#災害対策

命と車を守る大雨対策。水没などへの備えと運転時の注意点

命と車を守る大雨対策。水没などへの備えと運転時の注意点
最近では梅雨の時期から秋にかけて、いわゆる「ゲリラ豪雨」を含む短時間で狭い範囲に激しく降る雨が頻発。自動車に関する被害も多く報告されています。そこで大雨から車を守るための知識や防災術など、万一の際の対処法を紹介。事前の準備が防災には重要なのです。

知っておきたい大雨の被害

水害による土砂災害


大雨が発生すると、河川沿いや低い土地では車が浸水したり水没したりする危険があります。1時間に50mm(あるいは10分間に10mm)以上といった豪雨が都市部で発生した場合、下水能力が追いつかず道路が冠水することも。毎日通っている道が登り坂か下り坂かは車だと気付かないもの。アンダーパスやすり鉢状に窪んだ道はもちろん、周囲より低所であれば浸水深が深くなっている危険性があります。

山間部や傾斜地、長大のり面付近では、土砂災害が発生する恐れがあります。一見、安全そうに見える堤防でも河川が増水したときは危険です。堤防はアスファルトで舗装されていますが、土でできているため、内部が浸水して柔らかくなっていることも。自動車で走行した場合、車重で堤防が崩壊する事故も発生しています。

局所的な大雨では運転中に意図せず大雨域へ進入することもあり、高速道路ではスリップなど事故の危険性が高まります。また、自分がいる場所に雨が降っていなくとも上流域で発生した大雨で急激に水位が上昇。人や車が流される事故がたびたび発生します。河川敷や河原でのレジャーなどでは注意が必要です。

さらに最近ではカーナビの指示に従って危険な場所を走り、水害に巻き込まれた事例も増えています。アダプティブ・クルーズ・コントロールなど自動運転技術も災害時には正しく動作しない可能性があります。大雨時には自分自身の目で安全を確認し、低速で運転することが大事です。

ハザードマップと気象情報の確認が大雨への備え

ハザードマップ

(引用元:国土交通省「重ねるハザードマップ」)

大雨の被害から車を守るための第一歩は、日頃から自宅や勤め先の駐車場が浸水や水没、土砂災害の恐れのある場所なのかハザードマップで確認すること。最新の気象情報で大雨の予報を見聞きしたら、事前に車を安全な場所に避難させると良いでしょう。

普段から気象情報の確認を習慣づけておくことも大切。大雨の予報が出ている場合は、車での外出を控えたり時間を調整したりして、事前に対策を講じましょう。黒い雲や雷鳴は天気急変のサイン。運転中にそうした兆しに気づいたら、すぐにラジオなどで最新の気象情報をチェックしましょう。

しかし天気予報は必ず当たるとは限りませんし、警報も観測してから発表されるまでにタイムラグがあります。気象情報だけでなく、運転中は常日頃から周囲の変化に目を向けること。例えば黒い雲や雷鳴は天気急変のサイン。そうした兆しに気づいたら、最新の気象情報をチェックするとともに安全を確保できる場所を探すようにしましょう。

用語を正しく理解して、予報に応じ運転を控える

天気予報など気象情報では、1時間の雨量に応じて雨の強さと降り方を示す用語が変わります。

例えば1時間に20~30mm未満の雨量の場合は「強い雨」と表現されます。「強い雨」では、ワイパーを早くしても視界が悪くなります。1時間に30~50mm未満の「激しい雨」では、高速走行時にタイヤと路面の間に水膜が生じてブレーキが利かなくなるハイドロプレーニング現象が発生しやすくなります(雨だけでなく雪解け道でも起こります)。

それ以上の雨量では「非常に激しい雨」や「猛烈な雨」と表現。車の運転は危険ですので、使用は控えましょう。運転中の場合は速度を落とし、周囲を確認しながら安全な場所に停車。雨の激しさが収まるまで待機しましょう。

警戒レベルや気象警報・注意報は必ず確認する

自治体が呼びかける警戒レベルや、気象庁の発表する気象警報・注意報などの防災気象情報は決して見逃さないように。災害から身を守る大きな基準となるからです。

避難を伴うほど危険となるのは、警戒レベル3相当以上。警戒レベル3や大雨(土砂災害)/洪水/高潮警報が発令されたら、高齢者や障がい者など避難に時間を要する人や、その支援者は避難する必要があります。さらに、災害の危険性が高い地域の人も避難してください。それ以外の人は準備を進め、危険を感じたら避難しましょう。

警戒レベル4や土砂災害警戒情報、高潮特別警報、高潮警報が発令されたら、すべての人が避難しなければなりません。大事なのは、警戒レベル4相当までに避難することです。

警戒レベル5とそれに相当する雨特別警報、氾濫発生情報はすでに大きな災害が発生している状況。万が一、警戒レベル5相当までに避難できなかった場合、慎重に危険を避けながら安全な場所まで退避しましょう。

  とるべき行動
警戒レベル5 すぐに避難して安全を確保
警戒レベル4 危険な場所から全員避難
警戒レベル3 高齢者などは避難開始
警戒レベル2 避難する方法を確認
警戒レベル1 災害への意識を高める

大雨や集中豪雨に遭遇した際の防災術

大雨による川の増水


日頃から大雨による被害を警戒して対策することが重要ですが、運転中に想定外の大雨に遭遇することもあるでしょう。そもそも雨量が少なくとも、濡れた路面はそれだけでスリップしやすく事故の危険が高まります。周囲の状況に注意しながら、車間距離をしっかり取って安全運転に徹することが基本です。

ゲリラ豪雨や集中豪雨は、比較的短い時間で通り過ぎます。無理して運転を続けるのではなく、安全な場所に停車して雨が通り過ぎるのを待ちましょう。

冠水路や川沿いは迂回する

浸水や水没の被害を回避するためには、冠水路やアンダーパス、すり鉢状に窪んだ道に進入しないことが重要。また、大雨による急な増水で河川から水が溢れ出る可能性があります。川の様子を見に行き、車ごと流される事故もしばしば発生します。川沿いには近づかないようにしましょう。

土砂災害の危険がある場所には近づかない

大量の雨が降ることで地盤が緩むと、崖崩れや土石流などの土砂災害が発生しやすくなります。土砂に車が直接巻き込まれるだけではなく、道路が寸断され孤立する危険もあります。できるだけ車での外出は控えることはもちろん、大雨の際は土砂災害の恐れのある場所へ近づかないことが大切です。

水が流れてくる場所では水平避難する

車を運転している時に水が流れている現場に遭遇したら危険の兆候。まっすぐ進むのではなく、水が流れている方向と直角方向に逃げるように。水が流れている方向に行くと上流なら勢いが増し、下流なら深さが増します。水の流れに対して水平方向に避難する基本です。

ハイドロプレーニング現象は慌てずに対処する

高速道路では大雨などで道路の排水能力を超えた時、路面とタイヤの間に水の幕ができ、ハンドルやブレーキが利かなくなるハイドロプレーニング現象が起きやすくなります。もし走行中にハンドルが急に軽く感じたらハイドロプレーニング現象が起こっている可能性があります。

その際は、あわててブレーキを踏んだり、ハンドルを切ったりしてはいけません。アクセルペダルから足を離して水たまりを通り過ぎ、タイヤが路面に接地してコントロールが回復するまで待ちましょう。

高速道路の通行止め表示

 

高速道路だけでなく一般路で慎重に行動する

大雨に限らず、災害時には高速道路が通行止めとなります。その際、一般路に降りて走行を続けないように。高速道路で規制が発生する場合は、当然その近辺の一般路も危険です。すみやかに安全を確保できる駐車場に避難するなど、慎重に行動してください。

災害の前兆現象に注意する

大雨時にやむを得ず危険な場所にいく場合や、急に大雨に降られた時などは周囲への警戒を怠らないようにしましょう。下記のような前兆を感じたらすみやかに避難するよう心掛けてください。

注意すべき前兆現象1:崖崩れ

雨水の浸透などで斜面の地表に近い部分が突然崩れるため、崩落の時間は短く、人家の近くで発生すると逃げ遅れる可能性があります。道路に石がすでに落ちていたり、小石がパラパラと落ちてきたり、崖から水が湧き出たりしている場合は、崖崩れが発生する恐れがあります。

注意すべき前兆現象2:地滑り

斜面の一部あるいは全部が、大雨のために増えた地下水の影響と重力によって斜面下方にゆっくり移動するのが地滑り。前兆現象には、地面のひび割れや陥没が該当します。崖や斜面から水が噴き出したり、沢の水が濁ったり、樹木が傾いたりするのも、地滑りの予兆現象とされています。

注意すべき前兆現象3:土石流

山腹、河床の石や砂が、長雨や集中豪雨によって下流へと一気に押し流される土石流。時速20~40kmの速度で一瞬のうちに人家や畑などを破壊します。山鳴りがしたり、急に川の水が濁り流木が混ざり始めたりしたら、その前兆。雨が降り続いているのに川の水位が下がっている場合も発生の予兆とされています。

大雨で車が浸水や水没した際の対処法

川の氾濫によって車が浸水


冠水路などで車が走行できる水深は、乗用車であればドアの下端が目安。エンジンやマフラーに水が浸入すると、エンジンが停止することがあります。

大雨の際は、アンダーパスやすり鉢状に窪んだ道に進入しないことが重要ですが、もし冠水路に入ってしまったらスピードを落とし慎重に走り抜けましょう。速度が速いと大量の水を巻上げ、エンジンに水が入りやすくなります。

水深の浅い冠水路でも時速10km以上で走らない

大雨などでアンダーパスが冠水した場合を想定し、車が冠水路を走りきれるかをJAFがテストしました。試験車両はセダンとSUVの2タイプです。

水深30cmの場合、時速10kmならいずれの車両も走り抜けることができました。時速30kmでは巻き上げる水の量が多くなり、セダンはエンジンルームに多量の水が入りましたが、いずれのタイプも走行できました。

一方、水深が60cmになると、セダンはフロントガラスの下端まで水を被り、時速10kmでも走行不能。SUVは時速10kmなら走行できましたが、時速30kmではエンジン下部からも大量の水が入り込み、進入から10m付近でエンジンが止まりました。

このテストから、もし冠水路に進入してしまっても時速10kmならある程度まで走行できる可能性があることが分かります。しかしアンダーパスなど浸水深が深くなる箇所もあるので、安易に冠水路へ進入せず迂回してください。

浸水・冠水した車は自分では動かさない

駐車中に浸水・冠水してしまった場合、基本的には自分で動かさないこと。JAFや保険のロードサービスを利用して、レッカー車でディーラーや整理工場まで運んでもらいます。車の専門家に調べてもらい、修理するかしないか判断。そもそも修理が難しい場合は廃車にしましょう。その場合は写真を撮っておき、各自治体に「被災証明書」を発行してもらって手続きしてください。

保険が適用されるか確認する

大雨による水没などは車両保険を使用できます。ただ当然、被災状況や加入会社のプランなどによって金額や適用の可否が異なります。保険会社にて詳細を確認ください。大規模な大雨の場合、住宅が被災すると「被災者生活再建支援制度」などの支援制度が適用されることもあります。各地自治体など窓口に問い合わせてみると良いでしょう。

監修
河田恵昭

河田恵昭(かわた よしあき)。京都大学名誉教授。関西大学社会安全研究センター長・特別任命教授。日本政府中央防災会議防災対策実行会議委員。人と防災未来センター長。日本における自然災害に関する第一人者であり、防災・減災・縮災の重要性を説いている