トヨタ ターセル

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

ずっと乗っていきたいUSカスタムの90年代セダン

現在はSUVが乗用車のスタンダードとなっているが、90年代までは独立式トランクをもつセダンがその地位にあった。DJ S2さんはそんな時代の末期に登場したコンパクトな4ドアセダンを所有している。

「7年ほど前に人生初の車として100系のカローラ セダンを探していたんです。でも、なかなか良い物件が見つからず、友人に相談したところ、山梨在住の知人がMTのコルサ セダン(以下コルサ)を売りたいと言っていると教えてもらい、それを買ったんです」

当時23歳。年齢の割に趣味がずいぶんと渋く思えるが、これは「USDM」、すなわちアメリカ現地仕様にカスタムすることを想定していたからだという。筆者のような門外漢はUSDMのベースになるトヨタ車といえば、ウィンダム(北米名 レクサス ES300)やカムリ、プロナード(北米名 アバロン)といった比較的大きなセダンをイメージしていたが、前述した両車も北米で販売が行われおり、近年は手頃なUSDMのベース車として若者の間で人気が高まっているそうだ。し、知らなかった……。

現在の愛車であるターセル セダン(以下ターセル)はコルサの兄弟車。実質的に同じ車だが、こちらはAT仕様だ。結婚して子供も生まれたため、奥さまが運転できるAT車に乗り替える必要があったという。

「コルサを買うときに仲介してくれた友人に再び相談したらターセル/コルサを6台も所有しているというマニアックなオーナーを紹介してくれたんです。今年2月にほとんどコルサと交換に近い条件でターセルへ乗り換えることができました」

コルサに装着していたヘッドライトやミラー、エンブレムなどのUSパーツは自分でターセルへ移植した。DJ S2さんは自動車整備学校を出ており、基本的なメンテナンスやカスタマイズはすべて自分で行うという。現代の車に比べて構造がシンプルで整備性に優れる90年代車の強みだ。
 

トヨタ プリウス
トヨタ プリウス

もっともターセル/コルサのような中途半端に古い大衆車は、カスタムするにも情報が少なく、現在の状態に仕上げるまでにかなりの労力を要したとDJ S2さん。当時の新車カタログやノベルティグッズなどもオークションサイトなどを活用して収集している。
 

トヨタ プリウス▲メルカリやネットオークションを駆使してターセルグッズを収集している

窓が手巻きからパワーウインドウになり、タコメーターも装備されるなど、前の車より多少デラックスにはなったが、ファミリーカーとしてはあまり使い勝手は良くないそう。何せ4ドアセダンでありながら全長4.1mほどである。現在、トヨタが販売する最も小さなセダンはカローラアクシオだが、それでも全長は4.4mだ。おまけにこの時代のセダンはスポーツカーのように屋根が低い。後席に窮屈な姿勢で子供を乗せ降ろししなければならない奥さまからの評判は当然のことながら芳しくないとDJ S2さんは苦笑した。

それでも、ターセルはいまの自分にとって最高の1台であり、他の車を欲しいとはまったく思わないそうだ。ファミリーカーとしての最低限の機能は満たしているし、エンジンが1300㏄なので維持費も安い。古い車でありながら今のところ部品の入手もしやすく、USDMカスタムを施すことで個性だって主張できる。趣味と実用を兼ねた車として、身の丈に合っているところが何よりの魅力なのだとか。ボディはドアやトランクの開口部までしっかり磨き上げられ、とても大事にされていることが分かる。

S2の名で「ONENESS」というヒップホップグループのDJとして活動しており、ライブのときは愛車にメンバーを乗せてクラブへ向かうこともある。この小さなセダンにストリートファッションに身を包んだ若者がフル乗車……まるでMVのワンシーンである。

正直、ひと回り世代が上の車好きである筆者は、これまでコルサ/ターセルを「趣味の車」という視点で見たことがなかったが、話を聞いているうちにイメージが激変した。えーと、ターセルってこんなにカッコいい車でしたっけ?
 

トヨタ ターセル
文/佐藤旅宇、写真/尾形和美

トヨタ ターセル

DJ S2さんのマイカーレビュー

トヨタ ターセル

●年間走行距離/約8000km
●マイカーの好きなところ/北米の大衆車っぽくてぱっと見、普通な感じがたまらなく大好きです
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/車を大事に楽しめて身の丈に似合うモノが好きなひとたち

佐藤旅宇

インタビュアー

佐藤旅宇

オートバイ専門誌や自転車専門誌の編集記者を経て2010年よりフリーライターとして独立。様々なジャンルの広告&メディアで節操なく活動中。現在の愛車はボルボ C30と日産ラルゴ・ハイウェイスターの他、バイク2台とたくさんの自転車。この2年で5台の車を購入する中古車マニア。