▲「どうせ最初はぶつけるんだから」的に、若い人に無難な国産コンパクトカーを勧めたがる人は多い。一理ある意見ではあるが、必ずしも従う必要はない。例えば「人生最初の車がBMW 3シリーズ」だって特に問題はないのだ! ▲「どうせ最初はぶつけるんだから」的に、若い人に無難な国産コンパクトカーを勧めたがる人は多い。一理ある意見ではあるが、必ずしも従う必要はない。例えば「人生最初の車がBMW 3シリーズ」だって特に問題はないのだ!

「人生初の車=BMW」はバカのやることなのか?

見たところ22歳ぐらいの青年が、軽自動車専門店前の歩道で泣いていた。

その尋常ではない様子が心配になったわたしは、思わず声をかけた。「貴君、大失恋でもしたのか? 心療内科に連れてってやろうか?」と。

彼は答えた。「失恋はしていません。今晩も、超カワイイ彼女と食事に行きます。でも……なぜだか涙が止まらないのです」

ヒアリングによれば、事態は以下のとおりだった。

彼は22歳の新社会人で、社会人としての給料を元手に中古車を買うつもりでいたそうだ。

だが実際に販売店を訪ねる前段階で、周囲から猛反対を受けた。なぜならば、「最初の車はBMW 3シリーズにしようと思ってます」などと口走ってしまったからだ。

「中古のガイシャ、しかもビーエムなんて……お前は何を考えているのだ?」

「そんな金食い虫を買うとか、バカだねwww」

「若造はおとなしく軽でも買っとけ!」

などと会社の上司および先輩から散々言われた結果、彼も「まぁそうかもしれないな……」とある程度納得。そして中古の軽をとりあえず買うと翻意し、今日ここへやって来た。

だがどうしても泣けてしまい、目の前にある中古軽自動車専門店に入ることができないのだという。

「どうすれば、この涙は止まるでしょうか?」

▲まぁここまで派手に道路に倒れ込んで泣く人はいないだろうが、「意に沿わない行動」を無理やり納得してやろうとしても、人間の身体というのは悲鳴をあげるものだ▲まぁここまで派手に道路に倒れ込んで泣く人はいないだろうが、「意に沿わない行動」を無理やり納得してやろうとしても、人間の身体というのは悲鳴をあげるものだ

そう尋ねる彼に、わたしは年長者として、そして中古車評論家として答えた。

「今すぐそこの公園に行き、スマホでカーセンサーnetをチェックしたまえ。そして程度良さげなビーエム3シリーズを買いに行きなさい。それで、万事が解決するだろう」

「しかし中古の輸入車は金食い虫で、買う奴はバカだと、会社の皆さんが……」

そう言う彼にわたしは断言した。

「会社の皆さんなど放っておけ。そもそも人生初の車が輸入車で何が悪いのだ? 悪いことなどひとつもない」

以下は、この後わたくしが彼に詳述した内容のダイジェスト版である。

▲こちらがBMW 3シリーズ。写真は現行型ではなく、1998年から2005年まで販売された「E46」と呼ばれるモデル▲こちらがBMW 3シリーズ。写真は現行型ではなく、1998年から2005年まで販売された「E46」と呼ばれるモデル

中古車のボリュームゾーンは総額50万~80万円あたり

「彼」が当初買おうとしていたのは、BMW 3シリーズといってもさすがに500万円以上する新車ではなく、カーマニア的には「E46」と呼ぶことが多い3世代前の3シリーズだった。

いい車である。

さすがに最新型3シリーズのような至れり尽くせりの超絶高性能ではないが、6気筒または4気筒の直列DOHCエンジンはすこぶる吹けが良く、FRレイアウトゆえのハンドリングは(足回りなどの具合が悪くなければ)とってもスイートだ。

ボディサイズも、E46型がデビューした当時は「肥大化した!」などとマニアから非難もされたが、その後ほぼすべての車がより肥大化したため、今にしてみれば可憐で扱いやすいサイズである。だがそれでいて、居住性はなかなかよろしい。

内外装デザインも好印象だ。もちろん人それぞれの好みによるが、わたし個人としては、特に後期型(2001年10月~)のMスポーツ(スポーティな仕様のパッケージオプション装着車)は、若い男性が乗るとなかなかステキなのではないかと思う。

▲こちらがその「後期型Mスポーツ」。より正確に言うと、写真は2003年12月に500台限定で発売された「318i Mスポーツ リミテッド」という特別限定車。専用カラーや18インチホイールなどがその特徴▲こちらがその「後期型Mスポーツ」。より正確に言うと、写真は2003年12月に500台限定で発売された「318i Mスポーツ リミテッド」という特別限定車。専用カラーや18インチホイールなどがその特徴

新車時価格はおおむね370万~670万円だったが、今となっては中古車相場はかなりお手頃。具体的には総額30万~110万円といったところだ。

まぁ市場には総額180万円超えの超高額物件もあったりするが、ボリュームゾーンは総額50万~80万円ぐらいと考えていい。

ざっくりとしたグレード展開は、

・1.9L直4の318i(後期型は2L)
・2L直6の320i(中期型/後期型は2.2L)
・2.5L直6の323i(前期型のみ)
・2.5L直6の325i(中期型/後期型)
・2.8L直6の328i(前期型のみ)
・3L直6の330i(中期型/後期型)

といった感じ。どれを選んでもいいが、グレードに関わらず「できれば後期型を選ぶ」という基本方針で臨むべきとは思う。デザインもエンジンも、やはり後期型の方が何かと優れているのは確かであるからだ。

そりゃ維持にはある程度のカネはかかる。だが「対策」はある

以上が「概略」である。お次に本題へと移ろう。すなわち中古のガイシャ、この場合は3世代前のE46型BMW3シリーズは本当に「金食い虫」なのか? という議題である。

結論から申し上げると、そんなことはない。

いやもちろん、「彼」が買おうとしていた軽自動車と比べるなら部品代はかなり割高で、故障頻度も(一概には言えないが)高い。そしてガイシャというのは一般的に、国産車ではちょっと考えられないような場所が、たまに謎の壊れ方をしたりもする。

そういった事実をもって「会社の皆さん」は「やめとけ」と言ったのだろう。

だが対策はあるのだ。特に、BMW 3シリーズのような超メジャー車種は「対策の宝庫」と言っても過言ではない。

▲写真はE46型3シリーズの6気筒モデルに搭載される直列DOHCエンジン。水回りなど、中古車で買う場合は確かに若干の注意点もあるのだが、その「対策」はある意味開発され尽くしている▲写真はE46型3シリーズの6気筒モデルに搭載される直列DOHCエンジン。水回りなど、中古車で買う場合は確かに若干の注意点もあるのだが、その「対策」はある意味開発され尽くしている

超メジャー車種であるがゆえに「壊れる可能性が高い箇所に関する知見」は、あらかじめ広く共有されているということだ。

具体的には、冷却関係の一部部品と各種センサー類、燃料ポンプ、サスペンションのゴムブッシュ等々である。このあたりを納車前にビシッと交換するか、もしくは前オーナーが直近に交換した履歴が確認できる物件を買えば、その後の数年間は割とフツーにイケるのが物の道理というか、機械製品の道理である。

それでもたまに「謎の壊れ方」をすることがないとは言わないが、その場合は、やや割高な部品代を含め「ま、好きで選んだ車なのだから」と割り切るほかない。

とはいえ、超メジャー車種ゆえに割安な「OEMパーツ」も豊富に出回っているのが、E46型BMW3シリーズの良いところである。

「……ということは、僕はE46を買っちゃってもいいのでしょうか?」

と、彼は最後に聞く。わたしは答えた。

「無論、いい。好きにしたまえ。ただしひとつだけアドバイスはしておこう。『E46を買うなら、走行距離の短さよりも整備履歴にこだわれ』である。……さっき挙げた部品とかが未交換なままの低走行車よりもさ、直近に交換済みの10万km車とかの方が具合良かったりするわけよ、ぶっちゃけ」

わっかりましたあああ! ダンケ・シェーンですうううう! と言って、彼は走り去っていった。

その後、彼がE46型BMW 3シリーズを買ったのかどうかは知らない。

だが少なくとも去り際の彼の涙は止まっていたように、わたしには見えた。

文/伊達軍曹、写真/BMW、ぱくたそ

▼検索条件

BMW 3シリーズ(E46型)×総額50万以上80万円以下×修復歴なし×全国
伊達軍曹(だてぐんそう)

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。