冬はEV(電気自動車)の“電欠”に注意! 大雪時の渋滞対策と立ち往生への対処
教えてくれた人
上石勲。防災科学技術研究所 雪氷防災研究センターの特任参事。新潟県上越市出身。民間雪氷コンサルタントを経て、防災科学技術研究所に入所。現地の調査を重視して、雪氷防災に関して全般的に研究している
冬場に想定されるEVのリスク
EVが積むバッテリーは寒冷下では電気の使用量が上がるだけでなく、回生ブレーキの能力も制限されます。加えて、モーターで駆動するEVはエンジンの排熱を暖房に利用できません。電気で暖房を稼働させるので、エアコンをつけるとバッテリーの電力を大量に消費します。これらの理由から、冬はEVの航続距離が短くなるのです。
もちろん、冬はバッテリーが弱くなるといっても、短時間の走行であれば問題ありません。しかし、雪による渋滞など予期せぬ長時間走行となると“電欠”となる危険があります。EVの充電スポットがいまだ十分でないことも相まって、立ち往生の恐れが高まります。
また、救助を求めても現状ではEVの給電は容易でありません。電気はガソリンや軽油のように携行できませんし、他車に分け与えるのも不可能。2021年にNEXCO中日本などで可搬式のEV充電器や「電気自動車急速充電車」などを配備したものの、救援体制は整っていません。その点でもEVの立ち往生に対するリスクは高いと言わざるを得ないでしょう。
車両全体に積雪するくらいの大雪の場合、充電ポートのフタが凍りついて開けられないといった事例も報じられています。基本的には長時間の駐車時に発生するので、命に関わる危険には発展しませんが、寒さによるEVのトラブルとして知っておくと良いでしょう。
大雪下での立ち往生は命の危険アリ
大雪の中、EVが電欠して長時間立ち往生したら、車内の寒さで凍傷や低体温症を引き起こすリスクが高まります。さらに、血が固まって肺塞栓などを誘発する「エコノミー症候群」を発症する恐れもあります。
市街地であれば最悪、車を置いて避難することも可能ですが、郊外だと車外に出ることは危険を伴います。雪で体が濡れると体温をより失いますし、道路から離れると交通事故などに遭いかねません。吹雪の中で車から離れたら、視界が白一色になる「ホワイトアウト」を起こして遭難する可能性もあります。
EVは一酸化炭素中毒になる危険がありません。ガソリン/ディーゼル車の場合、マフラーに雪が詰まると排気ガスが車内に充満して、一酸化炭素中毒に陥る恐れがあります。エンジンを止めれば防止できますが、停止すると暖房が使えません。しかし、EVなら暖房を使っても一酸化炭素中毒になる可能性はゼロ。電欠のリスクがありますが、これは大きなメリットと言えます。
EVの立ち往生に対する冬場の備え
立ち往生への基本的な対策は、バッテリーをこまめに充電すること。日頃からアクセルを踏み込まないエコな運転を心がけ、できるだけ回生ブレーキを使用することも大切です。
遠出をする場合は、事前に充電スポットの位置を調べておくこと。定期的に給電できる安全なルートを確認してください。当然、雪崩などに巻き込まれる可能性がある山間部などに行くことは避けるようにしましょう。
また、携帯電話をきちんと充電しておくことも防災の基本。万が一の際にすぐ連絡がとれるよう、緊急連絡先も事前に電話帳に登録しておくと安心です。
天気や交通状況をこまめにチェックする
電欠を起こしやすいは、やはり長時間の渋滞。特に雪による渋滞は、寒さによる電力消費と相まってリスクが高まります。それでいて降雪は地域一帯にもたらされるため、雪による渋滞を回避するのは難しいでしょう。
そのため、大雪が降る日は外出を控えるのが鉄則。そもそも降雪時の運転は、交通事故や雪崩など通常時よりも多くの危険が伴います。
降雪が予測される日は気象庁のサイトで逐一状況をチェック。やむを得ず出かける場合はJARTIC(日本道路交通情報センター)などで交通情報を必ず確認してください。
防災・防寒グッズを車内に用意しておく
万が一、電欠して立ち往生してしまった場合に備えて、車内で使える防災グッズを用意してくことも大切。特に防寒グッズは運転時の節電にも役立ちます。雪による立ち往生への対策として最低限、下記を用意しておきましょう。
車載しておきたい防災・防寒グッズ
- ダウンジャケットなど防寒具
- 毛布・ブランケット
- 携帯カイロ
- 手袋・長靴
- 非常食・飲料水
- 携帯トイレ
- スコップ・雪かき棒
- メモ帳・筆記用具
- ポータブルバッテリー
EVで雪による渋滞に巻き込まれたときの対策
雪による渋滞に巻き込まれたときは、バッテリーを節電することが重要です。エアコンの温度は高くしすぎないようにしましょう。
もちろん、寒さを我慢しながらの運転は集中力を欠いて事故の危険が高まります。エアコンの代わりに、運転の邪魔にならないジャケットや手袋を着用するなど防寒対策を徹底してください。
また、長時間にわたって車が動かないようなケースでも、むやみに車外へ出ないように。外に出ると体温を奪われるだけでなく、車内の暖かい空気が逃げてしまうからです。スタック防止にタイヤ周辺の雪を除去するためなど、必要な場合のみ外に出るようしましょう。
エアコンでなく電気毛布を使うと大きく節電できる
JAFでは、異なる4つの暖房でEVの電力消費量を比べるテストを行いました。その結果、最も節電できたのは「エアコンを使わずに、車のコンセントで電気毛布を使った場合」。最も電力を消費したのは「エアコンを25℃で使用した場合」でした。
「エコアンを使わずに、純正シートヒーターと車のコンセントで電気フットヒーターを使った場合」と「毛布を利用しながら、体感に応じてエアコンを使用した場合」も電力の消費を抑えられましたが、電気毛布の方がより低電力で利用できたようです。
つまり、防寒しながらの節電に最も効果的なのは、EVの給電能力を生かしてエアコンより電気を必要としない暖房器具を利用すること。もちろん、エアコンほどは暖まらないので、防寒具や携帯カイロなどと合わせて活用することが大前提です。
けん引時はクラクションで合図をし合う
EVのバッテリーを節電したいなら、車内の防寒にポータブルバッテリーを利用するのも有効です。EVの電気を使わず、電気毛布や電気ポットなどで体を温めることもできます。節電のためだけでなく、防災グッズとしても役立つので用意しておくことをオススメします。
EVが大雪時に電欠してしまったときの対処
電欠で立ち往生してしまった場合は、JAFやロードサービスなどに連絡してください。近くに避難できる場所があるなら、車を置いて避難しましょう。その際は車のドアは鍵を掛けず、キーを車内に残しておくこと。同時に連絡先のメモなどを車内に残しておきます。
一方で、避難できる場所や民家が近くにない場合は、消防か警察に助けを求めましょう。特に、1台きりの立ち往生は非常に危険な状況です。すぐに連絡して救助を待ってください。車が止まっていることを周囲に伝えるため、停止表示板を置いておくことも忘れずに。
救助を待っている間は車外へむやみに出ない
救助を待つ間は、あまり車外に出ないようにしましょう。救援が来るまで時間がかかるケースもあるので、暖をとりながら体力を温存することが第一なのです。
ただ、フロントウインドウなどに雪が積もって周囲が確認できない場合は、外に出て排除すること。道路などで立ち往生した場合は、交通事故に遭わないよう注意すること。降雪が激しい場合は短い距離でもホワイトアウトを起こすリスクがあるので、できるだけ車から離れないようにしましょう。
血流を良くしてエコノミークラス症候群を防ぐ
長時間の立ち往生となった場合、エコノミークラス症候群の対策は必須です。食事や水分を十分に取らない状態で、車などの狭い座席に長時間座っていると発症しやすくなります。こまめな水分補給とともに適度に体を動かし、血行を良くして予防しましょう
エコノミークラス症候群の具体的な予防策
- 軽い体操やストレッチを行う
- こまめに水分をとる
- 禁煙する
- ゆったりとした服装を着て、ベルトもきつく閉めない
- かかとの上げ下ろし運動をし、ふくらはぎも軽くもむ
- 横になるときは足を上げる