AZオート▲お店の周囲には複数のストックヤードがあり、すべてイタフラ車でギッチリ。その異様な光景はお店の目印にもなっているので通りかかればすぐに見つけることができる

なぜこのビジネススタイルで成立するのか? そんな疑問を抱かざるを得ない中古車屋さんは意外と多い。しかし、その秘密や理由を尋ねると、驚くべき考え方が詰まっていたりする。今回は大量の在庫車に囲まれている謎めいたイタフラ車専門店に突撃してみた。
 

目指しているのはイタフラ車のハードルを目いっぱい下げた中古車屋

「若くてお金のない子が楽しいイタフラ車を買えなくなったら困るでしょ。私もビンボー人だし、そこは応援してあげたいんだよね(笑)」と言うのは、今どきあり得ないボランティア系イタリア&フランス車専門店とも言うべき『AZオート』の岩原社長だ。

レア系上玉アルファ ロメオやマセラティを300万円以上の価格で扱うオシャレ店とは構えもムードも全然違う。

場所は横浜。第三京浜の都筑インターからほど近い郊外の住宅地に佇む母屋は、ほぼプレハブ。置いてあるのは10年から20年落ちくらいのフィアット 500やパンダ、ムルティプラ、プジョー 207や208、306、ルノー メガーヌ、ルーテシアなどの大衆銘柄ばかり。

肝心の車両本体価格は50万円以上から100万円前後ばかりで、諸経費を多めに見積もっても総額200万円以下。そこらへんの国産新車より安い。多少は壊れるかもしれないけど、すぐに直せるし乗って楽しいイタフラ車ばかりなのだ。

さらなるキモは、とても1店舗とは思えない量のトンでも在庫数で常時200台以上。見渡せば店舗の隣の隣から、道を挟んだ駐車場まで中古車で埋め尽くされている。いわば1000円もあれば腹いっぱい食ってもオツリがくる、輸入車版の『おふくろの味食堂』みたいなもん。ただし、ボスは太ったマンマじゃなくて御年70歳の岩原社長。気になる故障も自社工場などを使ってちゃんとメンテナンスしてくれる。

ところで岩原社長、最初からラテン好きのカーマニアだったかっていうと、全然違う。40年以上この中古車業界にいるが、最初の3年は国産系で働き、後にあるラテン車ブローカーに誘われて今のイタフラ系にハマったクチ。

だから国産車にラテン車はもちろんドイツ車やアメ車と、ひと通りビジネスは知ってるわけだけど、今のスタイルは正直儲かるジャンルじゃない。損得勘定的には割合わないが、なぜやってるかって「イタフラ車好きはイイ人が多いし、楽しいからね。簡単な故障くらい自分で直せるし、そもそも信用できるお客さんが多い」とか。

逆に国産車を選ぶ人は「ボンネットすら自分で開けないし、もちろん自分でタイヤ交換なんかしないし、車のことを覚えようという人が輸入車に比べると少ない。車好きの人は別だけど、国産車を選ぶ一定以上の人は、車に無関心な人が多い」と、感じるのだとか。
 

AZオート▲この不思議なスタイルを長く続けている代表の岩原和彦氏。これだけ在庫を抱えているのに、車集めがもはや日課になっていて、総在庫車が大きく減ることはないそうだ

キーワードは「似た価値観の人が集まるお店にしたい」

かたや、ドイツ車は「道具としては素晴らしい。特にメルセデス・ベンツとかエライとすら思う。機械工学を感じるし、走りもちゃんとしすぎるくらいしてる。ただ、自分で欲しいとは思わない」

一方、アメリカ車は「好き。どっちかっていうと好き。オールズモビルとかニューヨーカーとかカマロとか好きだったし、ふんぞり返って運転できるところがいい」

結局、キモは関わる人間なのだ。儲かる儲からない以上に、楽しい人と付き合いたいし、ビジネスしたい。だから岩原社長は大衆イタフラ専門店をやっているのだ。

「オーナーさんとは昨日今日の話だけじゃなく、未来の話ができるし、政治の話もできる。それから宗教的でもある。悟りを開けるんだよブローカーなのに(笑)」

結局のところ、店に来る客の気持ち良さで選んだらイタフラ屋になっちゃったってことか。

「だいぶ壊れないようになってきたけど、いまだ国産車と比べるとメンテナンスフリーじゃないですよ。でも車ってそういうものだし、そもそも完璧なんてこの世にないと思ってるから。僕は『車は壊れない方がいい』って人の意識を変えたいんですよ。イタフラ車で本当の意味で楽しいカーライフを教えてあげたい、特に若い人たちには」

イタフラ車で教える人のあるべき生き様であり、イタフラ車でする真っ当な世直し。こんな不思議な金八センセーみたいな車屋、初めて見たかもしれません(笑)。
 

AZオート▲こちらはお店の裏手にあるストックヤード。売り物だけでなく部品取りとなどに使う車も並べられているので、奥に行けば行くほどびっくりするようなレアな車両が隠れている
AZオート▲変わったネオクラ輸入車の代表格である2ドアミニバンのルノー アヴァンタイム。ちなみに取材時、アヴァンタイムは複数台ストックされていた
文/小沢コージ 取材協力/AZ-AUTO tel. 045-534-9111 https://az-a.jp