Le Man▲モータースポーツの世界でも注目度の非常に高いル・マン24時間耐久レース。かつてフォードGTやポルシェ 917などの伝説的マシンが活躍、注目された場でもある

1923年から行われている伝統的レースのル・マン24時間耐久レース(WECの中の1ステージ)。モナコ・グランプリ(F1)やインディ500とともに世界三大レースの1つともいわれている。世界各国のGTカーに加え、自動車メーカーのプロトタイプマシンが混走。24時間で約5000kmを走破する過酷なレースだ。

今回はル・マン24時耐久レースのカテゴリーや参戦車に加え、今後の方針などを解説していきたい。
 

WECの中でもル・マンは特別なステージ

2021年8月21~22日、フランスのル・マン・サルト・サーキットでFIA世界耐久選手権(WEC)第4戦目となる、第89回ル・マン24時間の決勝レースが行われた。

WEC(FIA World Endurance Championship)は、プロトタイプマシンとGTマシンが混走して争う耐久レースの世界選手権。近年は年間6戦または8戦が開催されてきた。レギュレーションによって各レースの長さは6時間以上と規定されており、その中でル・マンが最長の24時間となっている。

ル・マンでのレースは伝統的に6月に開催されてきた。最も集客力のあるこのレースを最終戦にしたいという主催者の思惑から、2018年に年をまたぐ“スーパーシーズン制”を導入した。しかし、コロナ禍によってスケジュールは二転三転し、今年は4月のスパ・フランコルシャン(ベルギー)で始まり、11月のバーレーンで最終第6戦を迎えるスケジュールとなっている。残念ながら、毎年富士スピードウェイで開催されてきた日本大会は、2020年、2021年ともに中止となってしまった。そんな中で、今年のル・マンは異例の8月開催になったというわけだ。
 

トヨタ GR010ハイブリッド▲ル・マンのハイパーカークラス(LMP1)で使用されるマシンは、完全競技用のプロトタイプマシン。究極の性能と24時間走行に耐えられる耐久性を備えている(写真はトヨタの最新マシン、GR010ハイブリッド)
アウディ R18▲コース中盤のミュルザンヌ・ストレート(別名ユノディエール)では、公道区間であるにも関わらず、ほとんどのプロトタイプマシンが320km/h以上をたたき出す。シケイン設置前の6km連続ストレート時代には、405km/hを出したマシンも存在した

プロトタイプマシンとスポーツカーベースマシンの混走は見もの

現行のWECは「Hypercar(ハイパーカー)」、「LMP2」という2種類のプロトタイプカテゴリーと、「LMGTE Pro」「LMGTE Am」というプロとアマチュアが乗るGTマシンカテゴリーの計4つのクラスが混走している。

「ハイパーカー」は、LMP1とLMP1Hに代わる最上位クラス。かつて存在したLMP1H(ハイブリッド)クラスはアウディやポルシェの撤退以降、巨額の開発費などの問題から新規参入メーカーが得られず実質的にトヨタ1社のみという状況にあった。そこで、今年から新たに採用された技術規則によるマシンが、ハイパーカークラスのLe Mans Hypercar(LMH)となる。

2021年のハイパーカー規定では、ハイブリッドとノンハイブリッドの2つが設定されており、ハイブリッドにはトヨタがニューマシン「GR010ハイブリッド」を投入。ノンハイブリッドはイギリスのグリッケンハウス・レーシングの「Glickenhaus 007 LMH」と、F1でもルノーからアルピーヌへとリブランドした「Alpine A480」が参戦した。最終的に今年のル・マン24時間レースでは、トヨタが1-2フィニッシュで4連覇を達成、今年から設定されたハイパーカーという新カテゴリーでの初ウイナーとなった。
 

トヨタ GR010ハイブリッド▲ハイパーカーカテゴリー初の優勝を飾ったGR010ハイブリッド。2台とも燃料系のトラブルを抱えていたものの、巧みなレース戦略によって無事完走した

GTマシンのクラスには、世界的に流行しているGT3とは異なるLM GTEが参戦している。LM GTE Proでは、フェラーリ(フェラーリ 488 GTE Evo)、シボレー(シボレー・コルベットC8.R)、ポルシェ(ポルシェ 911 RSR-19)の3メーカーを含む計8台のワークスマシンが参戦。LM GTE Amでは、フェラーリ、ポルシェに加えて、アストンマーティン・ヴァンテージAMRなど計23台が参戦した。結果、LM GTE Proではフェラーリが優勝、2位がコルベット、3位がポルシェと各社で表彰台を分けることになった。(LM GTE Amはフェラーリが優勝)

一方、2022年シーズンからは、プジョーがハイパーカークラスにニューマシン「プジョー 9X8ハイパーカー」での参戦を発表。2023年からはフェラーリもハイパーカークラスへの参戦を表明している。また、同年よりアメリカのIMSAとル・マン24時間レースの主催者であるACO(フランス西部自動車クラブ)が共通のプラットフォームやハイブリッドシステムを用いる新レギュレーション「LMDh(ル・マン・デイトナ・hybrid)の導入を予定しており、LMHとの性能調整のうえ、最上位クラスでの混走を可能とするという。これにより、アウディとポルシェがWECへの復帰を発表している。そして、この年を最後にGTマシンクラスのGTE proを終了させる予定だ。

2024年からはGT3マシンをベースとした新しいGTクラスがスタートするという。さらには、ル・マンに水素燃料電池プロトタイプ・カテゴリーを導入することも検討されているというから、今後はますます注目度が高まることが必至。

ちなみに、いまFIAから発表されている2022年シーズンのカレンダーでは、9月に富士での第5戦が予定されている。
 

トヨタ GR010ハイブリッド▲プジョーのハイパーカークラス用マシン「9X8ハイパーカー」。他のマシンに装備されている大型リアウイングをもたない特殊な1台だ。プジョーいわく、このマシンは特殊な空力設計をもつため、ウイングは必要ないという

プロトタイプと混走する市販車ベースマシンも要チェック!

ポルシェ 911 RSR▲ポルシェ 911をベースとした911 RSR 19。ベースの911は、ご存じのとおりエンジンを最後尾に置くRRレイアウトを採用するが、RSRではトランスミッションとエンジンの配置を、逆にすることでMR化を果たした。これにより、車体後部にあるエアロパーツの自由度が増し、パフォーマンスも向上したという

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ポルシェ 911(991型、2011~2019年) × 全国
フェラーリ 488 GTE▲フェラーリ 488 GTBがベースの488 GTE Evo。ホイールベースを延長しタイヤの持続時間を延ばすよう改良が施されている。エンジンはベースモデルとほぼ変わらないが、過酷な24時間走行を見据えて制御システムが更新されている

▼検索条件

フェラーリ 488 GTB × 全国
アストンマーテン ヴァンテージ AMR GTE▲アストンマーテン ヴァンテージをベースとしたヴァンテージ AMR GTE。6速シーケンシャルギアボックスなどを搭載し、ベースと同じAMG製V8エンジンを搭載。2020年にはステージ優勝に加えマニュファクチャラーズ・タイトルも獲得した

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アストンマーテン ヴァンテージ(2代目) × 全国
シボレー コルベット C8.R▲日本でも今年から納車が始まっている、コルベットC8がベースとなっているC8.R。エンジンは5.5Lの自然吸気V8を搭載し、排気効率を高めるフラットプレーンクランクを採用している。今年のル・マンではブレーキ交換なしで、GTE Proの2位を獲得した
文/藤野太一、写真/トヨタ自動車、Audi AG、Stellantis NV、Porsche AG、Ferarri NV、Aston Martin、Chevrolet