バブルのあだ花 トヨタ セラ【懐かしのコンセプトカー】
カテゴリー: クルマ
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2010/02/17
トヨタ AXV-II(1987年東京モーターショー)→セラ(1990年)
「キター!! ガルウイングのセラ! スゴいインパクトだったよなぁ」。そう叫んだあなたは40代以上の御仁である可能性が高い。そして、冒頭の思いを心の中で叫んだ人も含めれば、相当数の人々に強烈な印象を残したのであった。20年以上の時を経てなお、これほどまでに印象深い車はそうはない。そんな、ほかにはない個性をもった車がセラである。
AXV-IIは、いかにも「コンセプトカー」といった風貌。どう見てもすぐに市販する気がないのがわかる
コンセプトカーが予想外にウケちゃった!
閉塞ムードの漂う現在ではまずデビューしなかったであろうモデルが、このセラである。その原型は、1987年開催の東京モーターショーに出展された「AXV-II」だ。写真を見てもらってもわかるとおり、AXV-IIは、明らかに市販を前提としていたMR2のコンセプト版SV-3などとは異なり、現実感がない。
つまり、直近で市販する意志はなかったと思われる。「モーターショーに展示してみたら、バカウケしたので市販してみようか」ということのようだ。
いくら反響があったからといって、コンパクトクーペのドアをガルウイングにしたというところは、バブル経済のパワーを感じる。リアのトランクにバイオリンとは、なんだか突拍子もない組み合わせ。とにかく作るほう(メーカー)も買う側(ユーザー)も、勢いが全然違うことを感じてしまう。その勢いに乗り、1990年に市販デビューを果たした。
中身は大衆車、でもガルウイング
市販車のスペックは全長3860×全幅1650×全高1265㎜。塔載エンジンは1.5Lの直4DOHC。「グラッシー・キャビン」と表現された、天井が全面ガラス張りというのも驚きであった。さらに驚くのはその売れ行き。最近のプリウスのバカ騒ぎとまではいかないが、あまり実用的とはいえないセラに初期注文が殺到した。
日本人の記憶中、ガルウイングの車で一番有名なのは、ランボルギーニカウンタックや映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でお馴染みのデロリアン。そう、トヨタはMR2同様に、スーパーカーのようなドアをコンパクトクーペに採用した。手頃な大衆車クラスに、スーパーカーのような仕掛けを採用する。この頃のトヨタは明らかにトヨタという「クルマ屋」としての「心意気」を貫いていた。ところがいまとなっては…。
当時話題になっていたのが「ガラスの屋根なので夏場はエアコンが利くのだろうか」という素朴な疑問。実際聞いてみると、確かに普通の鉄の屋根の車に比べれば利きはいまひとつという話であった。
筆者の従兄弟がしばらくたって中古の赤いセラを購入した。ガルウイングが予想以上に重たかったような印象をいまも覚えている。そのとき祖母が亡くなり、従兄弟と2人でそのセラで葬儀場に乗りつけたときの参列者の驚きの表情は忘れられない。珍しい車なだけでなく、ボディカラーが赤ということで葬儀場の裏に止めるように言われた。
「思ったこと、話題になったことは、なんでもしよう」、そういう時代である。バブル経済の頃の自動車メーカーは、惜しみなく金と手間を投入した。あだ花と呼びたいならそれでもいい。発売から20年が経過したいまでも、街中でパラパラと見かけ、見た人の印象に残り、思い出話がつい飛び出してしまう。
こんな車は今後二度と登場してこないであろう。車に対するみんなの夢が、なんでもかなう良き時代だったのだ。