アバルト 124スパイダー▲今回紹介するアバルト 124スパイダーは、右ハンドルのみの設定(写真は欧州仕様)。トランスミッションは6速MTと6速ATが用意された。原稿執筆時点では27台見つかり、うち12台がMT車だった

生産終了のアナウンスに伴い、中古車台数が減り、価格が上昇中

残念ながら今年いっぱい、というかすでに在庫限りで販売が終了するアバルト 124スパイダー。生産終了の影響か、現在中古車の流通量は減少し、価格が上昇傾向にある。

そんな中古車動向を考察する前に、まずはそもそもどんなモデルだったのか振り返ることにしよう。

アバルト 124スパイダーは、マツダ ロードスター(現行・ND型)に独自のパワートレインとイタリアンデザインを載せた、異母兄弟車だ。2015年5月に登場したロードスターに続き、2016年8月に日本でデビューした。

そもそもアバルトとは、フィアット車のチューニングカーでレース界を席巻して名をはせた、カール・アバルトの名を冠したブランドだ。その実力や名声をフィアットが認めて、1971年には同社の傘下に収めている。
 

アバルト 124スパイダー▲「124スパイダー」とは、1966年にフィアットが発売した小型セダン「124」のオープンカー(写真奥)のこと。ピニンファリーナがデザインしたこの名車の名が今回採用された

アバルトは、かつて旧フィアット 124スパイダーをベースに、ラリーカーとして仕立てた124ラリーを開発し、WRC(世界ラリー選手権)で活躍した経験がある。ちなみにイタリアでは、アバルト 124スパイダーのベース車というべき、もう一人の異母兄弟車フィアット124 スパイダーも販売されている。

さて、現代のアバルト 124スパイダーが選んだエンジンは、ロードスターの1.5LスカイアクティブGではなく、アルファロメオのミトやジュリエッタ、アバルト プントエヴォなどにも搭載された、イタリア産の1.4L「マルチエア」ターボエンジン。最高出力170ps/最大トルク250N・mを発揮する。
 

アバルト 124スパイダー▲インテリアは基本的にマツダロードスターと同じ。タコメーターは赤い文字盤となる

これに組み合わされるトランスミッションは、ND型ロードスターと同じ6速ATと、旧型ロードスター(NC型)の6速MT。

サスペンション形式は、ND型と同じ前ダブルウィッシュボーン式/後5アームのマルチリンク式だが、ビルシュタイン製ショックアブソーバー(ND型もスポーツグレードのRSに同社製を採用)を備えるなど、エンジンに合わせて独自のレシピで足回りを味付けしている。
 

アバルト 124スパイダー▲シートはレザー/アルカンターラが標準。オプションでオールレザーも用意された

ホイールベースは、もちろんND型ロードスターと同じ2310mm。ただし、前後オーバーハングを伸ばしたイタリアンデザインにまとめているので、全長はロードスターより145mm長い4060mmとなる。

また、車両重量もロードスターRSより110kg重い1130kg(6速MT車)。前後重量配分はロードスターが前50:後50としているのに対し、アバルトは「最適な重量配分」という表現にとどめてはいるが、ロードスターと近似値であることは間違いない。

170psの1.4Lマルチエアターボは、リニアで伸びやかなフィーリングが特徴の1.5LスカイアクティブGとは違い、2500回転という低回転で最大トルク250N・mを発揮する(ロードスターは4800回転で最大150N・m)ため、中低速で力強く、ターボのパンチ力もなかなかのもの。

リアのトラクションを高めるトルクセンシング式スーパーLSD(ロードスターでは一部スポーティグレードに採用)などを備え、力強く後輪で路面を蹴る。

MT、ATとも「ノーマル」と「スポーツ」から選べるドライブモードセレクターが備わる。スポーツを選べば、まるでサソリ(アバルトのマーク)の毒を注入するかのように、アクセルペダルのレスポンスやパワステのアシスト量、スタビリティコントロールやトラクションコントロールのしきい値がピリッとする。

エグゾーストパイプから聞こえる、野太いサウンドを聞きながらステアリングを握っていると、まるでサソリの毒がいつの間にか全身にみなぎっているかのように、病みつきの快感を味わえることだろう。ちなみに、ロードスターにもドライブモードセレクターが用意されているが、AT車のみとなる。

このように、“兄弟”とはいえ、例えばトヨタ 86/スバル BRZのように、味付けのレシピが異なる、というようなレベルではなく、そこそこ違いのある“兄弟車”。

トヨタ 86/スバル BRZが同じ両親から生まれても育ちが違う兄弟だとするならば、ロードスター/アバルト 124スパイダーは、遺伝子レベルでちょっと違う(だから異母兄弟、あるいは異父兄弟)。ロードスターとは違う、ライトウェイトオープンカーの楽しみを与えてくれる。
 

アバルト 124スパイダー▲ブレンボ製ブレーキを標準装備。横に長いリアライトは往年の124スパイダーがモチーフ

ただ、日本でオープンカーは人気モデルになりづらく、加えて兄弟のロードスターもいる。そのため、販売台数はそれほど多くはない。しかも生産終了とあって、中古車の台数は今後それほど伸びないと考えられる。

そう考えている人が多いのだろう、中古車の平均価格は今年4月に322.8万円を付けたのち、上昇に転じ、8月には2018年1月からの期間での最高値となる370.9万円を記録した。

それに沿うように、カーセンサーの掲載台数も2018年11月の94台をピークに、徐々に減り続け、今年8月には41台となっている。在庫限りの新車を買うか(406万円~)今のうちに程度の良い中古車を探すか。いずれにしろ、早めの行動が肝心だ。
 

グラフ▲こちらは平均価格の推移をあらわしたグラフ。今年の初めからぐいぐいと上昇している
グラフ▲こちらは掲載台数の推移をあらわしたグラフ。減少傾向にあることがわかる

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アバルト 124スパイダー(初代)×全国
文/ぴえいる、写真/アバルト

ぴえいる

ライター

ぴえいる

『カーセンサー』編集部を経てフリーに。車関連の他、住宅系や人物・企業紹介など何でも書く雑食系ライター。現在の愛車はアウディA4オールロードクワトロと、フィアット パンダを電気自動車化した『でんきパンダ』。大学の5年生の時に「先輩ってなんとなくピエールって感じがする」と新入生に言われ、いつの間にかひらがなの『ぴえいる』に経年劣化した。