▲真ん中は新鮮な房州海老やアワビ。こんな豪華なコースが、まさかこんな山奥で食べられるなんて…… ▲真ん中は新鮮な房州海老やアワビ。こんな豪華なコースが、まさかこんな山奥で食べられるなんて……

山道、細道、どんな道? 秘境の隠れ家に驚嘆!

例えば意中の人をドライブデートに誘うとき、いちばん頭を悩ませるのはやはり食事だと筆者は思う。とにかくロケーションが最高で、料理はもちろん全部美味しくて、コストパフォーマンスも良くて、ちょっとワクワクする感じのお店なら、筆者が多少ブサメンでもなんとかなるような気がしてくる。ただ、現実的にそんな店はなかなかないよな……なんて思っていたら、筆者の理想に近い店が千葉県は南房総市にあるという。これはドライブデートの予行演習もかねて、行ってみるしかないでしょう!

というわけで、知る人ぞ知る千葉の炭火焼&山海料理の店「典膳」へ車を走らせる。前もっていろいろ調べてみると、店の場所がかなりの山奥であることが判明。地図などを見ていただければ分かると思うが、徒歩や自転車では訪れるのが少々難しいところに位置しているので、地元の方以外は、素直に車かバイクで行くことをオススメしたい。

東京からは東京湾アクアラインを経由し、富津館山道路の鋸南富山ICで降りるか、終点の富浦ICで降りるのが最短だ。どちらのICで降りても、そこからさらに40分くらいかかるし、首都圏からならばちょっとした小旅行になるので、彼女が退屈しないように、小粋な小話でも考えておいた方がいいかもしれない。

ちなみに今回は筆者と編集部のたけだ氏との男2人旅。男同士なので、双方会話を盛り上げる気もなく、車中にはどんよりとした空気が漂っていたことを付け加えておきたい。

▲ここが「典膳」への入口だ。看板によると、御殿山のハイキングコースの入口でもあるらしい ▲ここが「典膳」への入口だ。看板によると、御殿山のハイキングコースの入口でもあるらしい

国道410号をひた走ると、「隠れ屋敷 典膳」の看板を発見。隠れ屋敷だけどアピールはしたい、そんな複雑な思いを抱えた立て看板を横に、車は山道を入っていく。ここから、ところどころに立っている「典膳」の看板に沿っていけば迷うことはない。というか一本道なので迷いようがないのだが。

ちなみに、房総半島はブルーベリーの栽培が盛んなようで、あちこちに「ブルーベリー摘み」の看板も立っている。だいたい6月中旬~9月初旬がブルーベリー摘みのシーズンらしいので、この時期はデートの際に立ち寄ってみるのもありだ。

▲道の両脇に巨木が林立。まるで天狗でも出てきそうなうっそうと茂った森の中を走る ▲道の両脇に巨木が林立。まるで天狗でも出てきそうなうっそうと茂った森の中を走る

「本当にこの先に店があるのだろうか?」という不安を胸に、山奥へと突き進む。道はそれほど広くないので、対向車が来たらかなり端に寄せないとすれ違うのも難しいかもしれない。

森の中をしばらく進むと、ようやく開けた場所に到着。ああ~目的地の「典膳」に着いた! さっそく店の前の駐車場に車を止める。だいたい15台くらいは止められるほどの広さだ。

店はまさに山に囲まれた隠れ家といった風情で、江戸の武家屋敷の門と玄関を移築したというその外観は雰囲気抜群だ。

▲「典膳」という店名はこの土地が江戸時代の剣豪・御子上典膳吉明(みこがみてんぜんよしあき)の出生地であることに由来。またの名を小野次郎右衛門忠明といい、関ヶ原の戦いでは上田七本槍の1人として活躍。さらに、目を閉じながら宮本武蔵の攻撃をかわしたという逸話が残るほどの、剣の達人だったようだ ▲「典膳」という店名はこの土地が江戸時代の剣豪・御子上典膳吉明(みこがみてんぜんよしあき)の出生地であることに由来。またの名を小野次郎右衛門忠明といい、関ヶ原の戦いでは上田七本槍の1人として活躍。さらに、目を閉じながら宮本武蔵の攻撃をかわしたという逸話が残るほどの、剣の達人だったようだ

中に入ると、古物がずらりとお出迎え。なんだこの店は。個室が5部屋あり、その中の一室に通される。まず驚いたのが、部屋の涼しさ。取材にいったときは初夏だったのだが、山から吹く風がス~っと部屋に入ってきて、ものすごく心地いい。クーラーいらずだ。

窓からは眩しいくらいの山の緑を楽しめる。店主の山本剣さんによると、風の音や鳥の声、そして森の爽やかな空気の中で海や山のご馳走を食べてもらおうと思い、この山奥に「典膳」を開業させたという。こういうシチュエーションは女性にも喜ばれるのではないか。

▲店は完全予約制で全部屋個室。昼に5組、夜に5組の1日計10組のお客さんを受け付けている ▲店は完全予約制で全部屋個室。昼に5組、夜に5組の1日計10組のお客さんを受け付けている
▲テーブルに映るくらいの山の緑と清々しい房総の初夏の日差し! 最高でございます ▲テーブルに映るくらいの山の緑と清々しい房総の初夏の日差し! 最高でございます

炭火料理で有名な「うかい鳥山」で修行した山本さんが11年前にオープンした「典膳」は、観光客はもちろん、地元の人からも親戚や友人をもてなすときなどに利用する特別な店として愛されている。

そして、筆者の予想どおりというか、ドライブデートのカップルなどもよく訪れるという。曲がりくねった細い道を抜けたところに武家屋敷&絶品グルメ。そのサプライズ感が受けるのだろう。

というわけで、さっそくその絶品グルメを味わいましょうか。店の一番人気である「房州海老・あわび・さざえコース」(税込み5900円)をオーダー。ご主人、よろしくお願いします!

運ばれてきた房州海老はなんとまだ生きていた。しかし、容赦なくそのまま網の上へ。じっくりと炭火の上であぶられた海老は、赤黒い生の海老の色から、鮮やかでなんとも美味そうな珊瑚色へと変化していく。さらにアワビやサザエ、イワシも網の上へ。しばらくすると脳と腹を同時に刺激するようなめちゃくちゃ美味そうな磯の香りが漂ってきた。うぉ~早く食べたい! 

▲房州海老とはいわゆる伊勢海老の千葉県での名前なのだが、実は外房地域の伊勢海老の漁獲高は、なんと日本一。むしろ房州海老という名が全国区になるべきなのでは? と思う筆者だった ▲房州海老とはいわゆる伊勢海老の千葉県での名前なのだが、実は外房地域の伊勢海老の漁獲高は、なんと日本一。むしろ房州海老という名が全国区になるべきなのでは? と思う筆者だった
▲この豪華スターたちの共演をぜひ見てほしい、そして「美味しく焼けろよ」と応援してほしい! ▲この豪華スターたちの共演をぜひ見てほしい、そして「美味しく焼けろよ」と応援してほしい!

そして、いよいよそのときがやってきた。網に乗せてから5分くらい経っただろうか。あまりにも熱かったので、筆者は山本さんに殻を剥いてもらったのだが、女性と来る予定のある男性諸氏は男らしく剥いてあげるのがいいんじゃないかな。

それにしても、もう、そのビジュアルがすでに反則である。超美味そう! いただきます、さっそくそのままガブリッ! ~~~~! 大昔から使い古されている陳腐な表現で大変申し訳ないのだが、超プリップリッ!! プリップリ以外の何ものでもないほどのプリップリ具合である。房州海老の香ばしさと甘みが口の中に広がる。正直、この美味さを文章で表現しようとしても限界がある。実際に食べてもらうしかない。降参だ、降参!

▲味付けはきちんと塩がきいているが、特製タレを付けてもOK。タレは基本的には肉料理に付けるためのものらしいが、好きなように付けて食べたらいいじゃない! ▲味付けはきちんと塩がきいているが、特製タレを付けてもOK。タレは基本的には肉料理に付けるためのものらしいが、好きなように付けて食べたらいいじゃない!
▲「海老みそも美味いんですよ」と山本さん。海老の脚側にびっしりと詰まった黄金色の海老みそは、クラクラするほど濃厚で最高。夢中で箸でほじくってしまった ▲「海老みそも美味いんですよ」と山本さん。海老の脚側にびっしりと詰まった黄金色の海老みそは、クラクラするほど濃厚で最高。夢中で箸でほじくってしまった

続いては、肉厚でジューシーなアワビの丸焼きをいただく。しっかりとした弾力があるのにやわらかいし、野趣あふれる味なのに品もある。磯の旨味が凝縮されていて、本当に美味い! そして、さすがの厚みは“アワビ食った感”が満点。

そのお隣で焼かれていたサザエもちょうど食べごろになった。挿してある楊枝をグリンッとひねると、ズゾゾゾ~と中身が出てくる。中身はややグロテスクだが、ここが”大人の苦味”の詰まった部分である。超濃厚なサザエの風味は、癖になってしまう美味しさだ。さすが、サザエ。いや、あえて敬称をつけて呼びたい。サザエさん、と。

▲アワビは安定供給のために千倉産の養殖物。海老もアワビもししとうや玉ねぎなどの野菜も「お好みの焼き加減で焼いてください」と山本さん ▲アワビは安定供給のために千倉産の養殖物。海老もアワビもししとうや玉ねぎなどの野菜も「お好みの焼き加減で焼いてください」と山本さん
▲サザエもプルリンッとしてめちゃくちゃ美味そう。一気に頬張りたい ▲サザエもプルリンッとしてめちゃくちゃ美味そう。一気に頬張りたい

メインの炭火焼き料理も絶品だが、その他の料理も丁寧に手をかけて作られていることが分かる。ワラサとカサゴのお造りは自家製の大葉のソースでいただくのだが、このソースがバジルソースのようなイタリアンテイストで、めちゃくちゃ白身に合うのだ。ボーノ、ボーノ! 前菜の小鉢を筆頭に、サラダ、揚げびたし、ごま豆腐などもしっかりと美味い。

また、今回のコースには含まれていないが、その他のコースでは、写真の里見和豚の串焼きも楽しむことができる。彼女が肉派か魚派かによってコースを選んでもいいかもしれない。

▲里見和豚は南房総市の白浜地区で育てられている豚で、ストレスフリーの環境で飼育されているため、肉質がよく、甘みがあるのが特徴だ ▲里見和豚は南房総市の白浜地区で育てられている豚で、ストレスフリーの環境で飼育されているため、肉質がよく、甘みがあるのが特徴だ

最後のシメは、麦とろご飯。千葉県産の山芋をつかったとろろは、ほどよい粘りで、スッと茶碗の上に流れていく。ちょうどいい味付けのとろろと、絶妙に炊きあがった麦飯がマッチして、何杯でもおかわりできそうだ。おひつにおかわり用のご飯がきちんと用意されているので、腹ペコさんも安心だ。

▲麦とろご飯か焼きおにぎりかを選ぶことができる。焼きおにぎりも絶対にうまいはず! ちなみに「典膳」には水道が来ていないので、水はすべて湧き水らしい。米を炊く水や汁物もすべて湧き水。ただの麦茶も異常に美味いのはそのせいか ▲麦とろご飯か焼きおにぎりかを選ぶことができる。焼きおにぎりも絶対にうまいはず! ちなみに「典膳」には水道が来ていないので、水はすべて湧き水らしい。米を炊く水や汁物もすべて湧き水。ただの麦茶も異常に美味いのはそのせいか

最後に梅やブルーベリーなどをゼリーで寄せた季節のデザートを味わってフィニッシュ! 本当に満足できるコースだった。いや、個室だし、料理は美味いし、ドライブデートにぴったりですよ、このお店。もちろん、家族や友達同士でもOK。

とにかく五感すべてで感動できるので、南房総に訪れた際にはぜひ足を運んでみてほしい。ただ、携帯は圏外気味なので、そこだけお気をつけを。

隠れ屋敷 典膳
住所:千葉県南房総市宮下1822
営業時間:
[昼]午前11時30分~午後3時 [夜]午後5時~午後8時 ※午後10閉店
定休日:なし
※2015年7月21日時点の情報です。上記は変更される可能性があります。ご了承ください
※その他、詳細は公式HPをご覧ください。

text/TOM photo/たけだ たけし