これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
クラシックカー予備軍たちの登場背景や歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!
自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「クルマは50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。
車の走らせ方を教えてくれるライトウェイトスポーツ
——毎度のことなんですけど、松本さんがこの企画の候補として挙げてくださるモデルの撮影対象物件がなかなか見つからなくて……。もう少し見つけやすい比較的流通台数が多い“名車”、または“名車予備軍”てないんでしょうか?
松本 うーん、そうだねえ。世間で名車として認知されると、さらに注目度が上がるでしょう? ある程度時間が経過すると、市場に出回らなくなって流通量が減る。狙っていた人たちが相場上昇前に手に入れてしまうから仕方ないよね。
——そういうモデル、今まで何度も目にしてきましたね(笑)。
松本 しかも、この企画は国内中古車流通量の15%にも満たない輸入車がメインだから、そもそも魚影の濃さが違う。池にいる魚が多ければ、巡り合える確率も上がるんだけどね。これから価値が上がっていくだろう名車予備軍のモデルまで広げて紹介してきたのはそれもあるんだよ。名車予備軍もいいモデルを紹介してきてると思うんだけどなあ。
——そうですね(笑)。名車というと高価なモデルが中心になりがちですが、購入しやすい“名車”“名車予備軍”も取り上げられるといいですよね。
松本 僕が若い時に中古車として手軽に探せたのはMG-Bだね、それとMG ミジェット。このあたりのモデルは購入しやすかったから、ライトウェイトスポーツカーの入門モデルとしては最適だったんだよ。
——残念ながら、今となってはMGも結構な価格ですからね。ところで、松本さんがブリティッシュライトウェイトスポーツ系のモデルに乗っていたイメージがないんですけど……。所有されていたことってあるんですか?
松本 もちろんあるよ(笑)。まさに英国が誇るライトウェイトスポーツの真骨頂であるMG-Bにね。初めてドライブしたMG-Bはボロボロで、しかも左ハンドルだったんだ。当時はロードスターモデルに乗りたくてね。きっかけは、近所のお店に展示されていたロータス エランに憧れたこと。ブリティッシュ・レーシング・グリーン(BRG)のボディカラーが素敵だったなあ。
——わかりました。今回は松本さんの原点であるロードスターモデルにしましょう。ちょうどマツダが保有している初代ロードスターをお借りしているんですよ。しかもその個体、当時の主査だった平井敏彦氏が個人所有されていたという“ヘリテージ”まで備えているんです。


松本 初代ロードスターなら名車中の名車だよ、最高なモデルじゃない! NA型の初代ロードスターは1989年から1998年まで作られ、当時はユーノス ロードスターと呼ばれていたよね。練りに練られた造形は素晴らしいデザインだと思うね。それに、現行型ロードスターでも初代を超えられない部分が結構あるんだよ。僕が好きなのはフェンダーとポジションとシグナルの造形で、ジャガー Eタイプのような古くならない雰囲気がとてもいいんだ。新しいんだけどどこか懐かしい、コピーではないオリジナリティをひしひしと感じる。愛着を持てる造形というのはこういうのを言うんじゃないかな。開発に携わったエンジニアやデザイナーが、スポーツカーというものをとてもよく理解していたんだと思うね。
——どういう部分からそう感じるんですか?
松本 まずは、FRであること。そしてダブルウィッシュボーンのサスペンション、DOHCユニットと5速MTはライトウェイトスポーツカーの三種の神器だね。しかもロードスターという軽量な幌の仕様。もちろん以前紹介したホンダ S600なんかも素晴らしいけれど、1990年代からドライビングを楽しめるかどうかの要素が、高速道路やワインディングで楽しめる性能になってきたんだ。この車にはそういった要素がいくつもちりばめられているんだよ。
——ライトウェイトスポーツは比較的安価であるということも求められていたと思いますが、そのあたりはどうでしょうか?
松本 もちろん、コストを抑えることも忘れていなかったんだ。左右のサスペンションアームが一緒だったり、ショックアブソーバーのブラケットを前後共用化するなどして、セッティングの自由度を高めながらコストを抑えてある。リアサスペンションのクロスメンバーも、左右上下同じ金型によって作られたパーツで構成されているしね。こういったところに、ライトウェイトスポーツの名門であるロータスのようなバックヤードビルダー的要素も垣間見られる。マツダとしては初めての四輪ダブルウィッシュボーンだったにもかかわらず、バランスの良いドライビングがダイレクトに楽しめるセッティングに仕立てられているんだよ。さらに、カム式の調整金具が取り付けてあるから、キャンバーやキャスター角度が変更できるなど、ユーザーがカスタマイズしやすい仕様になっているんだ。素晴らしい考え方でプロダクトされているよね。

——なるほど。だから30年以上前のモデルなのに今も人気なんですね。
松本 いまだに評価が高いのは、車の制作原点で志を高く持っていたモデルだからじゃないかな。マツダってエンスージアストでマニアなエンジニアが多いからできちゃうんだよ。当時は残業にうるさくない時代だから、会社で寝泊まりをしていた方も多いんじゃないかな(笑)。でも、楽しいから苦じゃない、達成感がある、それこそが“モノづくり”の原点だよね。
——ディテールもいいですよね。
松本 個人的には、ダンロップの標準タイヤにどことなく1960年代のレーシングカーのエッセンスがあってカッコよかったな。タイヤのパターンもすごくセンスが良くてこだわりを感じる部分だね。一世を風靡したミニ ライトのテイストを現代風にアレンジしたホイールもいいデザインだと思うな。エグゾーストパイプはステンレス製の4 in 1という、本当にディテールまで抜かりがない作りだったね。
——走りはどうだったんですか?
松本 特徴的なのは、前後をつなぐパワープラントフレーム(PPF)が実にいい仕事をしていること。トランスミッションからディファレンシャルまでをフレームで直結して、剛性を作り出しているんだ。アストンマーティンなどがトルクチューブ式というタイプで、アクセルとブレーキ、ステアリングのレスポンスの良さを引き出しているけど、その考え方に近いかな。トランスミッションはクロスレシオ化した5速で、ダイレクト感がある。シフトノブも短めで、手首で「コクッコクッ」ってシフトチェンジが楽しめるタイプなんだよ。ファイナルギアが低めで、エンジンが吹け切るフィーリングも楽しめる。このモデルこそ、車の走らせ方を教えてくれる本物のライトウェイトスポーツカーだよ。速けりゃいいってもんじゃない。それが初代ロードスターなんだ。
マツダ ユーノス ロードスター
「コンパクトで軽量、手頃な価格のオープン2シーター」というライトウェイトスポーツを復活させた歴史的モデル。「人馬一体」をキーワードに、軽量化や低重心化、FRや小排気量自然吸気エンジンなどの採用で、運転する楽しさを追求している。1989年に発表されると世界的に大ヒット。他メーカーがこぞってオープンスポーツを開発する呼び水となった。
※カーセンサーEDGE 2024年11月号(2024年9月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
文/松本英雄、写真/岡村昌宏
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