【功労車のボヤき】BMW Z3「いつから“カッチョイイ”より“カワイイ”方が偉くなったんだ?」
2022/05/03
――君には“車の声”が聞こえるか? 中古車販売店で次のオーナーをじっと待ち続けている車の声が。
誕生秘話、武勇伝、自慢、愚痴、妬み……。
耳をすませば聞こえてくる中古車たちのボヤきをお届けするカーセンサーEDGE.netのオリジナル企画。今回は、当時BMWから久しぶりの2シーターオープンがデビューしたと話題になったBMW Z3が物申す!!
ホントなら、今ごろプレミアムが付いて……
わからん……。
どう考えても、わからん……。
なぜ、このオレが世間から忘れ去られようとしているのか?
天下のBMWの、人気の3シリーズの、憧れのオープンカーであるZ3なのに、カーセンサーnetでヒットする中古車は、全国でたったの56台(2022年4月現在)。
しかも、平均中古価格は79万円。前期型の1.9Lモデル(つまりはオレなんだけど)にいたっては、50万円以下なんて車両も……。
1996年から2002年まで、他メーカーの2シーターオープンカーとは一線を画す筋肉質のハンサムボディで一世を風靡したBMW Z3。幌を開けて走れば、そのカッコよさに誰もが思わず振り返ったものさ。
ホントなら個性的なネオクラ車として、今ごろプレミアムが付いて高値で取引されてもおかしくないんじゃないか、と思うのだが……。
う~む、わからん……。
あの頃、シノギを削った初代ユーノス ロードスターは、今でも大人気らしいのに。
カワイイことこそが文化の価値基準?
わからん、わからん、と言いながらも、実は思い当たるフシがないわけじゃない。
ようするに、オレらのマッチョなボディと切れ長の目が、今どきの若者からしてみれば“カワイクナイ”のだろう、きっと。
対して、ライバルだったユーノス家のロードスターは、今でも“カワイイ”のである。
アルファロメオ家のスパイダーにしても、フィアット家のバルケッタにしても、みんなカワイイ。オープンカーに限らず、今、ネオクラ車が若者に人気なのは、現代の車にはないカワイサがあるから。
今や、この国では“カワイイ”ことが、なによりも大切なのだ。「カワイイ~!!!」と言われてナンボなのである。
ま、Z3を見て「カワイイ~!!!」とは……叫ばんわな。あの頃は、「カッチョイイ~!!!」と、あれほどもてはやされたのに。
つまりは、そういうことなのだ。
なんでもかんでも、カワイイことこそが、今のこの国の文化の価値基準なのである。
お子ちゃまかよ。
誰もが手に入れられるボンドカー
ここからは、大人なアナタと話したい。
オレがデビューしたのは、1996年。当時は、BMWからひさびさに登場した2シーターのロードスターとして注目を集めたもんさ。
時代は、初代ユーノス ロードスター(1989年デビュー)から火がついた、いわゆるライトウエイトな2シータ―オープンカーブームの真っ只中。
ドイツ車勢としては、メルセデス家のCクラスをベースにしたSLKなんてライバルもいたけど、オレらのイカしたハンサムボディの前には敵ではなかった。
あの頃までは「カワイイ~!」より「カッチョイイ~!」方がウケてたのさ。いい時代だったな。
ちなみに、オレはデビュー前年の1995年に公開された映画「007/ゴールデンアイ」にボンドカーとして登場したんだぜ。ティザーキャンペーンの一環ってやつさ。
それまでジェームズ・ボンドの愛車といえば、アストンマーティンをはじめとして高額な車ばかりだったから、“誰もが手に入れられるボンドカー”としても話題を集めたもんよ。
オレのカッコよさは、世界の伊達男ジェームズ・ボンドのお墨付きってわけさ。
違いがわかる男の2シーターオープン……その名はBMW Z3、なんてね。
時代は変わっても、カッチョイイものはカッチョイイ
わが一族は、ボディデザインはほぼ同じながら、エンジンの違いで前期型(1996~1998年/1.9L直4エンジン)と後期型(1999~2002年/2.0L直6エンジン)に分けられる。
とはいえ、前期型にも2.8L 直6エンジンの「Z3 2.8」なんてホットモデルがあったし、M3と同じエンジンを搭載した「Mロードスター」というさらに熱いモデルもあった。
後期型になると、Z3 2.8は「Z3 3.0i」に進化。さらにはクーペモデル(これがまたカッコよかった!)もあったし、ひとくちにZ3と言っても、いろんなバリエーションの兄弟たちが存在したんだ。
エンジンが違うのだから、それぞれ見た目は同じでも走りの印象はまったく異なる。好みに合わせて幅広いバリエーションの中から選べるというのも、中古車としてのZ3の大きな魅力のひとつだろう。
例えば、2.0LのMT車はシルキーシックスとして名高い6気筒エンジンを搭載し、しかも6気筒のBMWの中では最軽量(1300kg)で、さらにはそれをオープンエアで楽しめる唯一無二の存在だ。
あるいは、自分で言うのもナンだが前期型は人気がない分、中古車価格もかなり下がっているから、あえてナローな1.9Lで、のんびり風を感じながら走るってのも、違いがわかる大人の選択ってもんじゃないかね?
いずれにせよ、憧れのボンドカーが中古の軽自動車並みの値段で手に入るのだから、きちんと整備してオリジナルのまま乗るもよし、イジり倒して走り回るもよし、いろんな楽しみ方があるはずさ。
ちなみに、Z4がわが一族の後継車種のように思われがちだけど、クラスが違うし両車はまったく別の車であり、だからこそ、Z3は1代限りの貴重な存在でもあるんだぜ。
時代は変わっても、カッチョイイものは、やっぱりカッチョイイ。
どうだ、オレのZ3、カッチョイイだろ!!!
いくつになってもカッコよさにこだわり続けるそんなアナタを、きっと誰かが「カワイイ!」と思ってくれるに違いない……はずさ。
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BMW Z3(初代)×全国ライター
夢野忠則
自他ともに認める車馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。 現在の愛車は2008年式トヨタ プロボックスのGT仕様と、数台の国産ヴィンテージバイク(自転車)。