車に積んでおくべき防災グッズとは? 災害と避難生活に備えよう
話者
渡辺実。防災・危機管理ジャーナリスト。NPO法人日本災害情報サポートネットワーク顧問。世界各国の自然災害被災地に足を運び、復興や防災の啓蒙活動に力を注いでいる
いざというとき車と防災グッズは心強い味方
私は車内への防災グッズ常備を強く勧めています。もし災害でライフラインが止まったら、救援物資が届くまで持ち出した物だけで乗り切らなければならないからです。
安全に車を止めることができ、防災グッズや燃料などの備えがあれば、車の中は良き“避難場所”と言えます。血行不良によって肺塞栓などを引き起こす「エコノミークラス症候群」には気をつけなければなりませんが、車内は雨露をしのげて冷暖房も完備。さらにラジオやテレビなどで情報も集められます。
実際2016年の熊本地震では余震から命を守るため避難所に行かず、車中避難を選択した人も少なくありませんでした。最近では、“三密”になる避難所の新型コロナウィルス感染症拡大を抑える観点からも車中避難は有効。車内に防災グッズを揃えることは、非常に効果的な災害対策だと思います。
車内に常備しておきたい防災グッズは10種類
車内に物を置いておけるスペースは限られています。そのため防災グッズは、被災時の重要性だけでなく、コンパクトに収納できるかもポイント。筆記用具など普段なら簡単に手に入る物も被災直後では入手困難になることを前提に、防災グッズを揃えておきましょう。
防災グッズ1:頑丈な入れ物
1995年の阪神・淡路大震災が発生したとき、私は直後から現地入りしました。そこで目撃したのは、リュックサックなどに入れておいた防災グッズが家に潰されて使えないという数多くの事例。そこから防災グッズは中身だけでなく、容器が頑丈であることも重要だと学びました。
頑丈の容器は、それだけで多用途に使うこともできます。例えば、私が制作した防災グッズ「エマージェンシー・ドラム」は鉄製缶を入れ物に採用しており、腰かけや非常時のテーブル、踏み台として使用可能。救援物資をもらう際もキャリーとして利用できます。丸い缶だと蓋も開けやすいので、鉄製缶を容器にするのがオススメです。
防災グッズ2:飲料水と携行食
大規模災害でライフラインが止まった場合、行政はまず救命・救助活動を優先するため、3日間程度は救援物資が届かないことが予想されます。そうした事態を想定し、車内にも最低限の食料と飲料水を備蓄しておくこと。
人間ひとりが生きるために必要な水の量は、1日約3L。携行食と飲料水は賞味期限を確認し、定期的に中身を入れ替えることが大切です。
防災グッズ3:手回し式充電器
車にはラジオやテレビがあるので情報収集には困りませんが、安否確認のためにはスマホや携帯電話が頼りになります。常に利用できるよう、電源がなくても給電できる手回し式充電器を用意しましょう。手回し式を勧めるのは、いざというときに電池切れで使えないといった事態を防げるからです。なお、車内のシガーライター電源からも充電が可能です。
防災グッズ4:メモ帳と筆記用具
阪神・淡路大震災時の避難所では、しばしば配布された新聞紙の余白にメモを取っている避難者を目にしました。入手した情報を書き留めておくメモ帳と筆記用具は、被災時には必須となります。何にでも書けるよう、筆記用具はシャープペンシル、ボールペン、油性ペンなど複数の種類を用意しておきましょう。
防災グッズ5:ガムテープ
手持ちの物だけでしのがなければならない避難生活において、ガムテープはまさに万能アイテム。物を固定するだけでなく、名札代わりに使ったり、付箋紙のようにメモとして貼り付けておいたりもできます。紙製だと重ね貼りすると剥がれやすく、油性ペンのインクを弾いてしまうので、布製ガムテープがオススメです。
防災グッズ6:ピルケースと薬
被災時は、病院や薬局に行くことすら難しいことも。持病のある方は薬が入手できないと、命にかかわります。ピルケースに避難生活を想定した量の薬を常に入れておくこと。保存期限を確認し、服用しながら定期的に中身を入れ替えましょう。また万が一のことを考え、複数の医療品や医薬品を揃えておくと安心でしょう。「お薬手帳」「保険証」コピーも忘れずに。
防災グッズ7:衛生用品
ガレキが散乱した地震被災現場や水害の被災現場は、一般的に衛生環境が悪くなりがちです。しかし救援物資の配給などで、人に接触する機会は避けられません。感染症への罹患、拡大のリスクを抑えるために、消毒用アルコールやティッシュ、マスク、使い捨て手袋は必須アイテムのひとつ。外部から車内に菌やウイルスを持ち込まないことを意識しましょう。
防災グッズ8:三角巾などの応急処置道具
災害によってケガを負ってしまったら、できるだけ早く処置することが大切。打撲などのケガを放置すると血栓ができやすくなり、エコノミークラス症候群のリスクも高まります。三角巾は骨折した腕の固定や出血した箇所の圧迫など、一枚で多目的に使える便利なもの。絆創膏、消毒薬、ガーゼなど応急処置に必要な物を揃えておきましょう。
防災グッズ9:サバイバルブランケット
冬や夜間、エンジンをかけていない車内だと思いのほか寒いもの。防寒対策には毛布も有効ですが、コンパクトに折り畳めて、防水性や防風性にも優れているサバイバルブランケットが便利です。体からの熱を輻射して暖めてくれます。
防災グッズ10:キャンピングチェア
車中避難だからといって、車内にいなければならないわけではありません。むしろエコノミークラス症候群を防ぐために、積極的に車外へと出るべき。駐車場所が安全なら、日中はキャンピングチェアに座って過ごすとよいでしょう。
災害時には車載工具が「救命道具」となる
阪神・淡路大震災では、倒壊した家屋などから助け出された人のうち、7割弱が家族も含む「自助」、3割が隣人などの「共助」で救出。「公助」に当たる、消防・自衛隊など救助隊による救出は数%に過ぎませんでした。こうした民間による救助作業では、ジャッキやレンチなどの車載工具が活躍しました。
自分の車に車載工具がちゃんと揃っているか、正常に使用できる状態かを確認しておくことも大切。最近はジャッキや車載工具を装備していない車種が増えましたが、防災の観点から見ると別途、工具類を用意しておいて損はありません。
最低限用意しておきたい車載工具
- パンタグラフジャッキ
- 十字レンチ、またはL型ボックスレンチ
- 差し替えドライバー(プラス・マイナス)
- プライヤー(ペンチ)
避難場所としての「車の防災性能」にも注目
いざというときの避難場所と考えれば、車も防災グッズのひとつと言うことができます。これから車を購入する場合、走行性能や燃費だけでなく“防災性能”にも目を向けておくとよいでしょう。
避難生活に役立つ防災性能1:フルフラットになる
エコノミークラス症候群は、狭い場所に長時間、同じ姿勢で座ることによって起こります。つまり、車の中でも足を伸ばした姿勢で寝られれば発症の危険性を抑えられます。さらに、車内が広くてシートをフルフラットにできる車は、車中避難時のストレスを軽減してくれます。
避難生活に役立つ防災性能2:アイドリング時の燃費が良い
避難時期が夏や冬だった場合、体調管理のうえでエアコンの利用は必須。また、情報を得るために車載ラジオやテレビの利用も避けられません。そうした電力を長期間にわたって得るには、ハイブリッド車などアイドリング時も燃費の良い車がベストです。
避難生活に役立つ防災性能3:電気を作れる
これまで災害対策で唯一、備蓄が難しかったのが電気でした。その常識が電気自動車やハイブリッド車、プラグインハイブリッド車などによって変わりました。例えば、私が乗っているアウトランダーPHEVならAC100V・1500Wでの発電・給電が可能。被災時の生活を想定して電力供給の実験をしたところ、10日間も車の電力だけで生活できました。そういった発電・給電能力に優れた車は、いざというとき大いに役立ってくれるはずです。
CREDIT
写真: | 渡辺実、田端邦彦、三菱自動車 |
文 : | 田端邦彦(ACT3) |
参考: | 内閣府「平成30年版 防災白書」 |