寛ぎのひとときを演出する、愛車のショーケース【EDGE HOUSE】
2021/09/29
玄関のある道路側には窓が一つもない家。そのため、外からは明るくて広いLDKやショーケースのようなガレージがあるなんて、とてもうかがい知ることはできない。黙して語らない、このガレージハウスの正面。その寡黙なデザインには、それなりの理由があった。
ポルシェが美しく見えるよう、照明や窓の高さにこだわる
一般的に日が当たる家の南には大きな窓を配置するものだ。しかし、今回取り上げる家の南側には窓が一切設けられていない。正面となる南側は道路に面しており、ガレージとカーポートそして、その間を入った先に玄関がある。道路側に窓がないのは、施主のプライバシーを守れるから、ということは想像できるが、理由はそれだけではないという。
ガレージに収まるのは、ポルシェ 911とポルシェ ボクスター。ドアの開口部が大きい2ドアクーペを2台止めても乗り降りがしやすいようにと、ガレージ幅は約6mも確保している。そしてガレージとリビングの間に備えた大きなガラス窓越しに、いつでもリビングから愛車を眺めることができる。
「だからといって、単に大きな窓を備えればいいというわけではないんです」とは、建築家の角直弘さん。窓を大きくするほど、愛車以外の部分、ガレージ内部が細かく見えてしまう。ガレージの壁や天井、シャッターの折り畳み線は、愛車を愛でるときのノイズになる。何ものにも邪魔されずに主役の愛車だけがスッと浮き上がる、そんな「ショーケース」であることが理想だと角さんは語る。
そのため窓の高さは、建築中のLDKに実際に立ち、そしてソファを置く位置に座って決めたという。さらにポルシェが白だったので、ガレージ内の壁やシャッターは白いボディが映えるよう黒を選んだ。ガレージ幅が広いと、間に柱や壁を入れて支えたくなるが、それも排し、2台のポルシェのボディラインが美しく浮き上がるように、照明の位置を綿密に調整した。
愛車を愛でる場所となるLDKは、友人をたくさん招きたいという施主のもう一つの要望を叶えた場所でもある。この家が建つ土地は、外に閉じられた南側を頂点に北へ向かって緩やかに下っている。ガレージの奥にある約20畳のLDKは、北側を向くと周辺を見下ろすほどの高さがある。
一方、ガレージ側の窓を絞ったこともあって、LDKに開放感が欲しかった。そこで、天井はガレージのある南側の2階床よりも高く取っている。その南側と北側の高さのズレが気にならないよう、そして光を取り込めるように、南側と北側の緩衝帯には吹抜けのある階段を設けている。
柱のない広い2台分のガレージと約20畳のLDK。木造でこれだけの大きな空間が隣接すれば、本来は建物の構造が弱くなる。だからこそ、南側の建物には窓の代わりに耐力壁を忍ばせている。南側が閉じているもう一つの理由は、この構造上の問題を解決するためでもあった。
窓がない南側は、特に黒いシャッターを閉めると凜として見える。角さんはそれを『寡黙な表情』と表現。黙して語らない正面は、華やかなショーケースとにぎやかなLDKを人知れず支えている。
■所在地:奈良県
■主要用途:専用住宅
■構造:木造
■敷地面積:303.7㎡
■建築面積:79.5㎡
■延床面積:132.9㎡
■設計:角 直弘(一級建築士事務所 設計組織DNA)
■TEL:075-354-5115
■プロデュース:ザウス
■TEL:0120-054-354(関東)
■TEL:0120-360-354(関西)
※カーセンサーEDGE 2021年11月号(2021年9月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています