#災害対策

命と車を守る台風対策。水没や横転などを防ぐ備えと運転時の注意点

命と車を守る台風対策。水没や横転などを防ぐ備えと運転時の注意点
勢力の強い台風が接近・上陸すると浸水や水没、地すべりや崖崩れなどの土砂災害、路面陥没、横転など車への被害が起きやすくなります。時に命を奪う危険もある自然災害では、事前に知識や備えをしておくことがなにより重要。防災術や注意点の他、万一の際に命を守る対処法などを覚えておきましょう。

知っておきたい台風による車への被害

台風による被害を受けた民家


台風は7~10月にかけて多く発生します。勢力の強い台風が接近・上陸すると、大雨や洪水、暴風、高波、高潮などで広範囲の被害が発生することがあります。さらに川の氾濫や土石流、崖崩れ、地滑りなども引き起こされ、駐車/走行中の車が巻き込まれるケースも発生します。

水だけでなく強風の被害にも注意する

注意すべき災害1:冠水や高波、高潮

大雨が降ると、低地では道路が冠水する恐れがあります。高架や立体交差下のアンダーパスなどは特に危険です。また高波や高潮が発生すると、川や海の付近に駐車・走行している車が浸水したり水没したりする場合があります。

注意すべき災害2:崖崩れや土砂災害

大雨で地盤が緩み、都市部の崖地周辺や山間部では崖崩れや土砂崩れなどが発生。それに駐車、走行中の車が巻き込まれる場合があります。高速道路などの長大のり面(盛土によってつくられた人工的な傾斜面)が崩れることもあるので、注意が必要です。

注意すべき災害3:強風

勢力の強い台風が上陸・接近すると、最大瞬間風速が秒速40mを超える風が吹く場合があります。こうした強風では運転が困難なだけでなく、駐車/走行中の車が横転することもあります。特に高層ビルが密集する都会では、ビル風など突発的に強い風が吹くことがあります。

注意すべき災害4:飛来物

最大瞬間風速が秒速30mを超えると、街路樹が倒れたり、折れた木の枝や屋根瓦や看板が飛散したりする可能性があります。それらによって車が傷つくだけでなく、走行中の場合はフロントガラスが割れるなど大きな事故に繋がる危険もあります。

台風が来る前にやっておきたい事前の備え

国土交通省「わがまちハザードマップ」

(引用元:国土交通省「わがまちハザードマップ」)

台風は事前に備えておくことで被害を抑えられます。前触れなく発生する地震と違い、台風はある程度の勢力や進路が予想できるため、最新の情報を確認して十分な対策をとりましょう。

水害に遭いやすい場所を調べる

台風が接近・上陸したときは海岸や河川、急傾斜地など危険な場所には近づかないようにしてください。また、自宅や勤め先など車を止めている場所が危険なのか、避難する際にどのルートが安全なのか各ハザードマップなどで日頃から確認しておきましょう。

ハザードマップは地域の災害履歴書

ハザードマップは、過去に発生した災害の被害状況をもとに、地震や津波、台風や集中豪雨による洪水、崖崩れや土石流、火山の噴火など、大規模自然災害における被害発生状況を予測し、地図に書き込んだものです。ハザードマップには、河川が氾濫した場合に浸水が予想される地域、土砂災害の発生する危険性のある地区(土砂災害危険箇所・土砂災害警戒区域など)などが示されていますので、あらかじめ知っておくことで、早めに避難行動をとったり、危険を回避して移動したりすることができます。

なお、ハザードマップを確認することは重要ですが、過信は禁物です。ハザードマップで危険な地域になっていなくても、「うちは大丈夫」「まだ大丈夫」と甘くみないで、早めに避難行動をとりましょう。
(引用:政府広報オンライン「大雨や台風の気象情報に注意して早めに防災対策・避難行動を行いましょう」)

最新の気象情報をチェックする

台風による被害に備えるためには、進路や勢力、規模など最新の情報を逐一チェックすることが重要です。併せて気象庁の発表する気象警報・注意報などの防災気象情報や、自治体が呼びかける警戒レベルも確認。車を安全な場所に避難させる他、外出予定を変更するなど早めに防災行動をとりましょう。

大雨(土砂災害)/洪水/高潮警報や警戒レベル3が発令された場合には、高齢者や障がい者など避難に時間を要する人や、その支援者は避難すること。被災する危険性が高い地域の人も避難が推奨されています。それ以外の人は準備を進め、危険を感じたら避難しましょう。

土砂災害警戒情報や高潮特別警報、高潮警報、警戒レベル4が発令された場合は、全員が避難しなければなりません。そして、大雨特別警報や氾濫発生情報、警戒レベル5が発令された場合は、すぐに避難して安全を確保する必要があります。警戒レベル5相当はすでに大きな災害が発生している状況なので、レベル4相当までに避難しておくことが大切です。

  とるべき行動
警戒レベル5 すぐに避難して安全を確保
警戒レベル4 危険な場所から全員避難
警戒レベル3 高齢者などは避難開始
警戒レベル2 避難する方法を確認
警戒レベル1 災害への意識を高める

万一に備え防災用品を車内に用意する

用意したい防災用品1:飲料や食料

長期間保存できる非常用飲料水やロングライフ食品などが理想です。ただし夏季の炎天下に駐車した車内は高温になるので、十分に注意しましょう。

用意したい防災用品2:防寒具や歩きやすい靴

冬季の車内待機では寒さへの対策が大切。手袋や使い捨てカイロ、毛布、アルミブランケットなどを用意しておくと良いでしょう。車を置いて徒歩で避難する場合を想定し、スニーカーなど歩きやすい靴を備えておくと安心です。

用意したい防災用品3:緊急脱出ハンマー

車が水没し水圧でドアが開かない場合には、ガラスを割って脱出するためのハンマーが必要。緊急時に手が届く場所に設置しておくと安心でしょう。シートベルトを切れるカッター付きがオススメです。

用意したい防災用品4:携帯ラジオや懐中電灯

車内待機の際の情報収集では燃料やバッテリーを消費するカーラジオではなく、携帯ラジオが活躍します。電池式のほか、手回しやソーラーによる充電式もあるので、用意しておくと安心でしょう。懐中電灯はヘッドライトタイプなら両手が使えるので便利です。

用意したい防災用品5:薬や衛生用品

長期間の避難生活を余儀なくされた場合、体調を崩すことも考えられます。薬や、ティッシュやマスクといった衛生用品があると安心。幅を取らないのでダッシュボードなどに収納しておくと良いでしょう。

台風接近時に愛車を守る防災術

増水した河川


勢力の強い台風が接近・上陸した際は、大雨による河川の増水や高潮によって、付近の駐車場に止めてある車が浸水したり水没したりする危険があります。車を運転していなくとも、愛車を守るためには十分な警戒が必要です。

また、山間部や傾斜地、大きなのり面の近くにある駐車場では、土砂崩れに車が巻き込まれることも考えられます。最新の気象情報や自治体の発表を逐一確認し、必要に応じて車を安全な場所へ事前に避難させましょう。

危険な駐車場所を把握し、車を避難させる

危険な駐車場所1:河川や海岸付近

2019年10月に発生した台風19号では、台風による大雨で千曲川の堤防が決壊。付近の新幹線車両センターの車庫が浸水しました。河川付近の駐車場では、このような被害を受ける可能性があります。さらに勢力の強い台風は高潮を発生させることがあり、海岸近くに止めた車が浸水する危険もあります。

危険な駐車場所2:低地や窪地

台風によって強い雨が長時間降り続くと側溝や下水、小さな河川が溢れ、周囲より低い土地や窪地が冠水する恐れがあります。マンションの地下の駐車場も要注意です。そのような水が溜まりやすい低所に車を止めておくと、浸水や冠水の危険があります。

危険な駐車場所3:山間部や傾斜地、のり面の付近

台風の大雨によって、山崩れや崖崩れなどの土砂災害が発生する可能性があります。駐車場の位置が土砂災害警戒区域・特別警戒区域に指定されているか、ハザードマップで事前に確認しておきましょう。また、山間部や傾斜地、のり面も崩れる危険性があります。付近に車を止めている場合は最新の気象情報に耳を傾け、早めに安全な場所に避難させましょう。

危険な駐車場所4:遮蔽物の少ない広い駐車場

勢力の強い台風の暴風域では、軽自動車やトラックなど、風の影響を受けやすい車は横転しやすくなります。風を遮る建物などに囲まれていない広い駐車場を利用している場合は、屋内の駐車場などに避難させましょう。また、飛来物などによって車が傷つく恐れがあります。勢力が強い台風の場合は、遮蔽物があったとしても屋外駐車にはリスクが伴います。

危険な駐車場所5:建築現場や古い建物近くの駐車場

強風によって、建築現場の足場が倒壊し下敷きになったり、古い家の瓦やトタン屋根、古いビルの壁、防水シートが飛ばされ駐車している車にぶつかったりする可能性があります。周りに倒壊しそうな建物や強風で飛ばされそうな物がないか確認しておきましょう。

台風接近時に運転する際の注意点

台風時に運転している車


まず初めて申し上げおきたいのは、勢力の強い台風が近づいている場合は車で出かけないことが最良の対策。できるかぎり運転しないよう心がけることが重要です。

しかし、どうしても車を運転しなければならないケースもあるでしょう。その場合はハザードマップや気象情報を確認し、より安全な経路や時間を選択すること。カーナビは危険個所を教えてくれません。さらに視界不良やスリップ、強風によるふらつきなどに注意ください。

スピードを落とし危険な場所は避ける

減速して安全に走るのは大前提。それだけでなく、どの道を走るかが大切です。激しい雨が降ると河川や海沿いだけでなく、都市部でも水害の危険が増します。危険を感じる場所には近づかないようにし、遭遇してしまったら車間距離を十分に取りながら安全な場所に避難。台風の危険が過ぎ去るまで待機しましょう。

最近ではカーナビの案内通りに運転し、水害に巻き込まれてしまった事例も報告されています。ハザードマップや最新の気象情報などを確認し、川沿いの危険な道を必ず避けてください。

避けるべき箇所1:アンダーパスやすり鉢状に窪んだ道路

台風によって、高架下や立体交差のアンダーパスやすり鉢状に窪んだ道路が冠水する恐れがあります。それに気づかず進入し車が水没するケースも少なくありません。アンダーバスの一番低い部分の状況は入口付近から見えづらく、また見えたとしても水深を判断することは困難。雨量の多い台風が接近・上陸した際は、そうした場所には進入せず迂回しましょう。

避けるべき箇所2:冠水した道路

台風による雨量が下水管の処理能力を超えると、平坦な道路でも冠水することがあります。道路が冠水すると、蓋のない側溝や溢れた水で蓋が浮き上がったり外れたりしたマンホールの穴などが見えない危険があります。それに気づかず車を脱輪させてしまう恐れもあるので、水深が浅そうに見えても冠水した道路は迂回するようにしましょう。

避けるべき箇所3:河川や海沿いの道路

急な増水で河川の水が溢れ、周囲の道路が冠水する恐れがあります。大雨を伴う台風が接近・上陸した際は、河川の近くや川沿いの道路は避けましょう。また、勢力の強い台風の場合、高波の越波や高潮にも警戒。湾や海岸付近の低地では高潮による浸水の恐れがあるため、近づかないようにしましょう。

避けるべき箇所4:山間部や傾斜地、長大のり面の付近の道路

長時間にわたり大量の雨が降ると地盤が緩み、山間部や傾斜地では土砂災害が発生しやすくなります。土砂崩れや崖崩れに巻き込まれるだけではなく、道路が寸断され孤立する恐れがあります。高速道路などの長大のり面も同様です。

避けるべき箇所5:トンネルや山の切り通し、橋

勢力の強い台風では強風にも要注意。特に高速道路のトンネルの出口や山の切り通しの終点付近、谷間にかけられた橋の上は、突風が吹きやすいポイントです。通行せざるを得ない時はスピードを落とし、風に煽られても急ブレーキや急なハンドル操作をしないようにしましょう。そして危険を感じたら、そのまま走行を続けるのではなく安全な場所へすみやかに避難。危険が去るまで待機してください。

避けるべき箇所6:開けた場所の一本道

高速道路と同様、一般道でも台風による強風には注意が必要です。特に河川や、谷間に掛けられた橋、土手の上、田畑など開けた場所の一本道は、遮蔽物がないため強風の影響を受けやすくなります。当然、大雨によって視界も悪いので、通行を避けるようにしましょう。

避けるべき箇所7:高層ビルの密集地

高層ビルが集まっている場所では強いビル風が吹いています。風が強いスポットが点在するうえ、その場所も時間によって変化。台風時には突風でハンドルがとられる、車体が浮くなどの恐れがあります。風を予測するのは困難であるため、高層ビルの密集地は迂回するようにしましょう。

冠水した道路で走る車

 

浸水深が10cm以下でも時速10kmまで減速する

大雨を伴う台風が接近・上陸すると、道路の冠水や河川の増水などによる車の浸水・水没被害が多く発生します。

JAFによる冠水路走行のテストでは、浸水深が30cmまでならセダンタイプもSUVタイプも時速30kmなら走破可能。しかし浸水深が60cmだと、走破できたのはSUVで時速10kmの場合のみ。セダンはフロントガラスの下まで水を被り、時速10kmでも走りきれませんでした。

このテストから進入が速いと下から大量の水がエンジンルームに入り、エンジンが停止する恐れがあることがわかりました。冠水路には進入しないことが原則ですが、もし誤って入ってしまった場合、浸水深が浅くても時速10kmまで減速し慎重に脱出しましょう。

なお浸水深が深く車内まで浸水してしまったら、あせらずにエンジンを停止。細心の注意を払って徒歩で進んできた方向に戻りましょう。

「浸水深」の正しい意味

洪水や内水はん濫によって、市街地や家屋、田畑が水で覆われることを浸水*といい、その深さ(浸水域の地面から水面までの高さ)を浸水深といいます。 *洪水により、道路やのうちが水で覆われることを「冠水」ということもあります
(引用:国土交通省 川の防災情報「浸水深と避難行動について」)

強風下ではドアを開けるのにも注意する

台風で強風が吹いているとき、車のドアが煽られて勢いよく開き、隣の車などにぶつかって傷つけてしまうことがあります。

JAFが行ったテストでは、子どもの場合は風速20m/秒でもドアを押さえられませんでした。風速30m/秒にもなると、大人でもドアを押さえることが困難になったそうです。

つまり、強風下で車から降りる際は注意が必要。ドアレバーを引きながら少しドアを開き、もう片方の手でドアの端を持って大きく開かないように押さえながら開けましょう。当然、子どもだけでドアを開けるのは危険です。大人が先に降りて外からドアを開けましょう。

浸水や水没など台風で被災した際の対処

台風によって浸水した車


やむ得ず車で外出して冠水路などで車が浸水や水没してしまった場合は、落ち着いて脱出してください。無事に脱出できたら、水が引くまで動かなくなった車を放置。JAFなどに連絡し、ロードサービスを利用しましょう。

水が引いたからといって水没した車のエンジンをかけることは、破損や感電の危険があるので絶対にやめましょう。

車内に浸水してもあわてずに避難する

冠水路などで車が立ち往生し車内に浸水したら、慌てずにエンジンをストップ。安全を最優先に避難経路を考えましょう。避難する際には、いきなり車外にでるのは危険です。

まずは足で水深を測りながら、進んできた方向に歩いて戻りましょう。その際マンホールの蓋が外れている可能性もあるので、一歩一歩確かめてください。

浸水・冠水した車は運転しない

駐車中に浸水・冠水してしまった場合、基本的には動かさないように。スイッチを入れなくともバッテリーが接続されていれば電流が流れ、漏電で火災が発生する可能性があります。特にハイブリッド車や電気自動車は危険性が高く、露出した高電圧ケーブルなどに触れると感電して死亡、または重傷を負う恐れがあります。

浸水・冠水した車はJAFや保険会社に依頼してレッカー車で移動してください。ディーラーや整備工場で検査を受けて修理、ないし廃車の判断をします。もし廃車する場合は必ず写真を撮っておき、各自治体に「被災証明書」を発行してもらってから手続きしましょう。

補助金や保険が適用されるか確認する

台風が過ぎて無事だったら何よりですが、もし車が被災したら国や各市区町村の補助金を受け取れるか確認しましょう。自分の場合は制度の適用されるのか、どの制度なら申請できるのかは各地自治体などに問い合わせてください。

台風による水没や土砂災害などは、多くの保険会社の車両保険で適用となります。ただ当然、被災状況や加入会社のプランなどによって金額や適用の可否が異なります。保険会社にて詳細を確認ください。

監修
河田恵昭

河田恵昭(かわた よしあき)。京都大学名誉教授。関西大学社会安全研究センター長・特別任命教授。日本政府中央防災会議防災対策実行会議委員。人と防災未来センター長。日本における自然災害に関する第一人者であり、防災・減災・縮災の重要性を説いている