GT4 eパフォーマンス▲電動化を推し進めるポルシェ。その流れは市販車だけではなくレーシングカーにも及ぶ。ワンメイクレースに積極的なポルシェは、次世代のカスタマーレーシングを念頭に置いた車両開発も行っており、その指針となる電動レーシングカー「GT4 eパフォーマンス」が世界中を巡っている

1000psを超える電動レーシングカーが来日

今年10月中旬、ポルシェエクスペリエンスセンター東京(以下、PEC東京)開業2周年を記念し、電動レーシングカー「GT4 eパフォーマンス」が日本に初上陸した。このGT4 eパフォーマンス、実は将来的なポルシェのカスタマーレーシングを占う電動レーシングカーだという。

そもそもBEVは大きくて重いバッテリーがネックとなり、軽量コンパクトなスポーツカーには向かないとされる。しかし、ポルシェは2030年までに80%超の市販車を内燃機関から電気自動車へとスイッチしていくと目標を掲げている。その先陣を切ったタイカンに続く電気自動車の第2弾が、来年の発表を噂されている新型マカン。さらに、次期型の718ケイマン/ボクスターをBEVにするとポルシェは発表しており、ラインナップのBEV化を強く推進している。

また、ポルシェは2021年の時点でEVレーシングのコンセプトモデル、ミッションRを発表している。その電動化技術をもとにした電動レーシングカーのプロトタイプが、先に挙げた「GT4 eパフォーマンス」というわけだ。
 

GT4 eパフォーマンス▲IAAモビリティ 2021で発表されたミッションR。2つの電気モーターを搭載し、予選モードで最高出力800kW(1088ps)を発生。発表時に「フル電動カスタマーモータースポーツに対する当社の展望を示します」とポルシェAG取締役会会長のオリバー・ブルーメ氏は述べた
GT4 eパフォーマンス▲コンセプトカーであるミッションRのシステムを受け継ぎ、その機構をケイマンGT4 RSクラブスポーツのボディに収めたGT4 eパフォーマンス

GT4 eパフォーマンスは、2021年に公開されたミッションRと電気モーターやバッテリー技術など多くのコンポーネントを共有。専用のオイルクーリングシステムを備え、前後2基のモーターで四輪を駆動する。その最高出力は1088psを発揮。

まだプロトタイプゆえ電気自動車の専用設計ではなく、ケイマンGT4 RSクラブスポーツのシャシーを利用し、80kWhのバッテリーをフロント、助手席、リアの3分割で搭載する。ステアリングに備わるパドルは回生ブレーキのレベル調整ではなくトルク配分を行う。

この日、PEC東京の周回コース(2.1km)で助手席に同乗する機会が与えられた。ドライバーは、ポルシェのワークスドライバーであり開発ドライバーも務めるマルコ・ゼーフリート氏。通常は全開走行が禁じられているPEC東京の外周コースにいきなりアクセル全開でコースインする。

ちなみに、タイヤはミシュランがこのマシンのために開発した電動レーシングカー専用のスリックタイヤ。使用済みタイヤのリサイクル材などを53%使用しながら、グリップや耐久性など従来品以上の性能を実現する。将来的にはワンメイクレース用のタイヤとして採用される見込みだ。
 

GT4 eパフォーマンス▲同乗走行でのドライバーを務めた、ポルシェのワークスドライバー兼開発ドライバーのマルコ・ゼーフリート氏

まだ熱の入っていないスリックタイヤがスキール音を上げる。人工的なエンジンサウンドなどの演出は一切加えていないという。モーターやインバーターが盛大に音を放ち加減速に連動するので、エンジン音がないことへの違和感はない。それよりも前後にモーターを搭載する4WDの電気自動車ということもあって、コーナーの立ち上がりでもタイムラグなく瞬時に加速し、直線の少ないこのコースでは常に高Gにさらされる。

カップカーやDTMマシンやWRCカーなど、いろんなマシンに同乗した経験があるがこれは相当に速い。タイムアタックモードでは、すでにタイプ992の911 GT3 カップをも上回る性能を発揮するというのも頷ける。ポルシェの歴史においてモータースポーツは切っても切り離せないものだ。そしてそれは、ファクトリーレーシングだけでなく、カスタマーレーシングも重要な意味をもつ。

1990年、ポルシェはドイツで911(タイプ964)のワンメイクレース、ポルシェカレラカップを開始した。1993年にはF1のサポートレースとして「ポルシェスーパーカップ」が開催されるようになり、ポルシェ911のワンメイクレースは世界的に注目を浴びるようになる。顧客に自社のレースカーを販売し、シリーズ戦を運営することでビジネスとして成立させる、いわゆるカスタマーレーシングという仕組みをいち早く構築した。

“世界最速のワンメインクレース”、と称されるポルシェ「カレラカップ」は、30年以上の歴史があり、現在世界10ヵ国以上で開催されている。日本でも2001年にカレラカップジャパン(PCCJ)がスタートし、今年で23シーズン目を数える人気ぶりだ。
 

GT4 eパフォーマンス▲ワンメイクレースの中でも一際高い人気を誇るポルシェのカレラカップ。日本国内では第1戦から第10戦までがSUPER GT併催、最終戦はF1日本GPのサポートレースとして6大会11戦を開催。ワンメイクレース専用車である992型の911 GT3カップを使用する

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「GT4 eパフォーマンス」はカレラカップの代替となりうるのか。ポルシェの開発チームの来日の狙いは、世界中のカスタマー、カレラカップ参加者たちにこのプロトタイプを見て意見をもらうこと。そのリサーチのためにいま世界に2台しかない貴重なプロトタイプカーをひっさげて世界ツアーを敢行しているのだという。

現時点の「GT4 eパフォーマンス」は、1スティントあたり25分から30分間のレースを911GT3カップと同等のタイムで走行する性能をすでに達成済み。しかし、価格は公表できないほど高価で、走行するためはエンジニアやメカニックなど最低6名のスタッフが必要という。将来的には経済面や整備面など、現在のカレラカップと同様の予算や人員で参加できるものを想定しているという。

2022年から24年までをツアーフェーズとし、世界中を回ってお披露目ツアーを敢行。そして2025年には、次期718シリーズと並行して開発されるプロトタイプレーシングカーの開発に着手。その後、いつとは明言されなかったが、新たなエレクトリックカスタマーレーシングシリーズを立ち上げるという。
 

GT4 eパフォーマンス▲2022年のグッドウッドフェスティバルに参加したGT4 eパフォーマンス。来場者からの注目度は一際高かった
GT4 eパフォーマンス▲グッドウッドフェスティバルでの走行シーン

ここで勘違いしてはいけないのが、その時点でカレラカップがなくなるというわけではないということ。ポルシェのトップも「最後まで内燃エンジンが残るのは911になるだろう」と発言しており、カレラカップとGT4 eカップが併催される可能性ももちろんある。

そして、すでにいまの段階で「GT4 eパフォーマンス」を仕立てて世界ツアーを行い、チームやドライバーをはじめすべてのステークホルダーからフィードバックをもらおうというその姿勢に、ポルシェのレースにかける本気度を感じずにはいられない。
 

GT4 eパフォーマンス▲ポルシェエクスペリエンスセンター東京で公開された電動レーシングカー「GT4 eパフォーマンス」
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GT4 eパフォーマンス▲「GT4 eパフォーマンス」のベースとなった「718ケイマン GT4 RSクラブスポーツ」

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文/藤野太一、写真/ポルシェAG