“キャデラック▲本国では富裕層に絶大な人気を誇るフルサイズSUV。アメリカンラグジュアリーブランドであるキャデラックのフラッグシップでもある

この視界の高さはストレスフリーだが……

全幅と全高が約2m、全長に至ってはなんと5.4m近い。はた目にはもちろんのこと、遠目にもデカい車など、普通の乗用車ではないサイズなのだからそうそう運転する機会はない。よじ登るようにして乗り込めば、果たして運転席からの眺めはほとんどバスだった。

実際、走り出して見れば並んだバスやトラックと同等の高さに感じるし、背の低い車から眺めていたときには「でっかいツラしやがって」と思っていたGクラスがジムニーくらいに、アルファードならワゴンRくらいに見える。ロールスロイス ファントムが並んでも気持ちで負けるということがない。

そこでハタと膝を打った。どうして人はむやみに大きな車に乗りたがるのだろうと常々疑問に思っていたことの答えがこれだったのか、と。つまり見ず知らずの車への警戒心が薄まり、どんな車に出合っても萎縮することがない。つまりストレスフリー。
 

キャデラック エスカレード▲先代モデルより全長は187mm、ホイールベースも121mm大きくなった。ちなみに左ハンドル仕様のみをラインナップ
キャデラック エスカレード▲センサーで路面状況を読み取り減衰力を調整するショックアブソーバーを備えるエアサスペンションを装着

とはいえ、さすがにこれだけ大きいボディサイズとなれば、運転そのものがストレスになるんじゃないか。乗る前にはそんなふうに思っていた。ところがどうだ。高速道路はもちろん、京都の街中でもさほど苦労しない。バスが走っているのだから(走らないわけがない)、という気持ちの切り替えもさることながら、意外にもよく言うことを聞いて動いてくれる。旧型に比べて新型のフットワークには随分とドライバーとつながって動く印象があった。

街中での乗り心地もかなり改善されている。少なくとも新型ランドクルーザーよりはいい。タイヤの種類にもよるけれど、動きが全般的に滑らかでモダンだ。トラック風味はもうほとんど残っていなかった。

圧巻だったのは高速ドライブで、55マイル=90km/h前後のクルージングが最高に気持ちいい。4つのタイヤが極めてスムーズに回っているという印象を受けた。さらには、その上のアウトバーン領域(120km/h前後)でもバタつくことなく、アシの動きにしっかりと踏ん張った感があって安心して身を任せていられる。どうして急にこれほどまでモダンになったのか。キャデラックのエンジニアに聞いてみたい。XT6やXT5といったモノコックボディSUVが優れているのは当然だとしても……。ブランドとしての乗り味改革のようなものがあったのだろうか。ちなみにエスカレード、燃費はやはり悪い。街中で4km/L。でも、高速では意外に踏ん張って10km/Lだった。気筒休止が利いている。

ボディサイズの大きさを不安に思ったことが一度だけあった。それは首都高の池尻ジャンクションで、あの渦巻を定速で回っているとさすがに大きさによる遠心力を感じてしまった。それ以外、不安はほとんどない。
 

キャデラック エスカレード▲国内にはプラチナムとスポーツ(写真)をラインナップ。スポーツはブラックのトリムやグリルでスポーティな仕立て
キャデラック エスカレード▲最高出力416psを発生する6.2L V8 OHVエンジンを搭載。10速ATが組み合わせられる

結局、みんながSUVに乗りたがる理由は、カタチが好きだということもあるだろうけれど、それにも増してあの着座位置が欲しいだけなのではないか。ミニバン以降、着座位置はセダンよりもはっきりと高くなり、回りがどんどん高くなっていくにつれて自分もそれに合わせて高くしなければなんとなく落ち着かない。一度高い車に乗れば、低い車に戻ることなど眼中になく、逆に、より一層大きなモデルに乗りたくなっていく。

その行き着く先がエスカレードかもしれないが、さすがにそれじゃエスカレートしすぎ、というわけで、多くのユーザーはアルファードやランクル、Gクラスで落ち着くということなのだろう。そのクラスでもほとんどの場合、他の車を見下ろしながら運転することができるのだから。

“いきなりキング”。SUV嫌いが意を決して乗るにはかえって都合がいいかもしれない、と一瞬思ったけれど、やっぱりこの眺めはSUVなんかじゃない。超えている。マイクロバスの視界が必要だとすれば、それはやっぱり同じようなサイズがウヨウヨいる場所、アメリカで暮らすときだろう。
 

キャデラック エスカレード▲湾曲形状で視認性を高めたOLEDディスプレイを採用。車両周辺を鳥瞰図で表示するサラウンドビジョンも備わっている
キャデラック エスカレード▲ウッドとレザーを用いたインテリア。AKGのオーディオシステムを車では初めて採用。前後乗員の声を内蔵マイクで捉え、スピーカーから出力してくれるシステムも備えている
キャデラック エスカレード▲独立懸架リアサスペンションの採用で室内フロア高を低く抑えることで室内空間を拡大。3列目シートのレッグルームも先代より約40%広くなった
文/西川淳 写真/タナカヒデヒロ

自動車評論家

西川淳

大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。