東レは9月27日、アメリカのラージトウ炭素繊維メーカー「ゾルテック」を買収したと発表した。これまで東レが主力としていたのは、高品質だが価格の高い「レギュラートウ」と言われる炭素繊維。ボーイング787にも採用されたのは記憶に新しい。

一方、「ラージトウ」は産業用資材などに使われており、価格も比較的安価。コストと性能のバランスがよい炭素繊維といった位置づけだ。

東レは、中期経営課題「プロジェクト AP-G 2013」において、「自動車・航空機」を成長領域として位置づけ、積極的な経営資源の投入により事業拡大を目指している。

炭素繊維複合材料事業はその中核を担う事業であり、航空機に続く用途として自動車分野でのCFRP(炭素繊維強化プラスチック)採用に期待をよせている。「ゾルテック」買収は、この事業戦略に乗っ取り、今後の拡大が期待される自動車構造体用途においてラージトウの採用が拡大されると見込んでのこと。

7月17日には、アメリカのCFRP製自動車部品製造販売会社「プラサン・カーボン・コンポジット」への資本参加も発表しており、米国自動車メーカーへの販売チャネルを確保するとともに、北米におけるCFRP製自動車部品の生産・開発拠点を確立し、炭素繊維から中間基材、成形品までの一貫した強固なサプライチェーンを構築する算段も整っている。

CFRPを自動車に採用する最大のメリットは、なんといっても車体の軽量化にある。現在、ボンネットフードやリアスポイラー、プロペラシャフト等、様々な自動車の部品にも採用されており、部位によって効果は変わるが、CFRPを採用することで、従来の材料であるスチールと比べて約50%の軽量化が期待できると言われている。

自動車の燃費向上といえば、エンジン性能の向上や次世代自動車の開発ばかりに目が行きがちだ。

しかし、車体を軽くして燃費を良くするために、さまざまな素材が研究、開発されている。CFRPの自動車への採用は、F1マシンに始まり、今でもその主流は高級車である。しかし、ラージトウの積極的採用によって、大衆車へも広がる日は遠くないのかもしれない。

日産スカイラインGT-R V-SPECⅡ(2000年発売)は、東レのCFRP製ボンネットフードが採用されていた

日産スカイラインGT-R V-SPECⅡ(2000年発売)は、東レのCFRP製ボンネットフードが採用されていた

2011年には東レ自ら、次世代型のEV(電気自動車)コンセプトカー「TEEWAVE AR1」を製造。ボディにはCFRP製モノコックを採用している

2011年には東レ自ら、次世代型のEV(電気自動車)コンセプトカー「TEEWAVE AR1」を製造。ボディにはCFRP製モノコックを採用している