スバルWRX ▲スバル WRX STIの最終型を探している人は、同時期のCVT車である先代WRX S4のことをどこか敬遠しているというか、「STIと比べると格落ち感があって嫌かも……」と感じているかもしれません。しかしWRX S4は決して格下ではありませんし、むしろ、ある種の人にはSTI以上に向いているかもしれませんよ!

STIとS4の関係は「上下関係」にあらず!

いわゆるひとつの車好きであれば、かなりの割合で「気になる!」という人が多いはずのスバル WRX。特に、世界ラリー選手権で大活躍した初代インプレッサWRXの末裔であり、名機と言われるEJ20型ターボエンジンを搭載した最終型スバルWRX STI(2014~2021年)の中古車に興味津々な人は多いでしょう。

しかしその半面、最終型WRX STIと同時期に販売されていた「先代WRX S4」の方は、いささか軽んじられているというか、「STIよりも下の存在」とみなしている人も多いような気がしています。

ご承知のとおり先代スバル WRXは「STI」と「S4」という2種類のモデルに分かれています。「WRX STI」は300ps超のEJ20型2L水平対向4気筒ターボエンジンにハードなシャシーと6MTを組み合わせた超スポーツモデルで、「WRX S4」は300psのFA20型2L水平対向4気筒ターボにCVTを組み合わせたスポーツセダンです。

で、S4の方は「しょせんはCVT」「エンジンが名機EJ20じゃない」みたいなニュアンスで“格下”に見られる場合も多いわけですが、先代スバル WRX S4は、決して「STIの下位に位置するモデル」ではありません。両者の関係は“上下”ではなく“左右”なのです。つまり「個性が違う」ということです。

スバル WRX▲こちらが最高出力300psのエンジンにCVTを組み合わせた先代スバル WRX S4
スバル WRX▲そしてこちらは同時期に販売された、EJ20型エンジンに6MTを組み合わせたスバル WRX STI

それゆえ、もちろんある種の人には最終型STIがハマるのですが、別のある種の人が「“格下”は嫌だから」という勘違いにもとづく理由で最終型STIを買ってしまうと、「こんなはずじゃなかった……?」というミスマッチに終わってしまうかもしれません。

それでは、そもそも先代スバル WRX S4の個性とは何なのでしょうか? そしてどんな人が、最終型STIではなく先代S4に乗るべきなのでしょうか?

先代スバル WRX S4の具体的な中古車価格情報を交えながら、そこについて考えてまいりましょう。

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スバル WRX(初代) ×S4× 全国
 

【モデル概要】STIとはエンジンとトランスミッションなどが異なる4WDスポーツセダン

とはいえ、まずはごくごく簡単に先代スバル WRX S4のプロフィールを振り返っておきます。

先代スバル WRX S4は、2014年8月に「WRX STI」と同時に発売されたフルタイム4WDのスポーツセダン。WRX STIとの違いは、STIが「EJ20」という昔からある伝統的なエンジンを搭載したのに対し、S4には同じ2L水平対向4気筒ながら、燃費と環境性能も重視して設計された「FA20DIT」が搭載されました。

そしてトランスミッションも、STIは初代インプレッサWRXから連綿と続くマニュアルトランスミッションであるのに対し、S4はスバルが「スポーツリニアトロニック」と呼ぶCVTが採用されています。とはいえ、ボディサイズとホイールベースは両者とも同一で、エクステリアデインも――もちろん少し違いますが――おおむね同じです。

スバル WRX▲世代やグレードによって細部は微妙に異なるが、先代WRX S4のエクステリアはおおむねこのようなデザイン。スリーサイズとホイールベースは、超スポーツマシンであるWRX STIと同一
スバル WRX▲インテリアデザインはこのような世界観。写真のグレードは2.0GT-S

先代WRX S4の基本となるグレードは「2.0GTアイサイト」で、そこにハイラスター塗装の18インチホイールとビルシュタイン製の専用ショックアブソーバー、トランクリッドスポイラーなどを加えた上級グレードが「2.0GT-Sアイサイト」。

その他に「tS NBR CHALLENGE PACKAGE」などの限定車があり、2020年7月からは2.0GTおよび2.0GT-Sに代わって「STI Sport」というグレードに一本化されました。

そして2021年11月、現行型のWRX S4へとフルモデルチェンジされた――というのが、先代スバル WRX S4の大まかなプロフィールです。

 

「EJ20エンジンじゃない」という点はどうなんだ?

先代スバルWRX S4が最終型WRX STIよりも格下であるとのイメージを形作っている大きな要因のひとつとして、「エンジンがEJ20ターボではない」というのがあるでしょう。

EJ20ターボエンジンとはご承知のとおり、1989年の初代レガシィに初搭載されて以来、長らくスバルのトップスポーツモデル用エンジンとして改良が続けられてきた伝説の水平対向エンジン。モータースポーツの分野でも大活躍し、高回転型の基本設計であるため、高回転域ではかなり強烈な加速感が味わえるユニットです。

しかし先代WRX S4はエンジンがそれではなく、低回転域から強大なトルクを発生させることで環境性能を向上させたFA20型であるという点が、マニアに言わせれば「格下っぽい」ということになるわけです。

スバル WRX▲先代WRX S4に搭載されたFA20水平対向4気筒ターボエンジン。300psの最高出力と400N・mの最大トルクを発生するが、伝統の高回転型ユニットであるEJ20と比べると、実用回転域での特性を重視する環境性能配慮型ではある

しかしどうなんでしょうか。「MTを駆使してギンギンの高回転域を維持しながら、目を三角にして峠道や高速道路をかっ飛びたい!」という人には、確かにEJ20の方がいいでしょう。しかし筆者が知る限り、そんな運転を日常的にしている人の数は、日本の全人口の0.01%にも満たないのではないかと思います。

たいていのドライバーは――特にある程度以上の年齢のドライバーは、「ごくたまにぶわっとエンジンを回すこともありますが、主には低~中回転域を使って安全に、『その範囲内でのスポーツ性』を楽しんでいますよ」というような運転をしているはず。

もしもそうであるならば、高回転域に強いEJ20でなくても良いというか、「実用回転域の特性を重視しているFA20の方が、むしろ好ましい」と言えるのではないでしょうか。

そしてもちろん燃費性能もFA20のほうが優秀ですので、目を三角にしないでごく普通に乗りたい大人としては、ますますFA20が好ましいわけです。

とはいえ、車に対する考え方や感じ方というのは、こういった数値や常識だけで決まるものではないため、これは「どちらが正しいか?」という話ではありません。「それでも自分はEJ20を搭載するSTIが欲しいのだ!」と思うのであれば、それはそれで大正解でしょう。

しかし「……よく考えてみれば、最近は4000rpm以上なんてほとんど使ってないかも?」というタイプの人であれば、必ずしも名機EJ20ターボである必要はない――という話です。

スバル WRX▲ごく希に飛ばし気味に走ることはあったとしても、普段はおおむねジェントルな運転を心がけているはずの現代人。ならば、高回転域に強い「EJ20」に過剰にこだわる必要はないとも言えるはず
 

「CVTなのがどうも……」と言われているが?

先代スバルWRX S4が最終型WRX STIよりも“格下”と見られがちな要因は、エンジンの型式以上に「トランスミッションがMTではなくCVTだから」という部分がデカいのかもしれません。

先代WRX S4のトランスミッションがCVTではなく8速ATとかなら良かったのですが、先代S4はあいにくCVTです。

そのため、どうしても急発進時や急加速時にはCVTっぽい感触、すなわち「先にエンジンの回転だけがぶわーっと上がり、その後から速度が付いていく」という、あのちょっと気持ち悪い感触が付きまとうわけです。

スバル WRX▲先代WRX S4のトランスミッションは全車、スバルが「スポーツリニアトロニック」と呼んでいる高トルク対応型のCVT。深くアクセルを踏み込んだ際は6段の、「SIドライブ」でS♯モードを選択すると8段の疑似ステップ変速が行われる

現行型のスバル WRX S4が採用した「スバルパフォーマンストランスミッション」という新型CVTは、SまたはS#モード選択時にはDCT並みに電光石火の変速を行う素晴らしいCVTです。

しかし、先代S4の「スポーツリニアトロニック」は、普通に走っているときは何ら問題も違和感もないのですが、急発進時や急加速時には確かに、自動車メディアがしばしば「CVTの悪癖」と表現する“あの感触”が少し顔を覗かせます。

それゆえ、「6MTのWRX STIと比べれば、CVTのS4なんてぜんぜんイマイチだよ」という見解が世の中に生じるわけですが……しかしどうなんでしょうか?

というのも、今どきの「常識ある大人」が公道で急発進や急加速をする機会など、実はそうそうないからです。

いやもちろん、緊急回避を行うためにあえてアクセルペダルをがつんと深く踏むことは希にありますし、登りの高速道路などで諸般の事情により、グッとアクセルを踏んで追い越しをかけなければならないケースも、希にあるでしょう。

しかしそういった踏み方をするのは、「常識ある大人」である限り“希に”でしかありません。

ということは、先代WRX S4の「CVTっぽくてちょっと嫌な感じ」を味わう機会も、実は希でしかないのです。

「そんなレアケースすらも許さない! 自分は絶対に嫌だ!」という人に対しては、最新の設計ではないCVTを搭載している先代のWRX S4をオススメすることはできません。また「車の変速機はMT以外認めない!」という人にも、当然ですがオススメできません。

しかし、もしもあなたがそこまで極端な人でないのであれば、先代スバル WRX S4のトランスミッション問題については「特に気にする必要はない」というのが正味の答えになります。

スバル WRX▲おそらくはこれをお読みの各位も、アクセルペダルをガバッと踏み込む機会など非常に少なく、パッセンジャーのことや周囲の安全を考えながらじんわりと踏んでいるはず。であるならば、いわゆるCVTっぽさが顔を覗かせる機会なんてほとんどなかったりもするのだ
 

WRX S4の美点:アイサイトが付く&同条件なら約200万円は安い?

前章までは「一般的に先代WRX S4のネガと思われているが、実はそうでもないポイント」について述べました。ここでは逆に「先代S4の方がむしろ最終型STIよりも優れているのでは?」と思われる点について述べましょう。

まずは燃費。これはもう客観的な事実として「先代S4の方が優れている」と言ってしまっていいはず。もちろん燃費というのは運転の仕方によって大きく変わるものですが、2018年6月の年次改良モデルのJC08モード燃費はWRX STIが9.4km/Lであるのに対し、WRX S4 2.0GTアイサイトは13.2km/L。実燃費も――もちろんオーナーや運転方法、走行する地域などによって変わるのですが――おおむねこのぐらいの違いがあります。

まぁ先代WRX S4にしたって決して燃費がいい車でもないのですが、「それでもやはり燃費は少しでもいい方がありがたい!」と思うのであれば、有利なのはSTIではなくS4です。

お次は「アイサイトの有無」です。

スバル アイサイト▲写真上は前期型に搭載された「アイサイトver.3」の説明図版。2017年7月以降の後期型からは、より高性能な「アイサイト ツーリングアシスト」に刷新されている

ご承知のとおり、近年のスバル車は「アイサイト」という優秀な運転支援システムが付いていることも大きな魅力なわけですが、最終型WRX STIには、残念ながらアイサイトは搭載されていません。

しかし、先代S4は発売当初から「アイサイトver.3」が標準装備で、2017年7月の大幅改良からは「アイサイト ツーリングアシスト」に進化。

車線中央維持機能の作動領域が、従来60km/h以上だったものが0km/h以上から作動するようになり、先行車追従操舵機能も追加。またこのとき、スバルの国内仕様車としては初めて「後退時自動ブレーキシステム」も搭載されました。

サーキット専用車であればまったくいらないこれらの機能ですが、スポーツカーとしてだけでなく「普通の車」としても使うのであれば、転ばぬ先の杖としてのアイサイトは、絶対にあった方がいい重要装備だと言えます。

その他、「デザイン」についても――これは単なる個人的な意見になってしまいますが、大仰なリアウイングが付いている最終型WRX STIより、控えめなトランクリッドスポイラーが付いているか、またはトランクの上部には何も付いていない先代S4の方が「大人っぽくてカッコいい」ように思えます。

先ほど申し上げたとおりこれは単なる個人的な意見ですが、とはいえご賛同いただける“大人”は多いような気がしています。

また大型のウイングがお好きな場合は、先代S4でもオプションのそれを装着している中古車がたくさんありますので、そちらをお選びになれば万事解決するでしょう。

スバル WRX▲大げさなリアウイングがないこのフォルムが逆にカッコいいと筆者は思いますが、どうでしょう!

さらに先代スバル WRX S4には、「中古車の価格が最終型STIよりもぶっちゃけお安い」という美点(?)があります。

例えば、2018年式で走行2万km台ぐらいの中古車を探したいとなったとき、最終型WRX STIだと総額550万円前後にはなるのが一般的ですが、先代WRX S4であれば、同条件の物件を総額330万円前後で見つけることができます。

物事というのは「安けりゃいい」ってものではありませんが、とはいえ200万円以上の違いというのは、おサイフに与えるインパクトがずいぶん変わります。

このあたりも、「STIもいいですが、S4にも注目してみた方がいいんじゃないですか?」と言いたくなる大きな理由です。

スバル WRX▲とはいえ決して「格安な車」ではない先代WRX S4の中古車なわけだが、このクオリティの本格4WDスポーツセダンを総額300万円前後で狙えるというのは、相対的に見れば「お手頃!」と言えるはず
 

【中古車のオススメ】好バランスなのは総額300万円前後の後期型

2022年10月下旬現在、先代スバル WRX S4の流通量は約330台と豊富。中古車価格は総額120万~490万円ほどで、上下にけっこう幅広い状況となっています。

その中で「好バランスな1台」を狙いたいと思うのであれば、注目すべきは「2017年6月以降の後期型で、支払総額300万円前後」に位置している一群の中古車でしょう。

スバル WRX▲「D型」または「アプライドD」と呼ばれている、2017年7月の大幅改良を経た世代

2017年7月の大幅改良では前述のとおりアイサイトがver.3からツーリングアシストに進化し、足回りも前期型よりしなやかなものに変更されました。お安い前期型を狙うのも決して悪くはないと思いますが、「中古車として好バランスな先代S4」が欲しいのであれば、やはり後期型です。

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スバル WRX(初代) ×S4系グレード×2017年6月~2021年11月生産モデル×総額280万~320万円×全国

とはいえ、「もっとお安い総額で狙いたい」となる場合には、「2015年7月から2017年6月のB型/C型と呼ばれる世代で、支払総額250万円前後の物件」がいいでしょう。

これ以前の最初期型(A型)はさらにお安い総額でイケるのですが、最初期世代は足回りが非常に硬いため、普段使いをメインにするのであればちょっとした苦行になります。

しかし、2015年7月の年次改良でサスペンションは若干しなやかなになり、同時に静粛性なども改善されましたので、選ぶのであれば断然こちらでしょう。走行4万km台ぐらいの物件が、おおむね総額250万円前後で見つかるはずです。

▼検索条件

スバル WRX(初代) ×S4系グレード×2015年7月~2017年5月生産モデル×総額230万~270万円×全国
スバル WRX▲もしもMTであることや「伝統のEJ20!」といった部分に過剰な思い入れはないのだとしたら、WRX STIをなんとなく検討中の人もぜひ一度、先代WRX S4について真剣に考えてみてほしい

その他、スバルテクニカインターナショナルがチューンを担当した特別仕様車「WRX S4 tS」を総額380万円付近で狙ってみるのもマニアックで素敵な試みです。

▼検索条件

スバル WRX(初代) ×S4系グレード×2015年7月~2017年5月生産モデル×総額360万~400万円×全国

いずれにせよ先代スバル WRX S4とは、ここまでご紹介してきたとおり「STIの下位互換車」ではなく、「STIと並列に存在するキャラ違いのモデル」です。

そしてそのキャラクターは、いわゆる“大人”に向いていると考えられます。

考え方や趣味嗜好はもちろん人それぞれです。しかし、もしも先代世代のスバル WRXを探すなら決してSTI一辺倒にはならず、S4についても柔軟にチェックしてみることを、強くオススメいたします。

▼検索条件

スバル WRX(初代) × S4系グレード×全国
文/伊達軍曹 写真/SUBARU
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。