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災害時に車中泊で避難するコツ。必要な物やリスクを回避する方法も解説

災害時に車中泊で避難するコツ。必要な物やリスクを回避する方法も解説
災害時の避難方法としても注目される車中泊。でも安全に車中泊するには、どうしたら良いのか……? そこで、2003年からアウトドア防災について提唱している「あんどうりす」さんに、避難時における車中泊の仕方やポイントなどを教えてもらった。
話者
あんどうりす

あんどうりす。アウトドア防災ガイド。阪神大震災の被災体験とアウトドアの知識を生かし、2003年より全国で講演活動を展開している。著書に『自然災害最新サバイバルBOOK』(エイ出版社)や『りすの四季だより』(新建新聞社)などがある

 

車中泊は被災時に有効な避難方法

車中泊のイメージカット


かつては「被災したら避難所に行くこと」が大前提でした。しかし、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震を経て、また昨今の新型コロナウィルス感染症の影響で、状況が大きく変わってきました。

例えば、2020年5月に内閣府男女共同参画局が発表したガイドラインでは「在宅や車中泊で避難している人にも名簿登録を進め、物資や情報を提供する」方針が定められています。

ただし、災害時に初めて実施するとリスクが高くなります。一方で、車中泊は準備しておけばデメリットを回避できます。準備して体験した人であれば、災害時の選択肢として有用なものになるでしょう。

車中泊で避難するメリット・デメリット

あんどうりすの車中泊


災害時に車中泊で避難する、主なメリットとデメリットをまとめました。これらの一長一短をきちんと把握したうえで、自分をどうするかを判断しましょう。

車中泊のメリット

  • テントがなくても雨風をしのげる
  • 鍵がかけられるので防犯的には安全
  • いつも使っている車なので気軽
  • ある程度のプライバシーを保てる
  • 諸事情で避難所に行きにくい人にも便利
  • ペットと一緒にいられる
  • 車から充電でき、電化製品も使える
  • 特別な準備をしなくても急場をしのげる
  • いつでも避難場所から移動できる

車中泊のデメリット

  • エコノミークラス症候群にかかるリスクがある
  • 車内が冷えて、体調を崩すことがある
  • 車種によっては室内が窮屈
  • 寝床が水平でないと眠りずらい
  • トイレがない
  • ペットが車内で事故を起こす恐れがある
  • 長期間の避難には適さない

車中泊で避難する前の備え

車中泊に必要な物のイメージカット


災害対策として車中泊を考えているなら、事前準備を忘れずに。ハザードマップで地域の安全な場所を調べたり、ガソリンが半分以上減っていたら給油したりするなど、常日頃から防災意識を高くもつことが肝心です。

車に最低限必要な物を積む

事前の準備やちょっとした工夫で、車中泊の安全生だけでなく快適さも向上します。そこで、車中泊で避難生活を送るのに最低限必要な道具をリストアップしました。

【アイテム1】断熱マット

銀マットやロールマットとも呼ばれる断熱マットは、断熱性とクッション性を兼ね備えた道具。キャンプ用品として知られていますが、車中泊でも必須のアイテムです。窓やドア、寝床などに敷くので十分な枚数を用意しておきましょう。

【アイテム2】サンシェード

日差しを防ぐ本来の目的だけではなく、フロントガラスからの冷気の遮断にも使います。

【アイテム3】養生テープなど

断熱シートをドアや窓に貼る際に使います。

【アイテム4】クッションや毛布

防寒のたけでなく、シートの凸凹を埋めるために使います。

車内に貼る段ボール
 

【アイテム5】段ボールやエアクッションなど

断熱材がない場合の代用品。どちらも内部に「空気の層」をもっているため、熱や寒さを遮断できます。

【アイテム6】携帯トイレ

車中泊で最も困るのがトイレ。災害時に水道が止まると、家のトイレはもちろん公共トイレも使えません。携帯トイレは必ず用意しておきましょう。

【アイテム7】LEDランタン

車内のルームライトをつけっぱなしにするとバッテリーが上がってしまいますが、エンジンをかけるのはガソリンの浪費。代わりにLEDランタンを使うのがベターです。最近では通常の充電だけでなく、太陽光充電もできるタイプがあるのでオススメ。なおキャンプで使う燃料式のランタンは、車内で使うと一酸化炭素中毒や車両火災の危険があるのでNGです。

【アイテム8】弾性ストッキング

水平かどうか不安がある場合は、弾性ストッキング(着圧ストッキング、弾性ソックス)を着用すること。血栓を予防できます。

【アイテム9】最低3日分の食料と水

エコノミークラス症候群は、水分を十分に取っていないと起こりやすくなります。人間一人が1日過ごすには、最低3リッターの水が必要です。つまり、予想される日数×人数分の水を常備するのがベスト。備蓄食とともに用意しておきましょう。

事前に予行練習しておく

経験したことのないことを、災害発生時にいきなり実行するのは難しいもの。眠れなかったり、ストレスを抱えたりすることは少なくありません。

もし万が一の際に車中泊での避難を検討しているなら、自宅駐車場などで予行練習をしておくこと。どんな物を用意したら良いのか? 一晩で何回くらいトイレに行くのか? といったことが分かります。まずは、安全な状況で車中泊を試してみると良いでしょう。

安全に車中泊で避難する方法

車中泊する車内


車中泊で避難生活を送るポイントは5つに大別できます。

(1)安全に車を止められる場所を確保する
(2)室内をできるだけ水平にする
(3)寒暖差の小さい環境をつくる
(4)使えるトイレを確保する
(5)車内を衛生的に保つ


以下この5点について説明します。

【POINT1】安全に車中泊できる場所を探す

最も重要なのは、安全な駐車場所を確保すること。地震の場合は、家屋など建物が倒壊しても被害を受けない場所、盛り土など崩れやすい場所を避けることが大切です。

水害の場合は、できるだけ高い場所で、洪水や浸水のリスクがない所を選びましょう。なお、高台などは浸水の危険は少ないものの、土砂災害に巻き込まれる可能性があります。事前にハザードマップで安全な場所か、必ず確認しておきましょう。

日頃から車中泊してよい場所をチェックする

災害時であっても、街中で自由に車中泊してよいわけではありません。そのため、常日頃から車中泊ができる場所を探しておくこと。さらに水や食料などの物資が手に入るか、トイレが利用できるかも駐車場選びのポイントです。

自治体によっては、公共施設の駐車場などを災害時に車中泊できる場所に指定していることもあります。事前に調べておくと良いでしょう。また、最近ではパチンコ店やショッピングモールの駐車場が、災害時の避難所として開放されるケースもありました。

場合によっては被災地域外へ逃げる

台風や水害など被災地域が限定的な災害の場合、車で被災地域外まで避難するのもひとつの手。被災を免れるだけでなく当然、物資も手に入れられやすくなります。

例えば、2019年の台風19号。関東地方では乾電池やカセットボンベがスーパーなどで品切れとなりましたが、少し離れた地域では普段どおりに販売されていました。状況に応じて、より安全な場所に移動できることは、車中泊の大きなメリットと言えます。

荷室に作った寝床
 

【POINT2】フラットな寝床をつくる

水平に寝られる環境をつくることは、エコノミークラス症候群への有効な対策です。ポイントは足を伸ばして休めること。シートは凸凹があるので、クッションや緩衝材などを使って、できるだけ平らにしてください。理想はベッドと同じにすることです。シートの上にキャンプ用の断熱マットを敷くと、より快適に過ごせます。

キャンピングカーやミニバンだけでなく、最近では軽自動車やコンパクトカーでもシートをフラットにできる車種が増えています。特にミニバンなどの中には、シートを取り外して床面をフラットにできる車種もあるので、マニュアルブックを確認しておきましょう。

「疲れているから」「面倒くさいから」という理由で、シートに座った運転姿勢のまま寝てしまいたくなるかもしれませんが、それは絶対にNG。血流が妨げられ、エコノミークラス症候群のリスクが高まります。

窓を断熱
 

【POINT3】車内を断熱する

車の部品はほとんどが、鉄やガラスなど熱伝導率の高い材質。車内の温度は外気温に影響されやすいため、夏は暑く、冬は寒くなりやすくなっています。

そのため、寝泊まりするには断熱・防寒対策を施す必要があります。車内全体が理想ですが、特に寝床下と窓ガラスの対策は必須でしょう。

寝床下からの冷気を防ぐ

防寒の基本は、平らにしたシートの上に断熱マットを敷くこと。冷気をシャットダウンできます。断熱シートは空気を蓄える構造になっているため、熱や冷気を遮るだけでなく、寝心地も良くしてくれるので一石二鳥です。

なお、断熱シートがないなら空気を膨らませるエアマットや段ボール、梱包に使うエアマットでも代用可能。実際に代用品で効果を試したところ、防寒しない車内は5℃まで冷えましたが、防寒した場合は約11℃まで室温を暖められました。十分に効果があるので、代用品であっても必ず防寒対策はしてください。

ただ、家で使う一般的な敷布団は、結露によってダニやカビの発生させるかもしれないので車中泊に不慣れな方は避けた方が良いでしょう。なお、キャンプ用のシュラフ(寝袋)を使う場合は、シュラフカバーで結露対策を取ることも有効です。

窓ガラスを断熱して空気の層をつくる

車外からの熱や冷気が、車内へと入ってきやすい場所が窓ガラス。特にフロントガラスは面積が大きいため、入念に対策を施しましょう。

方法は簡単。断熱マットを窓ガラスより少し大きめにカットし、養生テープで留めるだけ。循環しない空気の層をつくることが大切なので、断熱マットの周囲を隙間なくテープで留めてください。断熱マットがない場合、段ボールやぷちぷちシートでも代用できます。

また、日光で車内が暑くなるのを防ぐには、窓の形になっているサンシェードを利用するのも手。その場合も空気が逃げないよう、テープで周囲を留めましょう。なおカーテンは目隠しに役立ちますが、内部に空気をためることができないので断熱効果は期待できません。

車中泊時の携帯トイレ
 

【POINT4】携帯トイレを常備する

トイレは、避難生活における大きな問題。地震などで水道が止まった場合、自宅がもちろん、公共トイレも使用することができません。

避難所などには災害用の仮設トイレが設置されますが、たくさんの人が利用するため、都市部ではトイレの数が足りなくなる問題も。さらに、過去には非衛生的になったケースもありました。熊本地震の際は、このトイレ問題がニュースで取り扱われるほどでした。当然、車中泊をする場合でもトイレ対策は必要となります。

そこで活躍するのが携帯トイレ。携帯トイレがないと、排泄物はゴミとして回収日まで持ち続けなければなりません。防災用品として携帯トイレは必須であり、最低でも1日5回×3日分×家族の人数分は用意しておきたいところです。

様々なメーカーから販売されている携帯トイレですが、消臭性能や凝固剤の性能は製品によって大きく異なります。用意する際は、事前に製品の性能を確認しておくこと。「実際に用を足すのは……」という人はコーヒーで試してみるのがオススメ。きちんと凝固するのか、ニオイが漏れないかなどをチェックでき、使い方も分かります。

上下に分けた荷室
 

【POINT5】車内をゾーンに分けて整理整頓しておく

物の置き場所を決めて、車内を整理整頓しておくことも大切。快適なだけでなく衛生面にも効果があり、感染症などのリスクを防ぐことにもつながります。

例えば、車内泊中に出たゴミなどは、眠るときには使わないシート下の足元スペースに置いておくと良いでしょう。電灯代わりのLEDランタンや紛失しやすい物は、フックを使ってグリップなどに引っ掛けておくのもオススメ。天井なら眠る際にも邪魔になりません。

ゴミの処分は自治体の指示に従う

車中泊で出たゴミは収集車が来るまで車内や庭などに保管。災害時に出たゴミの処分方法は自治体によって異なります。事前に確認しておきましょう。なお災害時に出た排泄物も、多くの自治体で処分方法が定められています。

車中泊で避難する際の注意点

車中泊の駐車場所


前述のポイントを守らないで車中泊をした場合、エコノミー症候群や低体温症に陥る恐れがあります。周囲に誰もいない場所に車中泊をして孤立し、万が一のトラブルで助けを呼べない恐れもあります。

車中泊として災害対策として有効ですが、すべての場合において車中泊がベストとは限りません。病気になってしまったときや、ケガをしてしまったときなど、行政から支援を受けるべきケースもあり得ます。

また、キャンピングカーなど長期滞在できる車でない限り、疲労がたまりやすい災害時の車中泊は2~3日が限界。不測の事態も起こる可能性もあります。そういった場合は、すぐに車中泊をやめて別の避難方法を検討してください。

浸水による車両火災に注意する

高潮や津波などによって車が浸水した場合、漏電による発火で車両火災につながる恐れがあります。海水がフロア下、目安としてタイヤの下半分まで浸水すると、車室内の多くの配線が浸水して危険な状態となることが分かっています。

2018年に関西地方で高潮・高波被害をもたらした台風21号の被害事例では、車が浸水してから2週間も後になって燃え上がったという報道もありました。

さらに、エンジンをかけてなくても発火する危険があります。車が浸水したら近づかず、保険会社やJAFなどに連絡して、レッカー車を呼ぶようにしましょう。

CREDIT
    
写真: あんどうりす、Adobe Stock、photoAC
文: 田端邦彦(ACT3)
参考: 内閣府男女共同参画局 「災害対応力を強化する女性の視点 ~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン~」