house ▲ショールームのように愛車を置けるスペースの隣に、ラウンジがある。車とお酒を愛する施主こだわりのスペース。棚は、所蔵するお酒の数に合わせてサイズを決めたそうだ
 

ガレージハウスを建てることは、多くの人にとって一生に一度あるかどうか。だからこそ建築家に自分の要望をできるだけ細かく伝えようとするものだ。今回登場いただく施主は自ら大手ハウスメーカーを指揮するという方法を選んだ。その狙いは? 一人の車好きの理想がすべて詰まっているガレージハウスとは、果たして?
 

壁や天井の素材にこだわり、理想とする空間を実現

愛車を眺めながらグラスを傾ける。車とお酒が好きな人なら、そんな至福の時間を過ごせるガレージハウスを建築家に所望することだろう。しかし、今回取り上げたガレージハウスの施主であるKさんは、あえて一般的な大手ハウスメーカーに依頼した。

「建築家やガレージ専門業者にお願いしても、実際に施工するのは面識がない施工会社。だったら大手ハウスメーカーに依頼することで、例えば耐震性や断熱性、耐久性など住宅としての品質を担保した方がいいと考えたんです。保証期間も大手の方が長いですからね」

そこに「ガレージに詳しくない相手だから仕方がない」といった妥協はなかった。空間のイメージから使用する建材など、細部に至るまでしっかりイメージが出来上がっていたからだ。「頭の中にはっきりとカタチがあったので、あとは線を描いてもらったり、構造計算してもらうだけでした」

それまでマンション住まいだったKさんにとっては、初めての家作り。車好きが高じて、車関係の仕事に就き、以前は人を雇って会社を経営していた。最近になって「自分の目の届く範囲だけで仕事がしたくなりました」と、前の会社を人に譲り、家族3人だけで新たな会社を運営している。
 

house ▲車が大好きなため、インナーガレージ以外にも3台分の駐車場がある。現在はジャガー Fペイスと、アストンマーティン DB11を所有
house ▲「ここに置きたい」と購入したのがマクラーレン 720S。光の加減で色が変化するボディカラーがお気に入り。「白や黒は好きじゃないんです」
house ▲20歳になった息子さんもこのラウンジ兼ガレージがお気に入り。Kさん愛蔵のお酒だけでなく、息子さんとその友人のお酒も置かれている
house ▲激走後の赤色に焼けたエンジン......ではなく、 それを模した照明が備わる。そんな粋な演出が あるのもこの車を気に入ったポイントだ

以前から家作りに興味をお持ちだったのかと尋ねると「車とお酒は好きですが、家はそれほど……」と。それでも施工会社からラウンジとガレージの天井にクロスを提案されると「レッドシダーの方がキレイだよ」とか、ラウンジ部分には「調湿効果のあるこの壁材を使った方がいい」等々、建材や構造に関してクロウト並みに詳しい。

さらにダークグレーで壁を統一したかったKさんは、どうしても扉の上にある金属パーツのシルバーが出てしまうとわかると、そこを車のラッピング業者に黒でラッピング加工してもらうなど、時には一枚上手のアイデアを持ち出すこともあったという。

そんなKさんのこだわりは、玄関ホールの壁材からトイレの内装まで建物全体に及ぶ。中でもこだわったのが家の正面、ファサードだ。「縦格子のファサードにしようと思ったのですが、格子の幅を何cmにすればいいのか悩みました」。そこで調べていくうちに、東京の表参道にある、有名ブランドのフラッグショップの縦格子が一番キレイだと感じたという。「だからその店を訪れて、実際に測らせてもらいました(笑)」と、自分で納得いくまでやらないと気が済まない。洗車が好きなのもそのせいだろう。

仕事で洗車が必要になると人に任せず、自分の手を動かす。ボディの仕上げはこのクロス、ホイールの裏を洗うのはこのブラシなど、専用のオリジナル洗車道具を揃えている。大好きな車のことだから他人に任せたくない。そんなKさんの理想や思いがこのガレージハウスになった。
 

house ▲黒いエアコンを探しただけでなく、コードや配管も黒に塗装。一方、窓やガレージ入り口のブラインドは天井に合わせてウッドタイプを選んだ
house ▲1日の終わりに愛車を眺めたり、テレビを観賞しながら一杯。車好きの友人は「お酒を飲むと帰れなくなるから」と昼間に訪れるそうだ
house ▲縦格子の1本1本は外側が太くて内側が細い台形状。外から中が見えにくく、家の中からは外を眺めやすくなる、Kさんこだわりの形状
house ▲家族で寛ぐときは2階のリビングダイニング。モダンなインテリアながら、3匹の愛猫ものんびり過ごせるソファ表皮や床材が選ばれている

■所在地:千葉県船橋市
■主要用途:専用住宅
■構造:木造
■敷地面積:262.29㎡
■建築面積:105.15㎡
■延床面積:216.89㎡

※カーセンサーEDGE 2022年2月号(2021年12月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
 

文/籠島康弘、写真/尾形和美