メルセデス・ベンツ 280SEクーペ▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!

1970年前後のメルセデス・ベンツは「塀の向こう側」の世界

今回は、「ヴィンテージ湘南」で出合ったメルセデス・ベンツ 280SEクーペについて、テリー伊藤さんに語りつくしてもらいました。

~語り:テリー伊藤~

今回紹介するのは、とても華やかなメルセデス・ベンツです。1969年式の280SEクーペ。僕はこの車に一目惚れしてしまいました。

実は僕のYouTubeチャンネルで先に紹介したのですが、あまりにも素敵な車なので、カーセンサーでも紹介させてもらおうと思います。

メルセデス・ベンツ 280SEクーペ▲W111といえばフィンテールが有名で「ハネベン」とも呼ばれますが、大きなテールフィンが付けられたのはセダンのみ

取材したヴィンテージ湘南によると、ステアリングのオリジナル色は黒でしたが、オプションだったアイボリーに換えられていました。

そして元々はクリーム色のボディを前オーナーがルーフをグリーンに塗り、インパネやシートもグリーンの革に張り替えたそうです。さらにこれらの色に合うように、ガラスもグリーンが入ったものに換えられています。

前オーナーは最高のセンスですね。クーペの優雅なボディラインにこれほど似合うカラーリングはありません。まさに社交界を想像させるパーティーカーですよ。

メルセデス・ベンツ 280SEクーペ▲取材車両はアメリカ仕様。本来はヘッドライトが縦目の4灯になるが、ヨーロッパ仕様のライトに換えられている

メルセデス・ベンツは日本で最も売れている輸入車ブランドです。

でも、多くの日本人にとってメルセデス・ベンツのイメージはGクラスでしょうし、かつては300TEに代表されるステーションワゴンだったのではないでしょうか。

効率の良さが求められ、どんなシーンでも違和感なく馴染むことができる車が求められる。しかも世界中で最も多く販売台数が伸びているのは中国です。メルセデス・ベンツに限らず、世界の自動車メーカーは販売台数が多い地域のニーズを取り入れた車づくりをします。

メルセデス・ベンツ 280SEクーペ▲選ばれた人のために作られた特別なクーペ

一方、今回紹介する280SEクーペはヨーロッパの上流階級向けに作られたモデルです。

平日はセダンを使い、週末は別の車で別荘に出かけ、パーティーには華やかな車で向かう。そんな車づくりがされていたことを感じます。現代社会とは対極の世界観ですよね。

1970年前後に日本でこういう車が走っていたのは、米軍の横田基地など「塀の向こう側」の世界。治外法権の場所を走る車のことなど、我々庶民が知る由もなかった場所のはず。

僕は当時もかなりの車好きでしたが、280SEクーペの記憶がまったくありません。

メルセデス・ベンツ 280SEクーペ▲当時は一般人の視界に入ることすらなかった。上流階級の人のためのものだったのでしょうね

当時の僕は大学生。仲間は4畳半共同トイレのアパートに暮らしていた時代です。きっとあまりにも世界が違いすぎて視界にすら入らなかったのでしょう。車好きの仲間と集まっても、ミニやMGの話をするのが精いっぱいでした。

それが50年の時を経て、こんなに素敵な仕様になって僕の前に姿を見せてくれたのですから、本当に嬉しいことです。

テリー伊藤ならこう乗る!

メルセデス・ベンツ 280SEクーペ▲サイドウインドウを下げるとこんなに広い開口部が出現!

280SEクーペは、ドアとリアクオーターのガラスを完全に下げることができます。ピラーレスの姿がとても美しい。

きっとセダンでもカブリオレでも僕はここまでときめかなかったでしょう。クーペだけがもつ特別なオーラが、僕を惹きつけたのだと思います。

しかも、前オーナーが手を加える前のオリジナル状態だったら見過ごしていたかもしれません。パーティーカーに仕上げられていたからこそ、僕は強烈に惹かれたのですから。

メルセデス・ベンツ 280SEクーペ
メルセデス・ベンツ 280SEクーペ▲エメラルドグリーンのインテリアが最高! 前オーナーのセンスに脱帽です

僕は鎌倉に住んでいることもあり、七里ヶ浜あたりをよく散歩しています。国道134号線沿いにある七里ガ浜の駐車場は車の流行がわかるとてもおもしろい場所で、散歩の際はよく止まっている車を眺めています。

今は3割以上がアースカラーで樹脂製のオーバーフェンダーを付けて黒い鉄ホイールを履いた車です。280SEクーペはその対極にある存在。僕なら、軽井沢をドライブしてイタリアンレストランで優雅な時間を過ごしたいですね。

価格は無理をすれば手が届きそうな金額でしたが、問題は保管場所です。

これだけいい状態で残っている優雅なクーペを野ざらしにするなんてかわいそうですから。残念ながら僕にはこの車にふさわしいガレージを用意できません。そう考えると今でも乗り手を選ぶ車なのは間違いないですね。

メルセデス・ベンツ 280SEクーペ▲トランスミッションは4AT。か細いシフトノブが色っぽい

だとしたら僕は自分で手に入れるのではなく、友人のドン小西さんに乗ってもらいたい。

若い人はドン小西というと、ワイドショーに出ているおじさんというイメージかもしれません。でも、FICCE UOMOを大成功させた彼のファッションセンスは素晴らしく、現在でも熱狂的なファンが多くいます。しかも、ファッションだけでなくインテリアのセンスも素晴らしい。彼の家に遊びに行くといつも驚かされます。

ドンさんならきっとこの素敵なパーティーカーを優雅に乗りこなしてくれるでしょう。

メルセデス・ベンツ 280SEクーペ▲これを優雅に乗りこなせる人はそういない。伊達男じゃないと無理でしょうね

メルセデス・ベンツ 280SEクーペ

1959年に登場したW111はリアの大きなテールフィンが特徴だったが、1960年に控えめなデザインに変更。そしてこのタイミングでクーペとカブリオレが追加された。1965年には後継モデルとなるW108が登場。ただ、クーペとカブリオレは1971年まで継続販売された。今回取材した280SEは250SEと300SEを統合して1967年にデビュー。搭載エンジンは2778ccの水冷直列6気筒で、最高出力160ps、最大トルク24.5kg-mを発揮。
 

文/高橋満(BRIDGE MAN) 写真/柳田由人

テリー伊藤

演出家

テリー伊藤(演出家)

1949年、東京・築地生まれ。早稲田実業高等部を経て日本大学経済学部を卒業。「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」「ねるとん紅鯨団」「浅草橋ヤング洋品店」など数々のテレビ番組の企画・総合演出を手掛ける。現在は演出業のほか、タレント、コメンテーターとしてマルチに活躍している。テリーさんの半生を綴った「出禁の男 テリー伊藤伝」(イーストプレス)が発売中。TOKYO MXでテリーさんと土屋圭市さんが車のあれこれを語る「テリー土屋の車の話」(毎週月曜26:35~)が放送中。YouTube公式チャンネル『テリー伊藤のお笑いバックドロップ』も配信中。