよね。当時の三菱はやること違ったよ。


え、すごいですね! そんなエピソード知ってるランエボオーナーさんはなかなかいないんじゃないですか!? 確か、ランエボⅥは足回りの材質も変更したんですよね?

お、よく勉強しているね。フロントはストラットで、リアにはマルチリンクのサスペンション形式を継承採用しているんだけど、アーム類を最大限アルミニウム化で軽量化して動きを良くしたんだよ。フロントボンネットとフロントフェンダーもアルミにしてここでも軽量化してるんだ。

とてもコストがかかっていることが伝わりますね。

あの時代はアルミを使うということに対してコスト面でとても勇気がいることだったけど、それを三菱はやったんだから本当にすごいよ。

先代のランエボⅤと今回のVIではオーバーフェンダー化されていますが、それはどうしてでしょうか?

速い車を作るためには、やっぱり太いサイズのタイヤを装着させる必要があって、それを実現するためにオーバーフェンダー化するという労力をかけたんだ。
見た目に見合わず、街中でもすんなり運転できる

それにしてもなんだか内装が実家に戻ってきたような安心感がありますね。

イオナ君の愛車が三菱 パジェロミニだからじゃない? そう考えると、こういう車の雰囲気が軽自動車にも反映されているってすごいと思わないかい? 三菱はハイパフォーマンスカーから軽自動車までこだわって作っていたことが伝わるよ。そろそろ実際に運転してみようか。


あれ、MOMOのステアリングだ。もともと純正だったんですか?

そうだね。MOMOは性能がいいし、3本スポークのエアバッグが綺麗に収まって、デザイン的にも良いと思ったよ。走ってみてどう?

なんだかクラッチのつながる場所が随分と手前な感じがします。

僕にとっては違和感なかったけど、状態は悪くないはずだから、きっと手前だと感じるのは個体差かもね。今回の試乗車が33万kmも走っている個体だということを考えると、いかに頑丈な車なのかということががわかるよね。


一度発進させると、いい意味で普通というか、気難しさもなく扱いやすいですね! 見た目が強そうで迫力満点だったから、運転にも身構えていたのですが、街中でもすんなりと運転しやすくて驚いています。

ランエボは4ドアセダンで室内も広くて、普通の乗用車としても使えるというのが魅力の一つでもあったんだよ。それなのにサーキットを走るとゼロカウンターを当ててすごい迫力ある走りができたのが世界中で話題になったくらい! レースやラリーでも速くて一般車としてもレース車としても大活躍だったんだ。四輪駆動で全天候型の最速セダンと呼ばれていて、雨のレースではポルシェやGT-Rを破って総合優勝したこともあるんだよ。

頼もしすぎる1台ですね!

その速さを実現したのが、今の三菱車にも使われている「アクティブ・ヨー・コントロール(AYC)」が搭載されたことも影響しているんだよ。ただしそれは、一般道を普通に走っていても感じ取るのは難しいかもしれないね。

じゃあそれはサーキットで試していただくしかないんでしょうか?

一般道だと、山道で雨が降って路面が濡れていたり、高速道路でレーンチェンジなどをすれば安定性の良さで感じ取れるかもしれないね。フロントにはトルセンのLSDが標準装備されているから、これもランエボらしい速さを引き出すうえでは効果抜群だったよ。

運転していると普通の乗用車っぽく感じますけど、実はすごいメカニズムを操っているということなんですね。エンジンもターボが付いているのに、低速トルクが豊かで私も一度もエンストせずに、走らせることができました。シフトフィールもカチッカチッとした操作感でなんだか普段の愛車パジェロミニと似たような運転感覚が感じられます。これが三菱車の乗り味っていうことですか?

そうだね。低速トルク、頑丈なトランスミッション、その組み合わせがそうした操作感を33万kmも走った現在も維持できていたというのは感心させられるよね。

それが「三菱車の乗り味」というわけですね。ひとつ勉強になりました! 今日は講義、ありがとうございました!
【イオナの感想】三菱 ランサーエボリューションVI
初めてのランエボ、26年経つ車。
私が普段パジェロミニという小さめの車に乗っているということに加え、迫力あるフロントバンパーやリアウイングなどから、とても大きな車に見え少々戸惑いました。
しかし、乗り込んでみると全然大きな感じはせず、むしろコックピットからの見晴らしの良さに驚きました。もともとのランサーはファミリーセダンであったことの実用性がそのまま生かされている感じです。
四輪駆動でターボエンジンのマニュアル車というと発進が気難しそうですが、エンストすることもなく初めて乗る私を素直に受け入れてくれたように感じ、意外なほど運転しやすいのです。もちろん今の車と比べればナビがなく、メーターもアナログですが、過剰な演出感がなくて個人的には好印象でした。
そんな第1回ランサーエボリューションⅥの私のイチ推しポイントは「リアウイング」です!
フロントマスクと迷いましたが、羽を2枚に設計し空力にこだわったというリアウイング。全体的に走りに特化して検討されたのはもちろんですが、フロントマスクは取り込む空気の流れをとことん考え、リアは抜ける空気までこだわり、見た目は大きなサイズ感にも関わらず、運動性のことを考え信じられないほど軽く設計してあるというのが印象に残りました。

一般道での試乗ということで、高速域での試乗は体験できなかったので、機会があればサーキットで走ってリアウイングの効果を体験してみたいと思いました!
ちなみに、プラットフォームがランエボVIIから新しくなるため、オーバーフェンダーデザインを楽しめるのはランエボⅤとVIだけ。そして中谷塾長のおっしゃるとおりⅤからVIで走りが進化し、トミーマキネン仕様が出るなどさらに速くなってカッコいいと印象に残っている方も多いはず。
最近ではあまり見られなくなった「ゴツゴツしたデザイン」も、今あえて乗りたいと思えるポイント! ぜひオススメしたいモデルの1台となりました!
