ポルシェ 911 ▲2世代前のポルシェ 911である「タイプ997」のタルガ4ティプトロニックS。写真はロペライオ練馬が販売する走行2.7万kmの2007年式で、車両本体価格は530万円。カルモナレッドという希少カラーもシブい

近未来の名車または名品に、今のうちから注目しておきたい

こちらは8月27日に発売された雑誌、カーセンサーEDGEに掲載された自動車評論家・MJブロンディさんの人気連載「NEXT EDGE CAR」の、担当編集者から見た「別側面」である。アナログレコードで言うB面のようなものと思っていただきたい。

なおNEXT EDGE CARというのは、「今現在はまだ名車扱いされていないが、近い将来、中古車マーケットで“名車または名品”と呼ばれることになるだろうモデルを探そうじゃないか!」というのが、そのおおむねの企画趣旨である。

で、8月27日に発売となったカーセンサーEDGEの同連載で取り上げた中古車は、2007年式のポルシェ 911 タルガ4。走行距離2.7万kmの低走行物件で、カルモナレッドという希少なボディカラーがなかなかイカしている1台だ。

2007年式ということは、ポルシェ 911としては2世代前に相当する「タイプ997」である。2004年から2011年にかけて製造販売された、3.6Lあるいは3.8Lの水冷水平対向6気筒エンジンを搭載した世代だ。
 

ポルシェ 911▲ポルシェ 911のタルガというのは、その昔は脱着式のルーフとロールバー風のBピラーが特徴となるモデルだったが、4世代前のタイプ993タルガからは「ガラス製スライディングルーフとガラス製ハッチの組み合わせ」という構造に変更されている

そのビジュアルは最新世代とほぼ似たようなもの?

997型のポルシェ 911が「名車」なのかどうか、筆者は知らない。だが少なくとも、「今後、中古車としてはなかなかの名品になるだろう」とは思っている。

そう考える理由は以下の4つだ。

1. いかにもポルシェ 911らしいビジュアル

それがどんなジャンルであっても、長い歴史を持つプロダクトには「らしさ」が必要だ。「これは○○社の□□である」ということが一瞬で伝わるサムシングが、年々改変されるデザインの中に息づいていなければならない。

そういった意味で、3世代前のポルシェ 911である996型は、主にヘッドライト部分のデザインにおいて「911らしさ」が欠けていたため人気薄となったわけだが、こちら997型は、誰がどう見てもポルシェ 911そのもの。まずはそこにおいて「名品」としての条件を満たしている
 

ポルシェ 911▲前身の996型で採用された異型ヘッドライトが今ひとつ不評だったせいか、997型ではポルシェ 911の伝統にのっとった丸目のヘッドライトに回帰している

2. 最新世代と(素人目には)ほとんど見分けがつかないこと

最新世代の「タイプ992」と呼ばれるポルシェ 911と、2世代前にあたるこの997型では、そのフォルムや細部のデザインはもちろん大きく異なる。

だが「もちろん大きく異なる」と感じるのは筆者や、これをお読みのあなたがカーマニアだからだ。

マニアではない、そこらを歩いている人に992型と997型の写真を10秒間だけ見せて、「先ほどの2つの写真の、違っていた箇所をお答えください」とやっても、9割方の人が「そんなこと言われても、ほとんど同じにしか見えなかったよ!」と激怒することだろう。

そういった意味で――もちろんポルシェ 911を買う主たる理由は「見栄を張るため」ではないわけだが、やはり人間、ぜんぜん見栄を張れないよりは、張れた方がちょっとうれしいという意味で――997型のポルシェ 911というのは「お買い得」なのだ。

なにせ10年落ち以上の中古車なのに、世間的には「新しいポルシェを買ったお金持ちのヒト」として見てくれるのだから。
 

ポルシェ 911▲ちなみに997型のインテリアはおおむねこのようなデザイン。取材車両はオプションのボディ同色センターコンソールやカーズレッドメーターパネルなどが装着されている

3. 性能的にも最新世代と比べてほとんど遜色ないということ

こんなことを言ったら、カーマニアは「そんなことない! 最新の992型と997型とじゃぜんぜん違うよ!」と怒りだすだろう。その怒りもわかるつもりだが、それでも「公道を常識的なスピードとマナーで走る限りにおいては、どっちも似たようなモンである」というのが真実に近い。

空冷エンジンだった1980年代あるいは1990年代初頭の911と、現代の最新911とでは、さすがに公道の速度域においても「ずいぶん違う」と感じるものだが、997型と992型を比べるなら「だいたい同じ」とも言えるのだ。

もちろん、サーキットなどで厳密な比較を行えば「ずいぶん違う」となるのは言うまでもないが。
 

ポルシェ 911▲2008年途中までの前期型では、トランスミッションはPDK(ダブルクラッチ式のセミAT)ではなく伝統的なステップ式ATの「ティプトロニックS」になる。俊敏なPDKと比べればややまったりしているが、だからといって何か問題があるわけでもない。サーキットでタイムを競うわけではないのだから

4. それでいてけっこう安いということ

まぁ今回の取材車の場合で言う530万円を「けっこう安い」と言うのも語弊はあるだろうが、それでも、「世界的な名車」であり、「第一級のスポーツカー」で、なおかつ「大事に乗っている限りはリセール価格もそんなに下がらない車」が530万円というのは、「けっこう安い」と評するほかないのだ。

タイプ997の前期型は「エンジン右バンクの6番シリンダー内にキズが生じ、その結果としてエンジンが壊れることがある」という理由で全体の相場が安めになっているわけだが、この「6番シリンダー問題」というのは何も「必ず」発生するわけではない。丁寧に保守されてきた個体を、今後も丁寧に扱うのであれば、そうそう起こるものでもないのだ。

もちろん「絶対に起きない」とは断言はできないのがこの問題の難しいところだが、「過剰にビビる必要はない」というのが筆者の私見である。
 

ポルシェ 911▲エンジンをかけてみて、エンジン本体から妙な唸り音が発生しているような中古車は絶対に避けた方がいい。当然ながら取材車両のエンジンからは、そのような怪しい唸り音はまったく発生していない

要するに997型のポルシェ 911とは、「比較的現実的な予算で購入できる、最新世代の911に比較的近いニュアンスのポルシェである」ということだ。

そうであるがゆえに997型は今後、中古車界の大スター……とまではならないにしても、「まずまずのスター」にはなるだろうとは思うのだ。

そして取材車両は、冒頭付近で申し上げたとおり走行わずか2.7万kmの低走行物件で、カルモナレッドというひとクセある個性的なボディカラーであり、なおかつ超希少な「タルガ」でもある――ということで、「それが530万円ってのは、実はかなり注目に値するのではないか?」と思っている次第だ。

もちろんご判断はお任せするが、気になる方は、各自販売店まで問い合わせ等を行っていただきたい。かなりキレイな1台である。
 

文/伊達軍曹、写真/大子香山

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伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。