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■これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
クラシックカー予備軍モデルたちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「クルマは50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。

最高の心地よさを手に入れた新たなるセダンの解釈

——今回は松本さんが前から狙っていたモデルにしましたから、嫌とは言わせませんよ。個人的にはこのモデルの何が名車なのか全くわからないんですが……。そういう意味ではとても興味があります。思いっきり、思いのたけを語ってください。

松本 最近、この企画では新しいモデルも扱っているけど、かなり新しい部類だし、意外性もあるんじゃないのかな? 5シリーズのグランツーリスモだよね?

——はいそうです。オリジナル度が高くて、良い物件を見つけたので。こちらの車両です。

松本 この車、色がとてもいいじゃない。よくこんな素晴らしい色の物件、見つかったよね。

——せっかくですから無難な色より、こういう色の方がいいかなと。

松本 それは正しいね。個人的に購入するならばこの「ネプチューンブルーメタリック」が一番いいと思うな。この5シリーズ グランツーリスモは、コンセプトカーとして登場したとき、ベージュにゴールドを合わせたような淡いメタリックだったんだよ。淡い透き通った色がこの独特なファストバックには似合うと思うんだよね。

——大排気量エンジンが好きな松本さんのことだから、V8積んだ550iの方がいいって言い出すと思っていましたけど、こっちも素晴らしいと言われたのでホっとしましたよ。意外と中古車の流通台数は少ない車なので、いま取り上げないと、なくなっちゃうかもしれませんし。

松本 この5シリーズ グランツーリスモは2009年から日本で販売されたんだけど、そのときは3L直列6気筒と4.4L V型8気筒だけだったんだ。

——両方ともガソリンエンジンですよね?

松本 もちろん。この2つのモデルが5シリーズ グランツーリスモのアーリーモデルになるわけだね。僕は重厚感があるのに、スマートに加速する550iのV型8気筒ツインターボもいいと思うけど、本命は535iに初めて搭載されたN55B30という形式のインラインの6気筒仕様なんだよ。

——「排気量に勝るチューニングはない」っていつも言っている松本さんにしては、珍しいですね……。

 

BMW 5シリーズ グランツーリスモ
BMW 5シリーズ グランツーリスモ

松本 そうでしょ? このエンジンはBMWとしては初めての試みとなったツインスクロール型のターボチャージャーを採用しているんだけど、扱いやすくてこの車みたいな上品なモデルにはもってこいなんだよ。バランスの良いエンジンだから、加速中はとてもハーモニックなエンジン音を奏でるんだ。ZF社製の8HP型っていう8速ATも実に小気味よくシフトアップ/ダウンできてね。とても繊細な運転ができるんだよ。

——結構重たそうな見た目ですけど、走りはちゃんとBMWなんですね。

松本 そうだね。改めて国産車のAT制御との違いを感じたよ。運転のダイレクト感が違うと言えばいいのかな。550iより535iの方が積極的なシフト操作ができて良かったんだよなぁ。2013年でこのFR+3L直6ターボの設定はなくなるんだ。だから2009年から2013年の4年間しか作られていないモデルなんだよ。

——でも、BMWだからドライビングはある程度予想どおりな面もありますよね? この車の良いところはそこじゃないんじゃないんですか?

 

BMW 5シリーズ グランツーリスモ

松本 そのとおりだね。この車は試験的なモデルでもあったんだ。この際立ったファストバックモデル仕様はこれのみだったけど、当時はプログレッシブ アクティビティセダンという新しい解釈による活動的なセダンを目指したんだよ。

——BMWってそういう変わった新しい呼び名、好きですよね……。

松本 要はSUVの利便性に、ヘッドクリアランスを確保しつつ、乗り降りのしやすさも考えられた車だったわけ。しかも、フロントシートの快適性だけでなく、リアシートにもリムジンの快適性を求めたんだ。プラットフォームはフラッグシップの7シリーズと共用していたことからも、それがわかるよね。ファストバックにして最高の心地よさを演出していたんだよ。

——登場したのが2009年って考えると、早い仕掛けというか、攻めている方ですよね。

松本 そうだね。エクステリアのデザインも派手さはないけど落ち着いているのがわかるでしょ? リアから見ると同じ時期に販売されていた7シリーズの後ろ姿にも似ているんだよ。フラッグシップの装いを感じさせるこの感じがたまらなく好きなんだよね。7シリーズだと社用車やビジネスっぽいエッセンスをどうしても感じるでしょ? その方向ではなく、しっかりとプライベートでも使えるリムジンとして考えられているんだよ。これはかなり新しい試みだったと思うな。

——そういう新しいことに挑戦するの、BMWは早いし上手いですもんね。X5とかもそうだし。

松本 BMWって上品なブランドイメージだから、この5グランツーリスモもそれが前面に出すぎちゃったんじゃないかと思うんだよね。だからその個性を解釈できなかった人も多かったんじゃないかな。ワゴンのような荷室とキャビンが一体化していた方が、その人のライフスタイルがわかりやすいよね。それをSUVとは違うカタチで表現しているモデルなんだよ。そこに「ラグジュアリーさ」を注入したモデル、それが5シリーズグランツーリスモって車なんだよね。

——ひょっとするといろんな意味でBMWらしい車なのかもしれませんね。

松本 そうだね。このモデルが発表されたとき、なんて優雅でセンスの良い車なんだろうって思ったね。エクステリアのデザイン以上にインテリアがエレガントだよ。乗っている人をゆったりとしたおうような気持ちにさせるんだ。きっと、このモデルを新車で買う人って、扱い方もいいんじゃないかな。ボクのイメージだけど、精神的なゆとりとセンスのある人がオーナーだったんじゃないかなって(笑)。

——わかる気がします(笑)。

松本 心のゆとりってなかなか得られないものだけど、この5シリーズ グランツーリスモは乗るだけで、そういう気分にさせてくれるんだよね。こういう車も名車と呼んでいいと思うんだ。こういうモデルこそプレミアムブランドには必要だしね。成熟してない人にはこの良さがわからないかもしれないけどね(笑)。

——はい。まったくわかってませんでした(笑)。

 

BMW 5シリーズ グランツーリスモ

7シリーズをベースに、セダンの快適性とSUVの多用途性、クーペライクなスタイルなどを備えたクロスオーバーモデル。ハッチバック式のラゲージや広い室内空間など、使い勝手も良い。撮影車両の535iには、バルブトロニックを採用した直噴ツインスクロールターボエンジンが搭載されていた。

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BMW 5シリーズ グランツーリスモ×全国
BMW 5シリーズ グランツーリスモ
BMW 5シリーズ グランツーリスモ

※カーセンサーEDGE 2022年2月号(2021年12月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏