マンタイパフォーマンスキット▲サーキットを速く走るための「ポルシェマンタイパフォーマンスキット」を装着した911 GT3。ポルシェのエンジニアとマンタイレーシングがタッグを組んで生まれた“マンタイキット”は、ニュルブルクリンクで鍛えられたノウハウが詰め込まれた逸品。サーキットでの同乗試乗では、まるでスリックタイヤで走っているような感覚だったという

これはポルシェのワークスチーム「Manthey-Racing」による市販車最速仕様だ!

2024年10月5日、ポルシェジャパンは、「ポルシェマンタイパフォーマンスキット」を発売した。これはGTモデルの性能を最適化し、サーキットでの走行性能を向上させるアップグレードキット。対象は「718ケイマンGT4」「718ケイマンGT4 RS」「911 GT3」「911 GT3 Touring」(911は992前期型)というGTモデルの4車種となっている。

「マンタイ」と聞いて、ピンとくる人はかなりのモータースポーツ通だ。今シーズンのWEC(FIA世界耐久選手権)のLMGT3クラスでシーズンチャンピオンを取った92号車のポルシェ 911も「MANTHEY PURERXCING」とチーム名にマンタイとある。

マンタイは1996年に、ドイツ人レーシングドライバーのオラフ・マンタイによって創業されたレーシングチーム。ドイツのニュルブルクリンクを拠点とし、ニュルブルクリンク24時間レースで2006年から4連覇を達成。過去四半世紀にわたってニュルブルクリンクの耐久レースで通算54勝を挙げるなど、ポルシェ使いの名手として知られた存在だ。

近年、ニュルブルクリンク24時間レースはその人気が高まり、地元のローカルレースから自動車メーカーがワークスとして参戦する本格レースへと発展してきた。日本からもトヨタ、日産、スバルなどが挑戦している。

そうした中、2013年に本家のポルシェ AGがマンタイレーシングの株式の過半数となる51%を取得。マンタイレーシングは正式な子会社となり、ポルシェのワークスチームとしてDTM(ドイツツーリングカー選手権)やWEC(FIA世界耐久選手権)でGT3マシンを走らせるようになったというわけだ。
 

マンタイパフォーマンスキット▲今ではポルシェのワークスチームとして活躍するマンタイレーシング。WECではマンタイ・ピュアレクシング 911 GT3 R(92号車)がLMGT3クラスのシーズンチャンピオンを獲得している
マンタイパフォーマンスキット▲ポルシェのサーキットでの走行性能を向上させるアップグレードキットとして登場した「ポルシェマンタイパフォーマンスキット」。ポルシェ使いの名手であるマンタイ レーシングのノウハウが詰め込まれており、対象車種は718ケイマンのGT4とGT4 RS、911のGT3とGT3 Touring(911は992前期型)の4モデルとなる

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911 GT3/GT3 Touring(992前期型)、718ケイマンGT4/GT4 RS × 全国

ポルシェにとって“ニュル最速”は譲れない称号

ポルシェのヴァイザッハ開発センターの近くにフラハトモータースポーツセンターがある。ここはいわゆるポルシェのレーシングカー開発拠点であり、911 GT3 Cupや911 RSR、そしてWECを走るポルシェ 963などポルシェのレーシングカーの誕生の地といわれる。

GTモデルも市販車でありながらここで開発されるという。したがって「GTモデルである」というだけでも特別な存在なのに、なぜわざわざマンタイレーシングがGTモデル用に市販キットを作ったのか?

このパフォーマンスキットの日本発表に際して、千葉県木更津市にあるポルシェ・エクスペリエンスセンター東京(以下、PEC東京)で、911 GT3にそのキットを組みこんだデモカーの取材と同乗体験を行うことができた。

来日していたマンタイレーシングのブランド担当者に、このパフォーマンスキットを作ったきっかけを尋ねると「イタリアの友人にニュルブルクリンク北コースでのタイムを破られたから」と笑った。

そのイタリアの友人とは、ランボルギーニのことを意味している。2017年当時、ニュルブルクリンク北コースにおいて公道走行可能な市販車としての最速タイムは、ポルシェ 918スパイダーがもつ記録6分57秒だった。

その年、ランボルギーニはウラカン・ペルフォルマンテで6分52秒01のラップタイムを記録し、史上最速への名乗りを上げた。ニュルブルクリンクはいわばポルシェのホームコースであり絶対に負けは許されない。ポルシェは911 GT2 RSで6分47秒3という新記録を打ち立てた。しかし、ランボルギーニも負けじと2018年にアヴェンタドール SVJで6分44秒97という記録で巻き返した。

ここで満を持してニュルブルクリンクのスペシャリストである“マンタイレーシング”が登場する。ランボルギーニが記録更新した同年の10月には先の911 GT2 RSをベースにモディファイを施した「911 GT2 RS MR(マンタイレーシング)」で、6分40秒33という驚異的な記録を叩き出したのだ。
 

マンタイパフォーマンスキット▲ポルシェとマンタイレーシングが「ノルドシュライフェ(北コース)」用に特別にセットアップした911 GT2 RS MRが、6分40秒33という公道仕様の量産車における最速記録を樹立(なお、マンタイパフォーマンスキット装着のため純正アクセサリーでも“改造車”扱いとなっている)
マンタイパフォーマンスキット▲北コースのタイムアタック時の計測方法が2020年に変更されたが、2021年に改良した911 GT2 RS MRが、旧計測方法で6分38秒84と記録を更新した(新計測方法では6分43秒30)

マンタイレーシングのノウハウがアナタの車に!

かねてよりポルシェのGTモデルで自らニュルブルクリンクを走るジェントルマンドライバーから、もっと安全で速く走るにはどうすればいいかという要望が寄せられていたという。晴れてマンタイのシャシーやエアロダイナミクスに関するノウハウが「ポルシェマンタイパフォーマンスキット」として市販化されることになったというわけだ。

911 GT3を例に見てみると、外観はフロントに大型のスポイラーリップとサイドフラップを装備し、フロントアクスルのダウンフォースを増加。リアのウイングは、よりワイドになりガーニーを採用。リアディフューザーはカーボンファイバー製でフィンの長さを延長。リアホイールには特徴的なカーボンファイバー製のエアロディスクを装備する。軽量ホイールセットやレーシングブレーキパッド、けん引ループのトーフックなどを備えていた。
 

マンタイパフォーマンスキット▲「形態は機能に従う」をモットーに車両エアロダイナミクスを改良することを目的としてエアロダイナミクスパッケージや軽量ホイールセット、専用のサスペンション、ブレーキラインセットなどによってサーキット向けに調整された911 GT3。その動きはしなやかで圧倒的な速さが体感できる
マンタイパフォーマンスキット▲大型のリップとサイドフラップを採用したフロントまわり
マンタイパフォーマンスキット▲ワイドかつ迎角の大きなリアウイング
マンタイパフォーマンスキット▲カーボンファイバー製のリアディフューザー
マンタイパフォーマンスキット▲空力を追求してリアホイールにはエアロディスクを装着

そしてPEC東京のコースを使って、プロドライバーがドライブする911 GT3マンタイの助手席での同乗走行を体験することができたのだが、とにかく足がしなやかさに動く。PEC東京には、ニュルの名物コーナーの一つ“カルーセル”を模した、すり鉢のようなコーナーもあるのだがなんなくクリアする。圧倒的なダウンフォース、みじんもスライドさせないグリップ力、まるでスリックタイヤで走っているような感覚だった。

自分でもニュル仕込みの走りを体験したいという人向けにPEC東京で、マンタイパフォーマンスキットを装着した911 GT3のドライビングプログラム「マンタイパフォーマンスプログラム」の予約受付を10月8日(火)より開始している。

▼ポルシェマンタイパフォーマンスキット販売価格(税込み)
・718ケイマンGT4マンタイパフォーマンスキット:3,977,600円
・718ケイマンGT4 RSマンタイパフォーマンスキット:8,017,900円
・911 GT3(992前期型)マンタイパフォーマンスキット:8,959,500円
・911 GT3 Touring(992前期型)マンタイパフォーマンスキット:5,143,600円

マンタイパフォーマンスキットは、トレーニングを受けた対象のポルシェ正規販売店で受注可能。もちろん保証が適応され、ノーマルに戻すこともできるという。
 

マンタイパフォーマンスキット▲PEC東京ではポルシェマンタイパフォーマンスキットを装着した911 GT3を用意。起伏に富んだコースで90分間にわたって類い希な性能を体験できる
マンタイパフォーマンスキット▲PEC東京ではインストラクターの指導のもと、ポルシェ車を使った様々な非日常的な走行体験が可能。また、レストランなども併設されているのでドライブがてら誰でも気軽に立ち寄ることができる施設となっている
文/藤野太一 写真/Porsche