ランボルギーニ

これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】

クラシックカー予備軍モデルたちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「車は50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。

レースカーなしにイメージを作り上げた稀有な名門ブランド

——今回なんですけど、今まで撮影してきたモデルでランボルギーニの総集編にしようと思っているんですよ。過去に取り上げたモデルの中には、400GTのような現在レアすぎて探すのが難しい車も含まれてますし。

松本 ランボルギーニみたいにロードゴーイングモデルのみで、あれだけのキャラクターを作り上げたブランドはそうそうないからね。振り返るにはいいんじゃない? そういう車を紹介し続けていることは、我々にとっても財産のひとつだからね。

——僕なんかはランボルギーニというと、どうしてもカウンタックやミウラというのが頭に思い浮かんでしまいますけど、松本さんはどうなんですか?

ランボルギーニ
ランボルギーニ▲1974年に登場したスーパーカーを代表するカウンタック。後のフラッグシップモデルも採用し続けることになる、V12エンジンをリアミッドシップに縦置きした、パオロ・スタンツァーニによるLPレイアウトを採用。ガルウイングを備えた直線基調のデザインは、マルチェロ・ガンディーニが手がけている

松本 ステレオタイプに有名なモデルが出てくるね。まあよく言えば通ぶってないストレートなところはもう好感すら持てるよ(笑)。もちろん君が挙げた2つのモデルは王道中の王道だよね。これらのモデルが存在したからこそ、ランボルギーニの今があるわけだから。特にミウラのすごさは、一代限りということ。続編がないところに伝説を感じるよね。

——今となっては伝説なのは当然として、やっぱり昔からみんなの憧れの車だったわけですよね?

松本 スーパーカーブームのとき、田園調布の浄水場前を疾走する黄色いミウラを見て、倒れそうになったね。テールランプの大きさからSVではないと思ったけど、そんなの当時の僕には関係なかったね。そしてあの出会いと感動に感謝しなければならないと今では思ってるんだ。どこかの裕福な大人が、僕に素晴らしい車を見せてくれた。まさに、目に焼き付いた財産だからね。「あの車を追いかけたい」っていう気持ちが、今でも大切なムーブメントとして僕の心に残っているわけだからね。

——僕の知識がいつまでも浅いのは、そういう体験がないからなんですかね……。でも、この企画を担当してからランボルギーニを含むいろいろな名車を見てきましたが、ランボルギーニには一点だけの華やかさというより、個性的だけどどこか紳士的なモデルが結構あることに驚きましたね。ハラマやイスレロみたいに。

ランボルギーニ
ランボルギーニ
ランボルギーニ▲1970年に登場したイスレロの後継車となるFRの2+2シーターGTであるハラマ。イスレロまでのマルチ・チューブラ・フレームに代わり、フラッグシップのエスパーダと同様にセミモノコック構造も採用。デザインはマルチェロ・ガンディーニが手がけている。4L V12エンジンを搭載、72年にGTSへと進化した

松本 確かに、そういう見方もできるよね。イスレロはかなりジェントル仕様の雰囲気だったよね。英国のグランツーリスモの雰囲気があって、直線的なラインと、リアのスクエアな造形が大きな特徴なんだよ。スポーツカーの象徴であるロングノーズショートデッキを強調したフォルムで、上品さがモットーのモデルなんだ。それもそのはずで、かの有名なカロッツェリア トゥーリングが解散した後に、そこの元従業員が作ったモデルなんだよ。

ランボルギーニ
ランボルギーニ
ランボルギーニ▲1968年に400GTの後継車として登場したイスレロ。4L V12エンジンをフロントに搭載するFRレイアウトを採用する。400GTのメカニズムを踏襲し、デザインは社内で行われた。69年には最高出力350psのハイパフォーマンスバージョンのSも発売された。生産台数はわずか225台とされる

——それは知らなかったです……。

松本 カロッツェリア マラッツィーという小さな工房だったんだけどね。トゥーリングといえばアストンマーティン DB5をスーパーレッジェーラ工法を使って作った話は有名だね。それとマラッツィーは、先月号の特集「名デザイナーが手掛けた美しきクルマたち」で、僕が取り上げたティーポ33ストラダーレも作っていたんだよ。

——確かに上品さという点で共通している感じがしますね。

松本 でしょ? フェルッチオ・ランボルギーニはトラクターからスタートし、エンジニアとしての成功を遂げた人物だからね。自分に必要かつ憧れのエッセンスがあればどんな車でも作り出せてしまう人だったんじゃないかと思うんだ。先進的な部分と保守的な部分、両方を兼ね備えた人物だったんじゃないかな。

——撮影したランボルギーニの中で印象に残っているのはどのモデルですか?

松本 どれも印象的だったけど、やはりミウラには鳥肌が立ったね。あのエンジン音は少年時代を思い出させてくれた。『個人教授』という映画があって、それにミウラが出てくるんだ。女性が乗るミウラ、本当に最高だよ。『ルパン三世』の峰不二子と重なって小学生時代に妄想が広がったよ(笑)。

ランボルギーニ
ランボルギーニ
ランボルギーニ▲1966年に登場した伝説のスーパーカーであるミウラ。ベルトーネに在籍していたマルチェロ・ガンディーニがデザインした。V12エンジンをミッドシップに横置きに搭載、当時のレースカーの最新技術が取り入れられている。1965年のトリノショーにシャシーだけのプロトタイプ(P400)が登場した

——やっぱり名作には名車がつきものですもんね。

松本 あと400GTもよかったよ。僕はフランコ・スカリオーネやトゥーリング製のボディが好きなんだ。当時のランボルギーニのロングノーズショートデッキは、長い12気筒エンジンを積んだハイパフォーマンスモデルなのに、それをエレガントさで上手に隠してしまうフォルムがすごいと思うんだ。エンジニアリングとスタイリングが上手にマッチしていて最高のマリアージュだと思うんだけどね。

ランボルギーニ
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ランボルギーニ▲ランボルギーニ初の量産モデル350GTの後継車として1966年に登場した2+2シーターの400GT。350GTの美しいボディラインはそのままに、ルーフなどをモディファイし2+2へ。4LのV12エンジンを搭載する。ミラノの名門コーチビルダー、カロッツェリア トゥーリングが生産を行った

——確かに、あの時は見て圧倒されましたもんね。

松本 ああいう曲線と直線が交差するフォルムは、簡単に真似することができないんだ。それに、インテリアも最高の素材を使っているよね。シートはペッカリーを使って身体をホールドさせているんだ。それと、外からキャビン内を見たときに美しさがわかるよう、ガラスエリアも上品に作られていてね。決して叶わない夢だけど、所有してみたい1台だね。

——そういえば、カウンタックの25thアニバーサリーもありましたよね。

松本 あれはカウンタックで最も販売されたモデルだよね。2年間で657台も作られたんだ。脈々とカウンタックの流れを汲んだ最後のモデルだからね。まさに完成版だよ。それとボディは次世代の新素材を多用して作られているはずだよ。アニバーサリーを開発したドライバーは、ランチア ストラトスでモンテカルロを3連覇したサンドロ・ムナーリなんだ。伝説のドライバーに開発を委ねた、その歴史も素晴らしいよ。アニバーサリーだけはハンドリングやスタビリティの操安性がとてもいいと聞いたことがある。さすがに試乗したことはないけど、アリタリアカラーのストラトスを自在に操ったムナーリが特別にセッティングしたモデルなんだから、最高に決まっているよ。

——ただ車がすごいだけじゃなくて、いろいろなエピソードが残っている。そういう意味でもランボルギーニってやっぱり特別ですね。

松本 まさにそのとおりだね。後世に残るモデルには伝説的なデザイナーやエンジニアが参画している。それがランボルギーニーの各モデルを紐解いていくとよく分かるんだ。そういう作り方が「名車への近道」なんだろうね。

※カーセンサーEDGE 2023年2月号(2022年12月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏