スバル サンバー

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
 

外に飛び出して引きこもるってどういうこと?

季節外れの海水浴場の駐車場に、軽バンが止まっている。すだれが垂らされたリアゲートの中の人物がこのサンバーの持ち主、小才 透さんだ。

小才さんが自分の手でこつこつと車中泊仕様にしたサンバーは、今後はボディも好みのカラーに塗りたいと計画中で、塗装道具も揃えてある。手作りのキャンピングカーを仕上げつつある道の途中なわけだが、今日はキャンプをしていたのではなく、動画編集をしていたのだという。
 

スバル サンバー▲このすだれを上げると……
スバル サンバー▲車の中はまるで部屋のよう!

小才さんはこの福岡県福津市の海辺からもほど近い、かつて海上交易と塩田で栄えた津屋崎千軒で泊まれるまちカフェ「みんなの縁側 王丸屋」を営みながら、ご自身のYouTubeチャンネル「ツヤツヤ津屋崎/元教員とおるの夏休みな日々」の編集や配信などを手がけている。

王丸屋とはかつて小才さんのおばあさんの代まで150年以上続いた燃料店の屋号で、元店舗部分をコミュニティカフェとして開放し、2階部分をゲストハウスとして運営している。
 

津屋崎 大丸屋▲小才さんが運営する「みんなの縁側 王丸屋」。地域の人や観光客が気軽に集まれる場を目指しているという(写真:本人提供)

北九州市小倉育ちの小才さんが津屋崎に来たのは2016年のこと。当時特に何のビジョンもなく、知り合いもいなかったという小才さんだったが、この地で愛されたおばあさんの人徳のおかげで、「あのおばあさんの孫ならよくしてやらんと」と、街の人たちに温かく迎え入れられた。

そして街の人たちと親しくなっていく中で、みんなが気軽に立ち寄れる場所になればいいと、「みんなの縁側 王丸屋」はスタートした。

「ほんとにね、みんなばあちゃんのおかげです。もう亡くなってずいぶん経つけど、今もその辺で見てくれてる気がします。あのね、僕ここに引っ越してきて、苦手だったものがいろいろ食べられるようになったんですよ。ばあちゃん、なんでも好き嫌いなく食べる人でした」

そんなわけで小才さんはコミュニティカフェを営んでいるくらいだから、オフィススペースにはまったく困っていない……。にもかかわらず、どうしてわざわざサンバーで外に出て、狭いサンバーの荷室の中に引きこもって動画編集をするなんていう、いわば“開放的な引きこもり”生活を送っているのだろう?

「この狭さが秘密基地みたいで一番集中できるんですよ。津屋崎は長く止めてても他の人の迷惑にならない、景色のいい無料駐車場があちこちにあるから、その日の気分で外の景色を変えて仕事したり、ゴロゴロしたり、ゲームしたり、SUPで釣りをしたり……」
 

スバル サンバー▲「集中力がなくなってきたら、思いっきり遊んじゃうのもありですよね(笑)」

まとめて休みが取れれば、このサンバーで旅にも出かける。最近では大分県と熊本県の県境にまたがる杖立温泉が楽しかったという。温泉街に点在する、温泉から立ち上る高温の蒸気を活用した「蒸し場」のそばにサンバーを止め、地元の食材を蒸し上げて食べたそうだ。

「ポン酢だけ持って行ってね、豚バラなんかもおいしかった。安い贅沢ですよ」と小才さんは自嘲気味に笑うが、大いに満足しているであろうことは手に取るようにわかる。
 

スバル サンバー▲天井はコルクシートを貼り付けており、旅先で見つけた缶バッジやマグネットなどを飾っている

なにしろこの景色だ。開け放したリアゲートの外には穏やかな海が広がり、自分の手で作った秘密基地の中を心地よい潮風が通り抜けていく。

こんな少年の夏休みのような時間と空間を、最高の贅沢と言わずしてなんと言おう。
 

スバル サンバー
文/竹井あきら、写真/篠原晃一
スバル サンバー

小才 透さんのマイカーレビュー

スバル サンバー(6代目)

●購入価格/約40万円
●マイカーの好きなところ/室内長が長いところ。そしてスバル車であること!(←個性的なのがいい!)
●マイカーの愛すべきダメなところ/カギをそれぞれ開け閉めしないといけないところ。内張がなく鉄板むきだしで夏暑く冬寒い(その分マグネットでカスタムが簡単にできるのはいいところ)
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/めんどくさがりなマキシマリスト。ソロキャンプでもテントがめんどくさくて、でっかいイスも自転車もSUPも載せたいような、趣味の多い人。
●他に検討した車は?/今回はサンバー一択だったが、いつかはハイエースグランドキャビンでキャンピングカーというのが夢ですね。

竹井あきら

ライター

竹井あきら

自動車専門誌『NAVI』編集記者を経て独立。雑誌や広告などの編集・執筆・企画を手がける。プジョー 306カブリオレを手放してからしばらく車を所有していなかったが、2021年春にプジョー 208 スタイルのMTを購入。近年は1馬力(乗馬)にも夢中。