ホンダ アコード ▲新車月間販売台数がわずか83台(2019年9月度/一般社団法人 日本自動車販売協会連合会調べ)というホンダ アコード。あらためてこの車の魅力に迫る


世の中には、「大ヒット!」「年間販売台数ナンバーワン!」などの枕ことばでメーカーから宣伝され、多くの人に認知される売れっ子モデルもあれば、テレビCMにもならなければ、販売台数も伸びず街中でもあまり見かけない、ちょっとマニアックなモデルもある。

そして、そんなマニアックなモデルの中には「もっと売れてもいいのに……」と思える車がたくさんあるのだ。

この企画では、自動車テクノロジーライターの私、松本英雄がそういったモデルに光を当て、知られざる魅力を紹介していく。今回は、ホンダ アコード(2016年~生産・現行型)だ。

松本英雄(まつもとひでお)

語り・監修

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。車に乗り込むと即座に車両のすべてを察知。その鋭い視点から、試乗会ではメーカー陣に多く意見を求められている。数々のメディアに寄稿する他、工業高校の自動車科で教鞭を執る。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。

現行型は熟成された最終モデル

「ホンダの現行型アコード、試乗会などで乗っていると思いますが、結構いい車なので、あらためて乗ってみませんか?」

カーセンサー編集部から電話がかかってきた。

日本ではいつの間にか地味な存在になってしまったが、アコードは世界各国で様々な賞を受賞する、完成度の高いモデルだ。いい車であることは言わずもがなである。

それを読者にお伝えするためにも、あらためて試乗してみることにした。

試乗場所は、箱根にあるアネスト岩田ターンパイク。緩やかなカーブが続く気持ちのいい道だ。アコードの乗り味を試すにはちょうどいい。

アコードは海外ではすでに2017年から新型が販売されており、日本でも来年モデルチェンジをする。つまり今回試乗するのは、現行型アコードの最終モデルというわけだ。
 

ホンダコード▲間もなく新型が登場するアコード。熟成されたモデルを狙いたい人にはこちらがオススメ

現行型アコードは2013年6月にアコードハイブリッドとして導入され、2016年5月のマイナーチェンジでアコードという車名に変わった。実はマイナーチェンジの前後で、アコードの性格が大きく変わっていることをお伝えしなければならない。

2016年4月までの前期型は硬めの足回りで、歴代のアコードを踏襲したスポーティな味付けだった。しかしホンダは今、セダンにしなやかな乗り味、かつ安定感のあるハンドリングを与え、上品な走りを目指している。マイナーチェンジ後のアコードは、ホンダが目指す新たなセダンの姿をいち早く体現したモデルだ。
 

ホンダ アコード▲ライトやグリルが前期型から大きく変わり、コンサバティブな印象が高められている

しなやかで上品。まるでフランス車のような乗り味

乗り味を一言で表すなら、サルーンのそれである。サスペンションの動きが上質で、路面の凹凸を上手に吸収する。 スタビリティも高いので、ドライバーはゆったりした気分でステアリングを操作できる。ロードノイズの消し方もうまい。

さらに特筆すべきはFFレイアウトにも関わらず、後部座席の乗り心地のよさを実現していることだ。

FF車はFRに比べ、重量バランスなどの関係から後部座席の安定感や乗り味がいまいちになってしまいがちである。現在もミドルクラス以上のセダンはFRレイアウトを採用する車が多い理由がそれである。

現行型アコードの実質的な前期モデルとなるアコードハイブリッドも例にもれず、後部座席がややふわふわする印象がぬぐえなかったが、後期型はFFとは思えないほどどっしりした乗り心地を実現している。プロペラシャフトが後部座席にない室内空間の広さの利点を担保させつつ、前輪駆動でこの味付けはお見事である。

ホンダ アコード
ホンダ アコード▲大柄なフロントシートの乗り味もいいが、とくにいいのが後席の乗り心地。FFとは思えない味付けだ

このような評価をすると、人によってはアコードは落ち着きすぎて面白みに欠けると感じるかもしれないが、それは早計だ。ホンダはエンジンメーカーである。リラックスした雰囲気で運転しているときはいたって静かだが、アクセルを踏み込むとしっかり心地よいエンジンサウンドが室内に入ってくる。

それも4気筒とは思えないスポーティな音色だ。アクセルを踏み込んだままコーナーに入ると、しっかり路面に食いつき、ねっとりとした感触でコーナーを駆け抜けていく。例えるならフランス車セダンのような乗り味だ。

もちろん、最新のホンダセンシングが搭載されており、安全性にこだわりたい人も納得の車だ。
 

ホンダ アコード▲クラウンをはじめ、FRセダンは足回りが硬めのセッティングなものが多くなっている。ゆったりした気分で運転したい人にはこれくらいしなやかな足回りの方がいい
 

アクの強さを排除し、クリーンな雰囲気を強調

かつてアコードといえば、精悍で若者に好かれるデザインが売りだった。

しかし2000年を過ぎてから、だんだんとコンサバティブな雰囲気が強くなってきた。現行型はかなり落ち着いた雰囲気になり、年配の方で目立つのをあまり好まないけれど、上品な雰囲気は欲しいという人が好みそうなデザインである。

そんなクリーンな雰囲気はインテリアも同様。“アクの強さ”は個性という言葉に変わり、人々の印象に残りやすい。アコードはそれを排除し、変な細工をせずにクリーンな雰囲気を前面に押し出しているのだ。室内も広く、居心地がいい。

フロントはオーバーハングが短く、サイドのエッジを少し立てて、全体的にクリーンな印象だ。これは長く乗れる、飽きのこない感じを狙ってのことだろう。

今となっては、ボディがかなりコンパクトに見える。パッと見は、車格的にひとつ下になる最新のカローラと変わらないサイズに感じるほどだ。
 

ホンダ アコード
ホンダアコード
ホンダ アコード▲派手ではないが、上質な雰囲気のエクステリア。いいものを知っていて、それを長く愛用する人が好みそうなデザインだ。ハイブリッドシステムは2モーターハイブリッドシステムの「スポーツハイブリッドi-MMD」を採用

来年、日本に導入される新型アコードは、昨今流行りのシックスライト(サイドに3つのガラス面があるデザイン)を取り入れ、顔つきもやんちゃな雰囲気になる。

ノーブルな雰囲気のセダンが欲しい人は、このアコードが狙い目だろう。

いわゆる不人気車と呼ばれるモデルなので、中古車相場もかなり安い。2016年5月以降の後期型は、まだ登録から3年経過していない2017年式でも、新車より150万円前後安くなっているものも見つかる。

落ち着いた雰囲気のセダンに長く乗りたい人には、自信をもってオススメできるのがアコードだ。

私がオススメするのは、2016年5月から生産されているCR7型。不人気車とはいえそれなりの台数が流通しているので、ぜひ検討してみてほしい。
 

語り・監修/松本英雄、文/高橋 満(BRIDGE MAN)、写真/柳田由人

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