Q.「必ず買います」と言ったことで、そのあとの客を断ってしまった販売店
    こんなとき、ボクが買わなかったら損失を補償しなくてはいけないの?

気に入った車があったので「必ず買うから」と手付金を払って取り置きをしてもらいました。しかし、事情が変わって車をキャンセルすることに。すると販売店から「口約束でも契約は成立する。お客さんが絶対買うと言うからほかの客を断った。その分の損失を補償してほしい」と言われました。この場合、支払う必要はあるのでしょうか?

A.基本的には支払う必要はありませんが
    悪質な取り置きの場合は損害賠償を請求される可能性も

一般的には、取り置きでは契約の成立と認められません。契約が成立していない場合はいかなる金銭も支払う義務は発生しません。よって、この場合は損失の補償は発生しないと考えられます。

「口約束でも契約は成立する」と言う人もいますが、現実には口約束だけで契約が成立したとみなすのは困難です。「必ず買う」といったからといって契約を成立とするには、無理があるでしょう。ちなみに、中古車の売買契約には、『自動車注文書標準約款』なるものがあります。これには、「契約の成立は『1.納車 2.使用者の登録完了 3.注文者の依頼により点検・整備などに着手』の3点のうち最も早い日」と明記してあります。

そもそも、「手付金」を支払っているので、損失補償を請求されるのは筋違いです。相談者が「手付金」と呼んでいるものは、正式には「申込証拠金」と呼ばれているもので、買い手がひやかしではない証明として預けるお金です。つまり、これによって車に対する購入の優先権を確保することができるのです。ですから、相談者はほかの客よりも優先権をもっていたことになり、店側がほかの客を断るのは、当然の行為とも考えられます。

しかし、だからといって、なんでもかんでも取り置きをしていい訳ではありません。一つは期間。これは常識的範囲としか言えませんが、あまりに長い間取り置きをさせて、その結果新型車が発売されるなどして価値を著しく損ねた場合などは、客側に信義則違反が発生します

また、オーダーをした客以外は購入しないような、非常に特殊な車を客側の都合で探してもらって取り置きした場合にも、契約していないからキャンセルという理論は通用しません。これも信義則違反にあたります。さらにこの場合は、販売店から損害賠償を請求される可能性があるかもしれません。

気になる車を取り置きすること自体は悪いことではありません。しかしそのときには熟考のうえ、早く判断を下すことが重要です。販売店側は取り置きをしている期間は機会損失を被っていることを忘れないでください。

第53回:一度手付金を払って購入を約束した場合、必ず買わなければならない!?|渋滞ができる法律相談所
illustration/もりいくすお

■ワンポイント法律用語■

申込証拠金(もうしこみしょうこきん)
購入申し込みの意思表示をする際に、優先して購入するための権利を確保する目的で売り主に対して預ける金銭。ただし、この時点では契約が成立したわけではないので、意思表示が撤回された場合は全額返還される
信義則違反(しんぎそくいはん)
契約当事者は、相手方の正当な期待に沿うように行動することが求められるが、これに違反すると信義則違反となる