#備災情報

自然災害の自動車保険Q&A!車両保険の補償や範囲などの疑問を解決

自然災害の自動車保険Q&A!車両保険の補償や範囲などの疑問を解決
自然災害で車が損害を受けたとき、頼りになるのが自動車保険。でも、どんなケースで補償されるのでしょうか? 自分にあった自動車保険の選び方は? 自動車保険に詳しい、日本損害保険協会の斎藤識樹さんに話を聞きました。
回答者
斎藤識樹

斎藤識樹。一般社団法人日本損害保険協会にて、損害サービス企画部自動車グループ係長を務める。「自然災害と損害保険」をテーマに大学で講義を行うほど、損害保険に精通している

 

自然災害の自動車保険選びの疑問

保険加入前にハザードマップを確認(イメージ)


自動車保険は種類やオプションが多いため、加入する際に悩んでしまいがち。どのように選んだら良いのか、防災の観点で教えてもらいました。

Q.保険加入前にすべきことは?

まずは地方自治体のハザードマップを確認しましょう。自分が生活している地域のリスクを把握することが先決。「どのような自然災害が起こりやすいのか」「どの程度の被害が想定されているのか」を知っておくべきです。

ハザードマップの予測精度はとても高く、2018年の西日本豪雨の際、私が所属していた当協会中国支部の管轄地域である岡山県倉敷市で浸水したエリアはハザードマップとほぼ一致していました。一度目を通しておくと良いと思います。

Q.ダイレクト型と代理店型どちらがオススメ?

ダイレクト型(通販型)は代理店手数料等がかからない分、保険料が比較的安いという特徴があります。ただ、保険の契約内容や自身を取り巻くリスクについては加入者自身で調べて選択する必要があります。

代理店型は、保険契約に関する相談はもちろん、代理店の担当者が顧客それぞれを取り巻くリスクに対して適切な保険商品を提案してくれることも期待できます。加えて地域密着の代理店なら、その地域の災害リスクにも通じているかもしれません。

そのため、第三者的な視点のアドバイスが欲しく相談しながら契約をしたい人は代理店型を選ぶと良いと思います。一方で、リスクや必要な補償について自ら調べ判断することが苦ではない人は比較的保険料の安いダイレクト型を選択して良いでしょう。

災害に関する自動車保険の疑問

自動車保険に関する質問(イメージ)


車の所有者が任意で加入する自動車保険には、様々な種類が存在します。災害を補償してくれる保険のタイプや、保険が適用されないケースについてお聞きしました。

Q.災害時にはどんな自動車保険が使えるの?

自然災害と一口に言っても、車が受ける損害は多種多様。例えば土砂崩れに車が巻き込まれたり、洪水で道路が冠水して浸水したり、大雪でガレージが押し潰されたりと様々な事例があります。

自然災害による自動車への損害は、主に自動車保険(任意保険)の「車両保険」で補償されます。車両保険は、対人や対物など相手方への賠償責任を果たす「賠償責任保険」とは性質が異なり、財産である自分の車を補償しています。保険金は、契約時に時価に応じて設定した額が上限。その範囲内で損害額が保険金として支払われます(免責金額は除く)。

ただし、車両保険に加入していても契約内容や災害の種類によっては補償されないケースがあるので注意。気になる方は、契約している保険会社に確認しておきましょう。

Q.車両保険の加入数はどれくらい?

損害保険料率算出機構によると、自動車保険の車両保険に加入している車の割合は2018年度末時点で45.1%。2009年度末の時点では41.0%だったので、9年間で4.1%増えたことになります(下記表参照。なお同データには自動車共済は含まれていない)。

  車両保険の加入率
2009年 41%
2010年 41.8%
2011年 42.1%
2012年 42.6%
2013年 43%
2014年 43.2%
2015年 43.5%
2016年 43.8%
2017年 44.4%
2018年 45.1%

なぜ加入率が増えているかは様々な理由が考えられますが、近年では風水害・土砂災害の発生リスクが高まっていることも影響しているかもしれません。

被災した車
 

Q.エコノミー型の車両保険でも風水害は補償される?

車両保険の補償範囲は、保険会社や、加入する保険商品によって異なります。一般的には「フルカバー型(一般型とも)」と「エコノミー型(車対車+限定Aなど)」に分けられます。前者は自損事故や当て逃げを含めた幅広い損害を補償しますが、後者は自損事故や当て逃げは対象となりません。

補償範囲はその契約内容によりますが、どちらでも台風や洪水、大雪などの被害は補償されるケースが大半です。ただし、自然災害でも自宅駐車場における浸水被害などを補償範囲から外しているケースもあります。

Q.地震による被害は補償されないの?

地震による家屋倒壊や道路の損壊などで車が傷ついた場合だけでなく、噴火や津波なども通常は補償されません。

ただ保険会社によっては、地震や津波でも一定条件下なら保険金を受け取れる特約があります。例えば「地震等による車両全損時一時金特約」などです。一時金なので損害のすべてがカバーされるわけではありません。しかし、次の車を購入するための頭金に活用できるなど、全損時の助けになります。

  フルカバー エコノミー 一時金特約
火災 ×
爆発 ×
台風 ×
竜巻 ×
洪水 ×
高潮 ×
地震 × ×
津波 × ×
噴火 × ×

上記は、自然災害に関する車両保険と特約の補償範囲一例。補償の適用範囲は各保険会社や保険商品によって異なるので、改めて自分が契約する自動車保険の契約内容を確認しておきましょう。

車両保険は、損害の原因となった自然災害によって、補償の可否が判断されるのが原則。例えば、車両火災をカバーする車両保険でも地震を原因とする津波による浸水で電装系がショートして出火した場合、補償対象外となります。また、水害でもわざと浸水地域に侵入したなど、契約者の故意や重大な過失があった場合も一般的に補償を受けられません。

車両保険に関する被災時の疑問

被災した車両の調査(イメージ)


自然災害にあって車が被害を受けてしまったとき、「どのような手順で請求すべきなのか」「請求からどれくらいで保険金を受け取れるのか」など、気になる点を聞いてみました。

Q.保険金はどのように請求するの?

自然災害で車が被害を受けたなら、まずは加入している保険会社の窓口、もしくは保険代理店に連絡。案内に従って車を修理工場に預ける、保険金請求書を提出するなど手続きを行ってください。

必要書類は保険会社によって異なります。ただ、行政機関から支援金などを受け取る場合と違い、自動車保険の保険金を請求する場合は公的書類である「罹災証明書」が必要なケースはほとんどありません。すみやかに保険金を支払うため、保険会社が被害状況の確認を行うからです。

申請時期は保険金請求の時効(保険法では3年)より前なら問題ありませんが、被災から時間が経過してしまうと損害程度の判定が難しくなり、保険金の支払いが遅れてしまう可能性があります。できるだけ早いタイミングで申請した方が良いでしょう。

なお、廃車手続きや税金の還付などを行う場合は、罹災証明書が必要になります。

Q.災害時に耳にする「特別措置」って何?

特別措置は、災害直後の生活の救済などを定めた「災害救助法」が適用されるような大きな災害時などに実施します。自動車保険を含む各種損害保険に関する「継続契約の締結手続き、および保険料払い込み」に猶予期間が設けられます。

特別措置が実施される際は、各保険会社や日本損害保険協会のホームページなどで案内があります。

Q.保険金が支払われる時期はいつ?

自動車保険を含む損害保険は、原則として保険金の請求が完了した日から30日以内に保険金を支払うことが保険法で定められています。調査などに時間を要する場合は延長されることがあるものの、支払期限を過ぎた場合は遅延損害金が支払われるのが原則です。

車両保険の支払い(イメージ)
 

Q.保険金は修理や車の購入にしか使えない?

車両保険では車が受けた損害に応じた保険金が支払われますが、必ずしも車の修理や買い換えに使う必要はありません。受け取った保険金は、自由に使えます。

保険金の支払い時期も、大規模な自然災害では損害調査などで遅くなることがあるものの、国や地方自治体からの見舞金や支援金より早いことが多いようです。

実際、豪雨被害にあった地域を担当していたときには「保険金が支払われたおかげで、当座の生活資金を確保することができた」と、感謝の言葉が被災された方からあったと聞きました。

一方で、車両保険に加入しても補償範囲を限定していると保険が適用されないケースがあり得ます。加入や更新のタイミングで保険の約款や重要事項など、自分にとって必要な補償内容か確認しておくことが大切です。

CREDIT
協力: 日本損害保険協会
写真: Adobe Stock、photoAC
文: 田端邦彦(ACT3)
参考: 内閣府 防災情報のページ「水害被害(風水害・土砂災害)」