テックツアー ▲スバル研究実験センターにて「スバルが自社の取り組みなどについてプレスに解説する」というイベントに、現役スバルユーザーの筆者が参加してきました!

現役スバルユーザーの筆者がSUBARUの事故低減に向けた取り組みを体感!

ランチア デルタ インテグラーレや空冷ポルシェ 911など、「中古の輸入車」をひたすら愛好してきた筆者が、なぜか突然「新車のスバル XV」を購入したのが今から約5年前。そして現在は、約2年前に購入した現行型スバル レヴォーグのSTIスポーツEXというグレードにひたすら満足しながら乗っている。つまりは「現役のスバル車ユーザー」である。

 

そしてスバル車乗りとなってから5年、ついに「SUBARU テックツアー」に参加できることになった。

「SUBARU テックツアー」とは、栃木県佐野市にあるスバル研究実験センターにて「スバルが自社の取り組みなどについてプレスに解説する」というイベント。去る2023年2月19日に開催された2022年度第3弾は「SUBARUの事故低減に向けた取り組み(走行安全編)」という内容であった。

当日行われた内容を超ざっくりまとめると、

●驚愕のウェルカムデモ走行
●技術に関するマジメなプレゼン
●高速周回路での200km/hオーバー走行体験と、200km/h超からのフルブレーキング体験など(※これは筆者がステアリングを握ったわけではありません)」
●研究実験センター内「商品性評価路」での新型クロストレック試乗
●EVである「ソルテラ」の急坂試乗と、モーグル走行の見学
●開発陣との質疑応答

ということになる。
 

テックツアー▲こちらはソルテラの急坂試乗の様子

上記の内容について、スバル車乗りとしてすでに知っていることもあったが、「知らなかったこと」「驚いたこと」も多かった。

それでは以下、現役のスバル車ユーザーである筆者が何にどう驚いたのか、詳しくご報告しよう。
 

 

驚き!感激ポイント①:スバルにテストドライバーはいない!?

まず最初にぶったまげたのは、高速周回路での「ウェルカムデモ走行」的なものだった。

これは、1周4.3kmの楕円形高速周回路にある43度のバンク部分を、3台のスバル WRX STIと1台のスバル BRZがかなり近接した“編隊”を組んだまま、200km/hほどで我々プレスの目の前をジェット戦闘機並みの爆音(?)とともに駆け抜けるという「この日最初のごあいさつ」だ。
 

テックツアー▲壁とも見間違うバンクを猛スピードで駆け抜けていく

1周目における4台の“陣形”は逆スラッシュ型。車両間の距離は……あまりにも速すぎてちょっとよくわからなかったが、おおむね2mといったところか?

200km/hで並走するにはあまりにも近すぎる距離であり、筆者であれば120km/hぐらいでも、たぶんできないだろう。WRX STIのボディカラーがブルーということもあって、そしてテストコースに轟く音があまりにもジェット戦闘機のそれに似ているということもあって、雰囲気的にはほとんど「航空自衛隊のブルーインパルス」である。

そして「栃木のブルーインパルス」は2周目を“超近接した単縦陣”にて見事にキメたのち、しかるべき場所に停止。そしてレーシングスーツ姿のドライバーたちが、WRX STIおよびBRZから降りてきた。
 

テックツアー▲2週目の単縦陣。ハラハラするほど車間距離が近い

筆者は当然ながら、スーパーGTのGT300クラスにスバルの車両で参戦している井口卓人選手と山内英輝選手あたりが降りてくるのだと思った。「今日は特別に、両選手においでいただきました!」みたいなアナウンスとともに。

だがブルーのWRX STIから降りてきたのは「フツーのおじさん」だった。そして白いBRZから降りてきたドライバーも、また違ったタイプのフツーのおじさんだ。
 

テックツアー▲当日のプログラムを担当していただいたドライバーの方々

先ほど「……ほとんどブルーインパルスじゃねえか!」と叫んでしまうほどの超高速編隊走行をキメたのは、スバルに勤務しているフツーの会社員だったのだ。

スバルという自動車メーカーに、いわゆるテストドライバーは在籍しておらず、「主に開発を担当している社員全員がテストドライバーである」という体制を敷いていることは知っていた。

だが彼ら・彼女らのテクが「航空自衛隊のブルーインパルスを想起させるほどのレベル」であるとは、知らなかったのだ。

もちろん社員テストドライバー(要はエンジニア)全員が、43度のバンクでブルーインパルスっぽいことを200km/h超でキメられるほどのスーパーテクを持っているわけではない。当日のデモ走行を担当したのは、スバルの(主に)エンジニアを対象にドライビングスキルを磨き、開発に活かしていく目的で行なわれている育成プログラム「SDA(SUBARU DRIVING ACADEMY)」の中でもトップ・オブ・トップの人たちだ。

だがスバルの場合はすべてのエンジニアがSDAでドライビングスキルを磨き、「自分が開発してる車の出来栄えとフィーリングを都度都度、自分で評価する」ということになっている。
 

テックツアー▲技術向上のために用いられるBRZ

一般的な自動車メーカーには「専門のテストドライバー」がいて、その方々ももちろん超絶凄腕なわけだが、「テストドライバーが得た感性評価」を「エンジニアに向けて論理と数値に翻訳する」という作業が、どうしても途中で入ることになる。

だがスバルの場合は「全エンジニアがテストドライバー」であるため、自分が設計において企図した動きやフィールを、実車で再現できているかどうかを自分で感性評価し、そしてまた自分で論理と数値でもって修正していく――というやり方を採用している。

そうであるがゆえに、そしてその“走れるエンジニア”たちがSDAでさらにビンビンに鍛えられているがゆえに、筆者が愛してやまない「あの走行フィール」が生まれているのだ――と短絡的に結論づけられるほど、車両開発というのはシンプルな話ではないのかもしれない。

だが「フツーのおじさんたちによるブルーインパルスまがいの走行」は、間違いなく「この人たちが開発した車を買って本当に良かった……」と、筆者にしみじみ思わせるには十分であったのだ。

テックツアー

感激のあまり「おっさんずブルーインパルス」に関する記述が長くなりすぎてしまったかもしれない。すみません。以下は短めに、リズムよく進めていくことにしよう。
 

 

驚き!感激ポイント②:WRX STIはノーマル状態でもやっぱりすげえ!

高速周回路の脇で「おっさんずブルーインパルス」の勇姿を拝見した後は、デモランを行ったエンジニア氏がステアリングを握るスバル WRX STI(※現在、新車の販売は終了)の助手席に乗り込み、周回路での超高速走行の同乗体験をさせてもらうことになった。
 

テックツアー▲周回路走行を体験すべくWRXに乗り込む筆者

まずは直線部分でおおむね200km/hまで加速し、アクセルも(たぶん)緩めないまま、43度のバンクに進入する。

……マジか?  減速しないの? 僕、今日死ぬの? などと思ったが、WRX STIは何事もなかったかのように、200km/hをちょい超えたぐらいのメーター読み速度でバンクを駆け、運転席ではエンジニア氏が「うーん、この張り付く感じ、おわかりいただけますか~?」などと、まるで天気の話でもするかのようなニュアンスで話をしている。
 

テックツアー
テックツアー▲車体はこんなに斜めだが、遠心力のお陰で路面に張り付けられる感覚

そしてバンクを抜けて直線部分に入ると、「じゃ、200km/hからフルブレーキングしてみますね(ハート)」みたいなことを言ったそばから、ガツン! とフルブレーキングをカマす。これまた「マジか! 死ぬ!」とも思ったが、WRX STIはその姿形をいっさい乱すことなく、推定制動距離は……ちょっとわからないが、想像以上に短い距離で完全停止を果たした。
 

テックツアー▲周回路を疾走するWRX

その後は80km/Lほどの低速でバンクに進入し、「遅すぎて、バンクの下に落ちて死ぬ! 逆に!」とも思ったが、落ちることはいっさいなく、その後の“コークスクリュー”と呼ばれる「バンクを低速にてスラローム走行する」ような走り方においても、WRX STIはひたすら安定しまくっていた。

そして筆者はテストドライバー氏に……じゃなかったエンジニア氏に、聞いた。「さすがにこのWRX STIってフルノーマルじゃないですよね? 足とかブレーキとか、それなりの仕様に替えてるんですよね?」と。

だがエンジニア氏は言った。「いいえ、フルノーマルですよぉ(ハート)。あ、速度リミッターだけは解除してますけどね!」

だが筆者は重ねて問うた。「なるほど。でも、さすがにこういった走りができるのは『WRX STIだから』であって、私が前に乗っていたXVとか、今乗ってるレヴォーグとかではちょっと難しいですよね?」と。

するとエンジニア氏は、真顔に戻って言った。

「もちろんVmax(最高速度)は異なりますが、スバルの車は――仮にSUVやステーションワゴンであったとしても、こういった走りが可能です。そうできるように、我々は作っているんです」
 

▼検索条件

スバル WRX(初代)× 全国
 

驚き!感激ポイント③:新型クロストレックは発売まで地味に改良され続けてる!

高速周回路での超絶同乗体験の後は「商品性評価路」という一般的な公道を模したコースで、「2023年春発売」とアナウンスされている新型クロストレックと、その前身である現行型XVの比較試乗を行った。

この際に筆者は「やっぱり新型クロストレックはいい車だし、従来型XVよりも8%ぐらい良くなっているなぁ」などとのんきな印象を覚えたわけだが、よくよく考えてみると、昨年10月に某所で試乗したプロトタイプより、今回試乗したプロトタイプのほうが「微妙に良くなってる」との印象も受けた。
 

テックツアー▲こちらはXV。旧型にあたるが乗り心地は抜群
テックツアー▲XVの完成度は高いですが、確かにクロストレックの乗り味が良くなっていることが体感できました

だがそれは「気のせい」「体調のせい」「天気のせい」などの可能性もあるため、開発責任者氏にウラを取ってみた。「なんか、前よりちょっと良くなってる気がするんですが?」と。

すると責任者氏は「あの後も今に至るまで、実はいろいろと細かな改良を続けてますよ~」と、自信ありげに笑った。

もちろん「市販バージョンの内容が確定するギリギリまで改良を続ける」というのは、自動車メーカーとしては当たり前のことなのだろう。だが昨年10月に試乗した段階でも相当良かったアレを、さらに微妙に良くするというのは、立派な減量を成功させたボクサーが「さらにあと1kg絞る」みたいな話であるような気もする。

いずれにせよ「今年春の発売」とされている新型クロストレックは、相当いい感じに仕上がってくるだろうことが濃厚に予想される。楽しみであり、検討中の方も、ぜひ楽しみにしておいていただきたい。
 

テックツアー▲テストコースにはRのきついコーナーや公道のような荒れた路面も再現されていた
 

驚き!感激ポイント④:スバル研究実験センターは、なんとなく“航空自衛隊の基地”っぽい!

栃木県佐野市のスバル研究実験センターは「部外者が敷地内に入る際は、写真が撮れたりする電子機器の持ち込み禁止。持ち込む場合は、機種名やシリアルナンバーも事前に報告せよ」という感じのハードコアな場所なわけだが、「手前側にあるメインの建物」みたいなところは、今どきのおしゃれ感が強いデザインになっている。そのため「完全社外秘の研究実験センター」ではなく、むしろ「どこかの国際会議場」にでもいるような気分になる。
 

テックツアー▲多く見せることはできませんがこちらがその「どこかの国際会議場」のような建物

だがそこから先の「表から見えない場所」の作りは……筆者の実兄も奉職していた「航空自衛隊」の基地内の雰囲気に似てる! というのが筆者の印象だ。スバルの人がどう思っているかは知らないが。

虚飾をいっさい排した広大な敷地の中に多数点在する灰色の実験施設建物は、ほとんど「戦闘機の格納庫」のようである。そのため「……あの中には中島飛行機が開発した旧陸軍の四式戦闘機“疾風”が格納されているに違いない!」などと、脳が時空を超えたバグを起こしてしまいそうになるのだ。

もちろんそこには四式戦などないわけだが、武器庫……じゃなかった灰色の実験施設建物の前には、W124こと4世代前のメルセデス・ベンツ Eクラスが置かれていた。“敵国”の往年の名機を今も解析し、一部参考にしていたりするのだろう。戦闘機でいえば「旧ソ連のミグ25を鹵獲(ろかく)し、その構造と性能を分析している」という感じだろうか? わからないが、「中島飛行機」をその源流のひとつとするスバルの実験施設に来ると、ついついこういった妄想にとりつかれてしまうのである。
 

テックツアー▲飛行機もそうだがスクーターも製造していた。こちらはラビットといわれるモデル

……話がずいぶん脱線してしまったような気もする。そういえば今回のテックツアーの主題は、「SUBARUの事故低減に向けた取り組み(走行安全編)」であった。

それについて言うのであれば、「走りを極めれば安全になる」「どんな局面でも車体を意のままにコントロールできる車であれば、危険を回避できる」というのがスバルの言い分であり、そのために、この施設と、「おっさんずブルーインパルス」を代表とする“走れるエンジニア”たちがいる。

素人ドライバーにすぎない筆者は、当然ながら走りを極めてなどいないし、緊急回避操作について自信があるわけでもない。だが「この車(XVやレヴォーグ)に乗っていれば、まぁたいていのことは(たぶん)大丈夫だろう」ということだけは、常日頃からビンビンに感じ取っている。

その「たぶん大丈夫だろう」というフィーリングの“根拠”の一部を見いだせたことが、今回のテックツアーにおける個人的な、大変大きな収穫であった。
 

文/伊達軍曹 写真/篠原晃一、スバル
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。