“ランチア

■これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
クラシックカー予備軍モデルたちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「クルマは50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。

デルタをベースに名門カロッツェリアが仕立てた希少2ドアスポーツ

——さて、2022年の1回目です。何か特別なモデルを紹介したくないですか?

松本 確かに最初だし、素敵な車がいいよね。今、カーセンサーEDGE.netを見ているんだけど、イタリア車ってほんと華があると思うんだよね。アルファ ロメオ ジュニアザガート、マセラティ スパイダーザガート、アルファ ロメオのモントリオールとかさ?

——今回はそれらに負けないぐらいの希少車を用意しましたよ。前にお邪魔したことがありますが、世田谷のシノダオートモービルさんに変わった車があったんですよ。松本さん、お気に召すかな? ザガートのハイエナ? っていうんですけど。知ってます?

松本 本当に? それは恐ろしくレアだよ。一度だけ実車を見たことあるんだけど、写真で見るよりもギュッと凝縮感があってさ。同じ系統のデザインだったアルファ ロメオ SZ(5ベースの新しいタイプ)よりもキビキビしてて、往年のザガートを彷彿とさせる軽快なフォルムなんだよ。

——やっぱり探してみると面白い車が流通しているんですね……。あ、この車ですね。あれ? これ何かの車に似てますよね? なんだろう。

松本 この車のコンポーネントはランチア デルタHFインテグラーレのエボルツィオーネなんだ。だからファーガソンタイプのフルタイム4WDを積んでるんだよ。

——あー。え? デルタHFインテグラーレって4ドアですよね? この車、2ドアですけど……。

 

ランチア ハイエナ ザガート
ランチア ハイエナ ザガート

松本 カロッツェリアザガートにとってはそんなのはお茶の子さいさいなんだよ。まさかと思うけどカロッツェリアザガートは知ってるよね?

——はい……ある程度は……ですけど。

松本 ホント、ちゃんと覚えておいてよ。このカロッツェリアを知らないと会話に加われないからね(笑)。

——念のため、もう一度説明をお願いします……。

松本 カロッツェリアザガートは、傑作と言われたフィアット 600ベースのGT モデルであるフィアットアバルト 750ザガートとか、アルファ ロメオ SZ、TZ、弩級のモデルだとアストンマーティン DB4 GTザガートなんかを作った会社なんだ。1950年代にはフェラーリをワンオフで作ったりしてたね。会社を作ったウーゴ・ザガートという人は、航空機技術に精通した人物でアルミ合金を多用して強度を上げる作り方を知っていた人と言われているんだ。

——ほうほう。

松本 まさに、憧れのカロッツェリアなんだよ。分からないかなぁ、このすごさが。

——わ、分かりますよ。

松本 ちなみに、僕は20年くらい前にこのカロッツェリアザガートへ行ったことあるんだよ。

——本当ですか?

松本 まだ近代的になる前の感じでね。写真でしか見たことなかったカロッツェリアの仕事場が幸運にも覗けたんだよ。小さなクレイモデルを置くテーブルに、赤と白のテーブルクロスを広げて自家製のパニーニと瓶に入ったジュース類を振る舞ってくれてね。そんなすごい会社なのに、とても気さくな人たちばっかりだったよ。カロッツェリアザガートの3代目であるアンドレアさんと一緒に歓談しながら楽しいランチタイムを過ごしたりしたよ。

——またすごい話ですね、それも。

松本 なんか無造作に、埃を被ったトロフィーが置いてあったんだけど、見たら1960年代のタルガフローリオのモノだったりしてびっくりしたよ。それほど大らかなカロッツェリアなんだ。こういう自由な雰囲気だから、小ロッドの素晴らしい作品が世に送り出せたんだと思うよ。

 

ランチア ハイエナ ザガート

——このハイエナザガートはどんな車なんですか?

松本 この車は経緯よりも詳細の方が大事だから生い立ちはあえて割愛するけど、クラシックカーに詳しいオランダの実業家がスケッチ見て作ろう! と狼煙(のろし)を上げたのがきっかけだったんだ。そして75台限定で作ることになった。そういえば昔、横浜にザガート・ジャパンっていう輸入元があって、何度か他のザガートを見に行ったな。

——これだけ大きく作り替えるのって、かなり大変なんですよね?

松本 そうだね。このハイエナを作るにあたって、かなり苦労したそうなんだ。なんといってもフィアット側はストリップアウトしたデルタ インテグラーレのシャシーだけはできないって主張していたらしく、仕方なくディーラーからランチア デルタHFインテグラーレを購入してきて、それをバラバラにして作ったんだよ。

——もったいない話ですね……。

松本 この車はプラットフォームとエンジン、動力伝達系はインテグラーレのものを使って、キャビンのほとんどはアルミ合金の板から叩き出して作られているんだよ。このあたりは昔ながらの作り方だね。FRPで型に樹脂や繊維を張って作る方式と違って、テクニックとセンスが問われるんだ。いわばアルティジャーノ(職人)ここにあり、みたいなモデルなんだよね。

——ちょっと他では見られないフォルムですもんね。

松本 スポーツカーとして軽量化にも配慮してあってね、ドアの内張りやダッシュボードはカーボンコンポジットで作られているんだ。しかもボディ剛性を高めるためにリアハッチが開かない、いわゆるモノフォルムで作られているんだよ。実用性よりも性能とデザインを重視したんだね。あと、オリジナルのランチア デルタHFインテグラーレよりも150kgも軽く作られているんだ。

——限定生産75台ってかなり少ないですよね?

松本 そうだけど、実際には75台は作られず、24台と言われているんだ。本当にレアモデルだよ。しかも作っているのはフィアット、アルファ ロメオやマセラティ、そしてランチアの黄金期を支えて、イタリアの輝かしいスポーツカー史を作ったカロッツェリアだからね。今、ハンドメイドの車にどれだけ価値があるか、流通価格を見れば分かるでしょ?

——確かにそのとおりですね。

松本 唯一無二の歴史ある少量カロッツェリア、ザガート社が作ったハイエナザガートはちょっとやそっとではお目にかかれないモデルだし、価値が上がるのはむしろ当たり前だと思うな。

 

ランチア ハイエナ ザガート

ランチア デルタ HFインテグラーレをベースに、名物カロッツェリアのザガートが仕立てた2シータークーペ。ボディには、ザガートが得意としていた軽量なアルミが用いられている。75台を予定していた生産台数は、最終的に24台のみに。撮影車両は正規輸入された3台のうちの1台となる。

ランチア ハイエナ ザガート
ランチア ハイエナ ザガート

※カーセンサーEDGE 2022年3月号(2022年1月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏