フィアット パンダ クロス 4×4▲国内では2020年に150台限定で登場したクロスオーバーSUV。新車時価格は263万円

ガレージに「SUV」が10年近くある理由とは

「SUV嫌い」なんて公言して偉そうに最新SUVのイチャモンばかり言うとるけど、アイツほんまはSUVに乗ってるんやで、などとチクられないうちにコクっておこう。

何を隠そう実はもうかれこれ10年近く、わが家のガレージには小さいながらもSUVカテゴリーに入る車が鎮座している。しかも今ある車が3台目。嫌いどころか好きじゃないか! と言われても反論できない状況だったりする。最初がジムニーシエラで、その次はパンダ4×4、そして今は本稿の主役、黄色いパンダクロスだ。

どうしてSUV嫌いなはずの筆者が3台も乗り継いできたのか。今回はその話(言い訳)をしつつ、なぜSUV嫌いだと言っているのかについても語ってみたい。この話、実は裏腹だったりするので。
 

フィアット パンダ クロス 4×4▲最高出力85ps/最大トルク145N・mを発生する直列2気筒ターボのツインエアエンジンを搭載

まずは時を戻そう。10年前、なぜ私はジムニーを買ったのか。

正直に言って、ジムニーをSUVだと思ったことなどない。SUVなんて洒落た言い方でくくっていいほど、この車はナンパではない。ジムニーは本格クロカン四駆というべきで、男の子なら誰もが一度は憧れるモデルだ(と勝手に思っている)。いつかはジムニーを買って、泥んこ遊びに明け暮れたい。災害時や悪天候時のサバイバルツールとしても有効だ。そんなわけで、京都へ本拠を移すと同時にジムニーシエラを手に入れることになった。

もうひとつ、ジムニーでなければダメな理由もあった。

京都は狭い路地が街中を縦横無尽に張り巡らされているうえ、大通りは大通りで市バスやら観光バスやらの大型車両と、バイクやら自転車やらの軽車両がわがまま放題に走り回り、その間をタクシーがわが物顔で走り抜けるような、マイカー移動にかなり難儀な街である。できるだけ幅が狭くて、視線の高いモデルが適していることは明らか。

さらに、自家用車はカミさんも使う。彼女は、昔からマニュアルミッション車しか乗らない。5ナンバーサイズで背がそれなりに高く、3ペダルの車となると、ジムニーシエラかパンダ4×4しか選択肢はなかったのだ。ジムニーに乗り、パンダに乗って、今もまたパンダとなったわけだけれども、京都のアシとしてこれらが最適だったというだけで、流行りのSUVを買ったなどとは全く思っていないのだった。

では、どうして憧れのジムニーからパンダに乗り替えることになったのか。

ジムニーを買ってみたものの、泥んこ遊びに出かける暇なんてなかったし、雪の日にわざわざ冬用タイヤに履き替えてドライブする覚悟もなかった。これじゃ宝の持ち腐れだ。さらに、たまに高速道路を使って奈良の実家までドライブ(70kmくらい)するのだが、5速しかないうえに高速クルージングがお世辞にも得意だとは言えなかった。街中でのいかにもクロカン的な、大きなタイヤの存在を感じさせすぎる乗り味も今ひとつ好きになれず。

そんなとき、久しぶりにパンダに乗ってみれば、これが存外に良かった。しかも4×4なら6MTのみというあたりもコチラの希望にもぴったりマッチする。というわけでジムニーシエラからパンダ4×4へと乗り替えることになった(ジムニーシエラは驚くほど高く売れた)。
 

フィアット パンダ クロス 4×4▲「CROSS」ロゴの入った専用シートを装着。前席にはシートヒーターが備わる

ツインエアエンジンをMTで操るフィールが何とも楽しい

そして、昨年秋のこと。FCAジャパンからパンダクロスを日本導入するというリリースが舞い込んだ。パンダファンにとっては並行輸入物しか乗るチャンスのなかったモデル。限定車(日本150台)ながら正規で輸入されると聞いて、冷静でいられたパンダファンなどいなかったに違いない(きっと)。しかも、色は鮮やかなパステルイエローで自分好み。パンダに乗り替えて2回目の車検を迎える半年前、というタイミングも良かった。そろそろ気分転換したいかも、と、日頃は財布の紐の堅いカミさんも口にするようになった矢先のことだったから。

こうして昨年の12月上旬に、黄色いパンダクロスがわが家にやってきた。

実はパンダ、本国では一足先にマイナーチェンジを終えている。ひょっとするとこの限定車のクロスがマイチェン前の“旧型売れ残り一掃セール”だったのかもしれない(国産でもよくある話)けれど、マイチェン後でもクロスの外観はさほど変わらず、ホイールデザインが新しくなって、ディテールのカラートーンが変わる程度だからさほど気にならない。むしろ、立派なインフォテイメントシステムが備わって、安全装備も充実、マイルドハイブリッドの1Lガソリンエンジンが新たに設定された、なんてあたりが悔しいと言えば悔しいけれど、それはさておき気になっていたのが、900ccターボの名機、かの2気筒ツインエアエンジンの処遇だった。

結論から言うとマイチェン後にもツインエアエンジンは四駆モデル用としてラインナップされているようだ(つまり本国には四駆じゃないクロスもある)。けれども、日本市場に再び導入されるかどうか依然として分からない(そもそも、いつマイチェンパンダがやってくるのだろう?)ということもあり、ツインエア好きの筆者は今のうち(=いずれにしてもマイチェン前のmyパンダ4×4のリセールが良いうち)に、と、パンダからパンダクロスへの乗り替えを決心したというわけだった。
 

フィアット パンダ クロス 4×4▲オート/オフロード/ヒルディセンドコントロールが選べるドライブモードセレクターを搭載
フィアット パンダ クロス 4×4▲ミッションは6MTのみを設定。フルオートエアコンが標準装備となっていた

競争激しい欧州Bセグメントの中にあって、兄弟車の500もそうだけれど、パンダはよくできた車だ。とりたててめざましい特徴があるわけではない。けれどもシャシー性能が実に優秀だ。街中から高速、何ならワインディングロードも、ハイレベルでよくこなす。

クロスになって街中での乗り心地にゴムマリ感が少し増した。ポンポンと弾くような感覚が強まっている。とはいえ、クロカン的な揺れでタイヤと車高の高さを感じさせるような乗り味では決してなく、高速走行もこのクラスの背の高いモデルとしては異例に安定する。そして、何よりカントリーロードでのハンドリングがいい。程よくグリップしながら、心地よい姿勢で大小コーナーを駆け抜ける。ツインエアをMTで操るフィールも他では得難い楽しみだったりする。

マイチェン前のモデルだけれども実は改良が入っていて、四駆のセレクターダイヤルが付いた他、待望のシートヒーターも備わっている。これにはカミさんも大満足(小さなシアワセ)。最初は“いかつくなった!”とクロスの新たなマスクに文句をつけていたけれど、見慣れてくるとこれはこれで“可愛いらしく”思えるようになったみたい。

パンダはクロスとなって再び大のお気に入りマシンとなった。逆に大きくて、威張り散らした顔つきのSUVにはいまだ食指は動かない。ハンドリングの自在感が乏しく、ゆらゆらとした乗り心地が嫌、なんてことはもう一昔前のこととはいえ、それでも大きさと重さはいかんともし難く、日頃スポーツモデル(とパンダクロス!)に慣れた身にはどうもしっくりこない。

そこはもう物理の問題だから、この先も劇的に変わることはないだろう。ならば、そんな欠点を補ってもあまりある魅力に溢れたSUVにこれから出会えるのかどうか、にかかってくる。そのあたりが“つけるクスリ”の処方箋となりそうだ。
 

文/西川淳 写真/西川淳、FCAジャパン

自動車評論家

西川淳

大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。