エクスプローラースポーツトラック

これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】

クラシックカー予備軍モデルたちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「車は50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。

プレミアム感を兼ね備えた廃れないデザインはアメリカの文化と環境が作った

——今回は新年ということで変わったモデルがいいと思うんですよね。

松本 いつもと趣向を変えたモデルを選びたいってこと?

——今までスーパーカーやラグジュアリーモデル、大衆車を取り上げてきましたけど、商用車はないですよね?

松本 トラックっていうこと?

——そうです。松本さんのトラックのイメージは?

松本 トラックは様々な物を運ぶという実を取った乗り物だよね。スカニアやボルボ、サーブといったヨーロッパのトラックは個人的にカッコイイと思うよ。でも、この企画でトラックといえばピックアップトラックでしょ? 確かに最近では働く車である軽トラの他に、いろいろなタイプのピックアップも増えたしね。

——この企画で軽自動車はさすがに出せないですよね?

松本 なに言ってるんだよ。北米でピックアップが多いのと、日本で軽トラックが多いのは非常に重要なことなんだよ。国土と道路の作り方に合わせて発展した、いわば環境が作り出した素晴らしい車たちなんだから。

——そういう見方もできるんですね……。

松本 そうだよ。第一に機能性でデザインしたモデルって飽きがこないんだ。いつの時代でも必要とされる車っていうのは、やっぱり存在感があるんだよね。そういった意味でも、アメリカのピックアップトラック文化は素晴らしいね。多民族の国だけあって、様々な個性が練りに練られて作られた車だと思うんだ。それが実用的で象徴的なピックアップトラック文化を作ってきたんだと思うね。世界的にアメリカだけだからね、これほどピックアップにステイタス性があるのは。

——じゃあ、松本さんはピックアップトラックの中では何が好きですか?

松本 うーん、サニトラのロングとかかな。ホイールを替えたりして、スポーティにするとグッとカッコ良くなるんだよね。あとピックアップトラック界のking of kingであるフォード Fシリーズかな。アメリカで実際に見ると、本当にカッコいいんだ。シボレーのシルバラードも好きだけど、スマートで力強さを感じさせるのはフォードの方かな。

——良かった。じゃあ気に入ってもらえますね。今回はフォードのピックアップトラックにしたんですよ。

松本 エクスプローラースポーツトラック?

——さすが! 今日の車はこちら! ちょっと趣向が変わって面白いかなって。

エクスプローラースポーツトラック
エクスプローラースポーツトラック

松本 いいじゃない。これは今乗ったら最高にカッコイイよ。廃れないデザインは、ランドローバーの雰囲気も入っていて、アメリカ車としては珍しくプレミアム感が随所にちりばめられていたんだよ。

——確かに今見ても安っぽさがないですよね。

松本 まず、荷台の高さとキャビンの塩梅が絶妙でね。どことなくランドローバーっぽい要素もあってイギリス移民系のアメリカンといった感じがしない?

——今の日本でもウケそうな雰囲気だと思うんですよね。

松本 そうなんだよ。このエクスプローラースポーツトラックのデザインについては当時結構注目を集めたんだ。香港出身のチェルシア・ラウという女性がデザインしたと聞いて驚いたよ。フォードのプレスリリースによると、彼女はスポーツカーが好きらしくてね。1960年代にフォードが打倒フェラーリを掲げて作ったレーシングカー、GT40ってあるでしょ? それを現代に蘇らせたリメイク版を所有していたという、とてもユニークで凄い人なんだ。

——そのお名前は聞いたことがありますね。

松本 そうでしょ? この女性は2011年のニューヨークタイムズ「世界の優秀な女性40人」に選ばれた方なんだよ。一度会ってみたかったな……。

——日本でも短い期間、正規モデルとして販売されてましたよね? 乗り心地も悪くないし、とても良い車だった記憶があります。

松本 きっと君は気づいてないだろうからあえて教えておくけど、車名はTruckではなくTracなんだよ。

——あ、本当だ……。


松本 このTracには様々な解釈があると思うけど、僕はオンザレールというようなハンドリングを表現した意味だと思うんだよね。本家の実用的なピックアップトラックって、乗ったことがある人は分かると思うんだけど、案外キビキビした走りなんだよ。荷物を載せるからギア比が比較的ローギアでね。エンジンのパフォーマンスを発揮しやすいギアレシオになっているんだ。
 

エクスプローラースポーツトラック

——僕はあまり乗ったことがないですが、そもそも乗り心地はそんなに悪くないってことですか?

松本 そうだよ。サスペンションは程よくハードで、リアのサスペンションは左右の協調性を大切にする独立懸架。サスペンションの追従性も思った以上に優れていてね。オンデマンド型の4WDで、いざというときに頼りになる。アメリカで非常に需要が高いのも分かるよね。

——このスポーツトラックは乗ってどうでしたか?

松本 ピックアップの楽しさって素朴な乗り心地と運転のダイレクト感だと思うんだけど、この車はまさにその好例だよね。新車で販売されていた当時、運転させてもらってかなり長距離を走ったよ。高速道路でも最高だったね。見晴らしが良くてどっしりしていて、のんびりした感じでさ。
 

エクスプローラースポーツトラック

——“THE アメリカ車”って感じですね?

松本 そうそう。大らかなピッチングが特徴的だったね。ただ、とにかく全長が長かった(笑)。ホイールベースがエクスプローラーに比べて約43cmも長いから曲がるのに少しだけ気を使ったけどね。

——結構運転大変じゃないですか?

松本 そう思うかもしれないけど、実はそうでもないんだ。リアタイヤの位置が分かりやすく、見切りも良かったから慣れればそれほどでもないと思うよ。アメリカ車だけどゴツくなくてスマートだし、都会っぽい雰囲気が強いデザインだから、古くなっても廃れないと思うんだ。
 

エクスプローラースポーツトラック

——他のピックアップトラックとは系統が確かに違いますよね。

松本 このスポーツトラックは2代目になるんだけど、この世代だけなんだよね、こういう洗練されたデザインなのは。

——新車で販売していた2006 年あたりではちょっと時代的に早かったですかね? 今ならけっこうウケると思うんだけどなぁ。2023年にこれを買うのってアリじゃないですか? 松本さんは欲しいです?

松本 うん、かなり欲しい(笑)。
 

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※カーセンサーEDGE 2023年3月号(2023年1月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏