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■これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
クラシックカー予備軍モデルたちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「クルマは50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。

アルファ ロメオの伝統と歴史を語る、最後のFRホモロゲーションモデル

——今回の名車への道なんですが、何にしますか? 松本さんが狙っているモデルはかなり探すのが難しくて……。

松本 いつもお世話になっているお店に良い車ないかな?

——そうですねえ。例えばコレツィオーネさんだと……、フィアット 1100TV、アルファ ロメオ ジュリエッタスプリント、あとこれなんだ? アルファ ロメオ 75 1.8ターボ エヴォルツィオーネ? こんな車ありました?

松本 ちょっと待ってよ! 75の1.8ターボ エヴォルツィオーネがあるの? これは極めて希少性が高くて、知る人ぞ知るアルファ ロメオなんだよ。

——そうなんですか? 写真で見ると派手な後付け感バリバリのスポイラーやホイールが付いてて、なんか昔の消防車のように赤いんですけど……。しかも、タイヤがフェンダーの内側に入っていたりしてエマージェンシータイヤみたいに見えるんですけど。

松本 いやいやいや……。これはかなり希少な名車だよ。

——じゃあこちらを見に行きましょうか。

 

アルファ ロメオ 75 1.8ターボ エヴォルツィオーネ
アルファ ロメオ 75 1.8ターボ エヴォルツィオーネ

松本 この車、本当にオリジナリティの高い個体だね。

——本当、すごい色してますね……。

松本 ちょっとこれが限定? ていう不思議な色してると思わない?

——鮮やかというかクスんだというか、微妙なレッドですね。横にデカールで大きく「75 Evoluzione」って入ってるんですねぇ。

松本 ちょっとデジタルかかったグラデーションが微妙なバランスだよね。これは3M製のカッティングフィルムで作っているらしいよ。

——そもそも75自体が、すでにレアな車になりつつありますもんね。

松本 そうだね。アルファ ロメオ 75ってバブル期に作られた車でね。アルファ ロメオの創業75周年ということで付けられた車名なんだよ。

——この時代のアルファ ロメオのデザインってホント特徴的ですよね。

松本 ウエッジ型のデザインだね。ちょうどハイデッキ化したデザインが主流になりつつあったから、これは当時の最先端だったんだ。ウエッジシェープが極端で、クリエイティブな仕事をしている人からすごく評価されていたよね。でもね、実は75のデザインのベースにあったのは1977年に登場した2代目ジュリエッタなんだよ。現在主流であるハイデッキ化を見据えていた、進歩的なデザインだったんだ。

——言われてみれば似てますね……。

松本 その後に人気を博したメルセデス・ベンツ 190やアウディ 80などを見るとよくわかると思うよ。デザインしたのがエルマンノ・クレッソーニという人でね。カーデザイナーであり、建築家でもあったんだ。だからこそ単純なスタイリングにはならなかった。建築学を基にしているから、非常に理にかなったデザインになったんだろうね。

——75の話も尽きませんが、この75 1.8ターボ エヴォルツィオーネの話も教えてください。

 

アルファ ロメオ 75 1.8ターボ エヴォルツィオーネ

松本 この75 1.8ターボ エヴォルツィオーネは、当時のレースカテゴリーであるグループAの規定に適合させるため、500台のみが生産されたんだ。レースに勝つために作られたモデルの、これはそのベース車両ということになるね。

——この派手な見た目はそういう意味があるわけですね。

松本 そういうこと。だからこそ空力パーツを取り付けて、オーバーフェンダーにして、トレッドを増やしてコーナリングフォースを向上させてるわけ。特に素晴らしいのはシャシーなんだよ。リアにトランスミッションを搭載したトランスアクスルというタイプでね。前後配分を50:50にするために採用したんだ。しかも、アライメント変化が少ないドディオンアクスルっていう、コストはかかっても凝った形式を採用する、エンジニアリング主体のモデルだったんだよね。

——派手な見た目どおり、中身もかなりすごい車なわけですね。

松本 アルファ ロメオファンなら知っていると思うんだけどレーシングカーはA u t o d e l t a ( アウトデルタ) が担当していたから、ノウハウはバッチリだったんだ。だから20 年以上前のプラットフォームなのに、こういう車が作れた。このレース部門は1985年にALFA Corse(アルファ コルセ)というトラディショナルなレース部門に変更されたんだけど、そこで初めて登場したホモロゲーションモデルがこの75 1.8ターボ エヴォルツィオーネというわけ。その後、アバルト部門と一緒になり後に登場した155はDTMでも大活躍だったよね。

——そういう歴史があるんですね。

松本 ちなみにエヴォルツィオーネは、ホモロゲーションを通すためにターボ係数を掛けてもNAの2.5L以下になるよう、排気量を1762ccまでダウンサイジングさせたんだ。

——中身もそうですけど、登場背景とか歴史を知ると、車を見る目って全然変わりますよねぇ。

松本 そうだね。その後のアルファ ロメオはフィアットと共通のパーツを用いた量産車だから、アルファ ロメオ伝統の後輪駆動を用いた最後のホモロゲーションモデルがこの車になるんだよ。エンジンや駆動方式、サスペンションなど本当のアルファ ロメオの歴史を知るモデルの1台と言えるだろうね。

 

アルファ ロメオ 75 1.8ターボ エヴォルツィオーネ

ジュリエッタの後継として、アルファ ロメオ社75周年となる1985年に登場した、FR(後輪駆動)のセダンが75。それをベースに、グループA のホモロゲーションモデルとして500台限定で作られたのが、このエヴォルツィオーネとなる。メカニズム的にも凝った作りのベースを、さらに過激に仕立てている。

▼検索条件

アルファ ロメオ 75×全国
アルファ ロメオ 75 1.8ターボ エヴォルツィオーネ
アルファ ロメオ 75 1.8ターボ エヴォルツィオーネ

※カーセンサーEDGE 2022年1月号(2021年11月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏