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車を運転中に地震が起きたときの対処。命を守る避難法と震災への備え

車を運転中に地震が起きた時の対処。命を守る避難法と震災への備え
地震は突然襲ってきます。また政府の地震調査委員会は、今後30年以内に非常に高い確率で南海トラフや根室沖の巨大地震が発生すると公表しています。地震の際に正しい判断をするには、事前の知識が必要不可欠。地震の被害から車を守るための対策や運転中に地震が起きたときの対処などを知っておくことが最も重要です。

事前に知っておきたい地震の災害

地震による被害を受けた街並み


大地震における車への被害は、津波による水没や、倒壊した建物による下敷き、落下物による損傷などが考えられます。こうした直接的な被害だけでなく、巨大地震では停電や道路の寸断などによる複合災害や二次災害も深刻です。これらの被害を事前に知り、事前の対策や有事の危険回避に役立てましょう。

津波・倒壊以外の災害にも気をつける

注意すべき災害1:津波

地震が生む災害の中でも特に恐ろしい津波。東日本大震災では、広い地域で巨大津波が発生し、多くの人や建物、車を飲み込みました。沿岸部での被害は甚大で、海岸線から続く低い土地では内陸部まで津波が到達しました。加えて津波は河川を遠くまで遡上することで、内陸部でも浸水などの被害も。海岸部から離れているからといって気を抜かないようにしましょう。

注意すべき災害2:建物や電柱、高架などの倒壊

強い揺れにより建物や電柱、高架などが倒壊。車が下敷きになる場合があります。車だけではなく自分や家族の命を守るためにも、古い家屋の場合は耐震補強工事を行うなど倒壊を防ぐ対策をしておきましょう。

注意すべき災害3:土砂災害

山間部や傾斜地では、地震によって土砂崩れがしばしば発生します。それらに車が巻き込まれるだけではなく、土砂災害で道路が寸断されて孤立してしまうといった二次災害にも注意が必要です。

注意すべき災害4:地割れや液状化による道路の破損

震度5弱以上の地震が発生すると、地盤の亀裂や液状化が発生。道路が損壊する恐れがあります。東日本大震災では、埋め立て地を中心に液状化現象や地盤沈下、マンホールが浮き上がる被害が多発しました。地震発生後も車を運転する場合は、道路の損壊箇所に引き続き注意が必要です。夜間など視界の悪い状況では切れた電線の垂れさがりなど危険が高まりますので、できる限り運転を控えるようにしましょう。

注意すべき災害5:交通事故

運転中に地震が発生した場合、クルマ同士の衝突事故が発生する危険があります。地震に驚いて急ブレーキを踏んだら追突されたという事例は少なくありません。運転や判断の誤りによって起こる人身事故にも気をつけなければなりません。

注意すべき災害6:ライフライン寸断などによる交通麻痺

大地震では、ライフラインの寸断が懸念されます。特に停電になると信号機が使えなり、踏切の遮断機も下りたままになるなど事故の危険も高まります。当然ガソリンや軽油も不足し、東日本大震災ではガソリンスタンドに長い列ができたり、車の使用を控えなければならなかったりと、大きな混乱が生まれました。

小まめな給油など実践したい日頃の備え

車への給油


地震は予測できないからこそ、日頃から被害防止に備えておくが重要。車で外出した先で地震が発生した場合、車を置いて避難しなければならないケースもあります。そのため、歩きやすい靴や携帯ラジオ、懐中電灯、携帯傘などを車内に常備しておくと安心でしょう。

渋滞などの二次的影響に備え、ガソリンタンクが半分程度になったら満タン給油する習慣を付けておくことも、防災対策の一つとして有効です。

津波や土砂災害の発生状況を予測したハザードマップは、地震から車を守るためにも役立つので確認しておくこと。さらに被災した際に避難する安全な場所も、スマホの地図上で見つけられるようにしておきましょう。

徒歩避難に有効な防災用品を用意する

車を置いて徒歩で避難する場合の基本的な防災用品は、ポケットサイズのラジオ、懐中電灯、飲料(500ml×1本)、軍手などが挙げられます。これらは車内待機の時にも利用できます。車のトランクや車内に常備する際は、防災リュックにまとめておくとスムーズに持ち出せます。(略)夜間に停電した道路を歩くのは危険がともなうので、懐中電灯は必需品です。ヘッドライトであれば両手が自由になります。また軍手があれば、瓦礫などを撤去するときにも役立ちます。このほか、消毒薬や絆創膏が入った救急箱、レインコートなどの雨具、小さく折りたためるアルミブランケットなどもあるとよいでしょう。
(引用元:JAF「車内に用意しておきたい防災用品とは?」)

ハザードマップなどで危険な場所を調べる

災害は新しい場所で急に起こるのでなく、昔から何度も繰り返しているケースが多いもの。過去に起きた災害の被害状況をもとに作成されたハザードマップは、土地の災害に対する強さを図る指針となります。

そういったハザードマップなどで自分が住んでいる場所やご近所はどこが安全で、どこが危険か日頃から調べておきましょう。自宅にいても土砂崩れや倒壊などの被害に合う場合があります。そういった有事の際に備え、身近にある自宅より安全な避難場所を見つけておくこと。

もちろん市区町村の指定する避難場所が近いなら、そちらを目指すのが安全です。しかし遠い場合は移動中に二次災害に巻き込まれる可能性もあります。無理に指定の避難場所を目指すのは危険な場合もあります。

最寄りの避難場所は暗記するのがベストですが、難しい場合はスマホでキャプチャして保存しておくなど最低限の準備をしておくべきでしょう。災害時には、身の安全を確保することが最優先。安全が確認されるまで待機できる場所と、目的地に到るまでのルートも確認しておいてください。

運転時に地震が発生した際の対処

地震によって亀裂が入った道路


小規模の地震だと運転中に揺れを感じることはまれですが、大地震ではタイヤがパンクした時のように車体がガタガタと揺れ、ハンドルを取られるケースがあります。だからといって慌てないように。冷静に路肩に車を止めましょう。緊急地震速報を見聞きした際も対応は同じです。

安全な場所に車を止めて情報を確認する

運転中に地震が発生した場合、周囲の状況を確認しながら道路の左側に車を寄せてゆっくりと停止。あわてて急ハンドルや急ブレーキは追突事故の危険があります。また、後続の運転手が緊急地震速報を聞いているとは限らないので、周囲の状況を確認しながらハザードランプを点滅させるなど、注意を喚起しましょう。

車を停止させても、あわてて車外に飛び出すのは危険です。揺れが収まるまで車内で待機し、ラジオなどで地震や交通情報を収集しましょう。余震や道路の損壊、土砂災害などの二次災害に巻き込まれる可能性があるので、しっかり情報収集して待機を続けるか移動するか判断しましょう。

車を置いて避難する場合は、できるだけ道路外の場所に車を移動しておくのが理想です。その際は、避難する人の通行や災害応急対策の妨げにならないように停車すること。車を離れる際には、エンジンを止めてサイドブレーキをかけ、キーを付けたままにします。ドアのロックも解除したままにしておきましょう(いたずらされたり、車を盗まれたりした例はありません)。

津波からの緊急避難以外は車の使用は控える

車を運転していない時に大地震が発生した場合、津波からの緊急避難以外では、車を使用しないことが前提。警戒宣言が発せられた場合、地震防災対策強化地域に指定されている東京、神奈川、山梨、長野、岐阜、愛知、三重の7都県の一部地域では、一般車両の通行が禁止されるか制限されます。指定地域で被災した場合は、特に車で避難すべきか確認ください。

なお、指定地域であっても津波から避難するためにやむを得ない場合は、車での避難が可能です。

危険な場所には絶対に近づかない

避けるべき場所1:山間部や傾斜地

土砂崩れや、道路や橋の崩壊といった危険がある山間部や傾斜地では、周囲の状況を確認しながら、すみやかに安全な場所に避難すること。複合災害や二次災害に巻き込まれる可能性があるため、揺れが収まっても車で進入しないようにしましょう。

避けるべき場所2:トンネルや橋梁、高架道路

トンネルや橋梁、高架道路は耐震工事が進んでいますが、耐震改修が未完了な古い箇所では崩落の危険があります。トンネルの出口に近い場合や橋を渡り終える直前なら、速度を落として走り抜けましょう。出口まで遠い場合は、トンネルなら非常口が見える場所までゆっくり進み、左側に寄せて停車。非常口から脱出しましょう。橋梁や高架道路なら揺れが収まるまで左側に停車。橋の場合は車を置いて近い方の岸に避難します。高架道路の場合は歩いて最寄りの出口から出ましょう。

避けるべき場所3:ブロック塀のそば

大地震ではブロック塀の倒壊が多発。自宅の駐車場などブロック塀が近くにある場所も危険な可能性があります。耐震工事など対策しておくと良いでしょう。また、外出先で車を止める際にはブロック塀のそばを避けるなど、日頃から意識することも被害を防ぐ対策となります。

避けるべき場所4:河口や港湾、海岸付近

大地震が発生した時は津波が襲ってくる可能性があるため、河口や港湾、海岸付近には絶対に近づかないように。発生時にこうした場所にいる場合は、すみやかにできるだけ高い土地へ避難しましょう。

車内で避難生活を送る際の注意点

立ち入り禁止となった熊本城


大地震に被災した地域では、これまでの日常生活を送るのに時間がかかることも少なくありません。それだけでなく避難所のキャパシティオーバーや、避難所生活での苦痛やストレスなどにより、車内で避難生活を送るケースも考えられます。

熊本地震のように余震が長期間続く状況では、自宅に戻れても倒壊の不安は続きます。子どもたちは余震で家が揺れるたびに変な音がして怖がり、一時的に車内に避難した人なども大勢いました。しかし狭い車内で長時間過ごすことは、エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)を発症する恐れがあります。その原因や予防策を事前に覚えておくと良いでしょう。

エコノミークラス症候群を適度に運動して防ぐ

エコノミークラス症候群とは、食事や水分を十分に取らない状態で、車などの狭い座席に長時間座っていて足を動かさないと、血行不良が起こり血液が固まりやすくなります。その結果、血の固まり(血栓)が血管の中を流れ、肺に詰まって肺塞栓などを誘発する恐れがあります。
(引用:厚生労働省「エコノミークラス症候群 予防のために」)

エコノミークラス症候群の予防策

  • 予防1:ときどき車外に出て、散歩や軽い体操、ストレッチを行う
  • 予防2:こまめに水分をとり、トイレに行く
  • 予防3:アルコールを控え、できれば禁煙する
  • 予防4:ゆったりとした服装を着て、ベルトもきつく閉めない
  • 予防5:かかとの上げ下ろし運動をし、ふくらはぎも軽く揉む
  • 予防6:眠るときは足を上げる

車が被災してしまった時の対応

土砂災害に巻き込まれた車


地震による愛車で大きな被害を被った場合、動かなさないのが基本。まずはプロに確認してもらいましょう。動かない、あるいは土砂災害や津波などで車が見つからない場合は廃車手続きをする必要があります。被災証明書を各自治体に発行してもらい、すみやかに対応すること。

一方で被災した場合には、国や各市区町村で補助金を受けることができます。制度によって適用される条件が異なりますし、被害状況や世帯年収などによっても対象外となるので、各地自治体に確認してください。なお、その際は被災した車の写真を必ず撮っておきましょう。

車両保険は地震の場合、基本的には適用外。ただ地震・津波被害を一部補償する特約が用意されている会社もあるので、経済状況に応じて加入しておくと良いでしょう。

監修
河田恵昭

河田恵昭(かわた よしあき)。京都大学名誉教授。関西大学社会安全研究センター長・特別任命教授。日本政府中央防災会議防災対策実行会議委員。人と防災未来センター長。日本における自然災害に関する第一人者であり、防災・減災・縮災の重要性を説いている

 
CREDIT
絵: 岡村優太
写真: 財団法人消防科学総合センター、河田恵昭、編集部
文: 中野剛
参考: JAF「クルマを運転中に地震が発生したら?」