走行5万km台までのポルシェ 911が総額280万円から! でもそれって本当に「お買い得」なのか?
2020/06/16
「買い」か、それとも「やめといた方がいい」なのか?
ポルシェ 911といえば、「世界一のスポーツカー」かどうはさておき、「世界を代表するスポーツカーのひとつ」であることだけは間違いない超絶名車。だがそんな名車の一部世代が昨今、ウルトラ格安相場になっている。
具体的には、1997年から2004年まで製造販売された「996型ポルシェ 911」の後期モデルAT車、つまり2001年途中から2004年までの911カレラ ティプトロニックSが、総額280万円程度から探せてしまうのだ。それも走行5万km台までのまあまあ低走行な物件が、である。
だが物事というのは光があれば必ず影もあるわけで、「安いモノ」にもたいていの場合、何らかの「安いだけの理由」が必ず存在している。
そう考えた場合、新車価格1000万円超だったモノが200万円台あるいは300万円台まで下がったポルシェ 911の中古車というのは「お買い得」なのか、それとも「やめといた方がいい代物」なのかは微妙なのかもしれない。
実際のところはどうなのか? 以下、様々な角度から冷静にチェックしてみよう。
ポルシェ 911として初の水冷エンジンを搭載
まずは「996型ポルシェ 911」という車についてのごく簡単なご紹介から。
1964年に初代モデルが発売されたポルシェ 911は歴代、車体の後部に空冷式の水平対向6気筒エンジンを搭載するスポーツカーだった。
しかし、年々厳しくなるいっぽうの排ガス規制を空冷方式のままでクリアするのはさすがに難しくなり、1990年代、ポルシェはついにエンジンの水冷化を決意する。
その結果として1997年に誕生したのが5代目のポルシェ 911、「タイプ996」だった。
当初は3.4Lの水冷水平対向6気筒を搭載していた996型だったが、これが(エンジンだけでなく全体として)どうにも不人気。そのためポルシェは2001年後半、996型911カレラのビッグマイナーチェンジを敢行。
具体的にはエンジン排気量を3.4Lから3.6Lに拡大し、可変バルブリフト機構の「バリオカムプラス」を採用。エンジン出力の向上に合わせてシャシーを強化するとともに、フロントまわりのデザインを911ターボ風に大変更した。
もちろんこの他にもこまごまとした変更点はあるのだが、ざっくり言えばそれが、今回ご紹介する「996型ポルシェ 911カレラの後期型」であり、なかでも相場がお安くなっているのが「ティプトロニックS」というベーシックなAT仕様である。
マニアからの評価はさほど高くないが、ナイスなスポーツカーだ
以上を踏まえたうえで「総額280万円ぐらいからイケる996型ポルシェ 911は本当に“買い”なのか?」ということを考えたいわけだが、まずは「そもそも996型911の後期モデルって、買うに値するほどいい車なのか?」という疑問がある。
これについての答えは明確で、「そりゃもういい車ですよ!」と言うほかない。
もちろん、超最新世代のポルシェ 911と比べてしまえば各種パフォーマンスや装備レベルは明らかに劣っており、濃い口のマニアからは「996型は乗り味が乗用車チックで、あまりおもしろくないよ」とも言われている。
それらは確かにそのとおりでもあるのだが、それは「高額な最新モデルと比べれば」あるいは「往年の空冷世代と比べれば」という話である。
もしも996型後期を単体で見るならば、やはりそれは「なかなか素晴らしいスポーツカー」なのだ。
ボディおよび足回りはひたすらにタイトで、ドライバーの背後に位置する水平対向6気筒エンジンはトルクフルかつ鬼のようにシャープ。
まあ996型のエンジンを「鬼のようにシャープ」と評すると、初代911(901型)が搭載した空冷エンジンの凄まじいキレを知っている往年のファンからはバカにされるのかもしれない。
だが筆者は気にしない。後期996型カレラの3.6L水冷エンジンも、普通人の感覚からすれば、そしてその他メーカーの凡庸なエンジンと比べれば「鬼のようにシャープ」であることは間違いないからだ。
いずれにせよ後期型の996型ポルシェ 911、いい車である。少なくとも「ぜんぜん悪くない」とは断言できる。
実用大衆車と比べるなら、確かに整備費用はかかりがちだが
しかし次に湧いてくる疑問は、「でもぶっ壊れるんじゃないの? そして、壊れた際の修理代はバカみたいに高いんじゃないの?」というものであろう。
この疑問というか不安は確かにそのとおりで、後期996型911はおっしゃるとおりぶっ壊れるし、修理代も高い。
だがそれは後期996型ポルシェ 911に限った話ではない。「車という機械はドイツ車だろうが国産車だろうが、使っていればそのうち必ず壊れる」という意味であり、「ポルシェに限らず、輸入車の整備代(部品代)は国産車のそれよりも高い」という話でしかない。
車は必ず壊れる。というか、車のあちこちに使われている「消耗部品」は、あるとき宿命的に寿命を迎え、機能不全となる。それはポルシェであろうがカローラであろうが理屈は同じで、「交換すればまた動くようになる」というのも、ポルシェでもカローラでも同じだ。
ただ、パフォーマンスよりも「実用的で、なるべく長寿命で」という部分を強く意識して設計されている一般的な乗用車と比べれば、あくまでパフォーマンス優先なスポーツカーであるポルシェ 911の方が「多くの消耗部品がより早く寿命を迎えやすい」とは言える。その意味で、たしかに後期996型911は「ぶっ壊れる」だろう。
ただしそれは、「とにかくしょっちゅうぶっ壊れまくる!」みたいな話とはちょっと違うのだ。
そしてパフォーマンス優先な輸入スポーツカーゆえ部品代も確かに高いが、都市伝説的に言われているほど高いわけではない。
その昔は「ポルシェ 911って、ブレーキ交換1回で100万円はかかるらしいね!」みたいなことがまことしやかに言われていた。しかしそれは大きな勘違いというか単なる都市伝説だ。
一般的なカレラであれば「ブレーキ交換一発で100万円」なんてことは絶対にない。部品によって値段はまちまちなため一概には言えないのだが、ニュアンスとしては「高いは高いが、死ぬほど高いわけではない」というのが真実に近い。
また、996型ポルシェ 911といえば「インタミ問題」を耳にしている方も多いはず。
「インタミ」というのは、正確にはエンジン内部にある「インターミディエイトシャフト」のことで、そのシャフトとベアリングが破損することでエンジンがぶち壊れるというやっかいな問題が、俗に言う「インタミ問題」であった。
だがこれもそう大きな心配はいらない。
かなり騒がれたインタミ問題だが、実際にココが壊れたという事例の数は少なく(もちろん、破損事例は確実にあったが)、2001年5月4日から2005年2月21日製造分の正規輸入車については、ポルシェジャパンによるサービスキャンペーンとして無償での点検と、必要に応じた修理が行われている。このサービスキャンペーンにより、正規ディーラーで新品エンジンに載せ替えられた後期996型もけっこうある。
つまり「まったく問題ない」とは言わないが、「まぁそんなに心配しないでも大丈夫ですよ」というのが、このインタミ問題なのだ。
安値なのは「人気薄」ゆえだが、あなたの評価はどうか?
以上の検討により、総額280万円前後から探せる後期996型ポルシェ 911の中古車は、「もちろんパーフェクトではないが、決して悪くはない(むしろいい感じかもしれない)」ということがわかった。
ならば最後の疑問はこれだ。
「ならばなぜ、そんなに安いのか?」
これの答えは簡単である。「人気薄だから」だ。
中古車のプライスというのは、基本的には需要と供給の関係から決まる。996型の前身にあたる空冷の993型や、さらにその前身である964型などのポルシェ 911は、996型より年式としては断然古いのに、相場は996型の倍か、倍以上になっている。
それすなわち「それでも欲しいという人が多いから」で、その割に供給量が少ないため、相場は上昇するのだ。
996型の後継である997型や、さらに新しい991型も「欲しい!」という人が後を絶たないため、必然的に「高額な中古車」であり続けている。
それに対して後期996型は、そのなかでも最もありふれたグレードであるカレラ ティプトロニックS は、正直今ひとつ人気薄である。つまり需要が低く、その割に供給量はまあまあ多い。それゆえ後期996型ポルシェ 911は、格安相場となっているのだ。
「でも人気薄ってことは、やっぱりあんまりいい車ではないんじゃないの?」
そう感じる人もいらっしゃるかもしれない。
それはそれでひとつの見解だが、自分が乗る車というのは、「誰かが行った人気投票の結果」で決めるべきものではないはずだ。大切なのは「誰かの意見」ではなく「自分の意見」である。
もちろん無理強いなどしないが(そもそも、そんなことはできない)、もしもあなたが「996型後期のカレラ、ちょっといいかもしれないな?」と思うのであれば、誰かが過去に行った人気投票の結果など気にせず、それを一度ご自身でチェックしてみるべきだろう。
そして、もしもあなたが、
●ポルシェ911的な乗り味とビジュアルの車が大好きで、
●しかし想定予算は300万円とか300万円台とかぐらいで、
●なおかつ、購入後に予想される輸入スポーツカーならではのメンテナンスフィーもさほど苦にならないのであれば、
なおさら前向きにチェックしてみることをオススメしたい。
▼検索条件
ポルシェ 911(996型・後期モデル)×AT車×走行距離6万km未満×総額400万円未満×全国自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。
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