車の雪対策と安全運転のコツ。寒冷地では駐車するときも要注意!
知っておきたい大雪の危険
日本の国土のうち、約51%は豪雪地帯。毎年、冬になると数多くの災害や事故が発生します。その多くは雪下ろし作業中の落下事故や、凍結した路面を歩行中の転倒事故ですが、雪崩や建物倒壊に巻き込まれるリスク、積雪路での交通事故に遭うリスクも決して無視できません。雪害に遭わないためにも、まずはそのリスクを理解しましょう。
リスク1:交通事故
積雪路や凍結路はタイヤが滑りやすくなるだけでなく、タイヤが雪に埋まって動けなくなるスタックも誘発します。ほんのわずかに積もった雪でも路面の滑りやすさは乾燥路と比べて大きく下がります。凍った路面は、積雪路よりもさらに滑りやすくなります。
また、日中に解けた雪が気温の低下によって凍結し、雪の下に隠れていることも。積雪路と凍結路が連続するような道は特にスリップしやすいので、注意が必要です。天気の良い日は日中に雪が解け、夜間に凍結することが多く、特に危険です。
リスク2:雪崩
雪崩とは、山腹の斜面に積もった雪が、重力によって急激に崩れ落ちること。急傾斜の斜面ほど発生しやすいのが特徴です。雪が積もっている場所にさらに降雪があったときは、その境界がすべり面になりやすくなり、気温が上昇する午前中や春先、降雨後などに新雪の雪崩が起こりやすくなります。
車が雪崩に直接巻き込まれる被害は稀ですが、2014年には雪崩によって道路が断絶。数日間にわたって立ち往生し、救出されたケースがありました。
リスク3:ホワイトアウト
ホワイトアウトとは、雪などによって視界すべてが真っ白になること。周囲の状況をまるで把握できないため、様々な事故を引き起こす恐れがあります。ホワイトアウトは山間部など強い風が吹く場所で発生しやすく、一瞬のうちに視界が遮られてしまいます。
リスク4:建物倒壊
雪は降ったばかりの「新雪」では30~150kg/m3、一度解けてから再度凍結した「ざらめ雪」では300~500kg/m3もの重さがあります。木造家屋やプレハブの中、簡易な作りのカーポートの下などは、雪の重みによって倒壊するリスクがあります。
リスク5:寒さによる車の不具合
車は内部に水や油をたくさんもつ工業製品であるため、寒い場所ではトラブルが多くなります。中でも軽油の凍結は要注意。軽油にはワックス分が含まれており、低温になると凝固して燃料経路を詰まらせることも。都市部から寒冷地などより寒い場所へ移動する場合は、凍結する可能性が高くなります。なお、寒冷地のガソリンスタンドで販売されている軽油は凍結しにくい仕様となっているので、凍結するリスクは少なくなっています。
降雪地域を走る前の準備
(引用元:気象庁「現在の雪」)
大雪が降る日は、できるだけ外出を控えるのが得策。雪害は特定の場所ではなく地域一帯にもたらされるため、回避することが難しい災害です。自分自身が交通事故や雪崩に遭うリスクがあるだけでなく、交通マヒに巻き込まれ、身動きが取れなくなる恐れもあります。
降雪が予測される日は、まず気象庁やJARTIC(日本道路交通情報センター)サイトで現地の降雪量と積雪の深さ、目的地までの交通情報をチェック。安全かどうかを十分に確認しましょう。
運転プランを十分に検討する
出かける場合は、急な天候変化による待避も想定した計画を立てること。低気圧が近づいて来るときは、特に危険です。細い峠道をできるだけ避け、幹線道路を中心とした安全なルートを通りましょう。
気温が上昇する晴れた日の午前中は雪崩のリスクが高まり、気温が低下する日没から明け方の時間帯は路面凍結によるスリップのリスクが高まります。天候や時間帯、目的地に合わせ、できるだけリスクが低くなるプランを立てることが大切です。
チェーンを用意する
タイヤのサイズにあったチェーンを用意し、雪が降る前に装着の仕方を確認しておきましょう。豪雪地帯に暮らしている、ウインタースポーツを趣味にしているなど、ワンシーズンに複数回、雪道を走る人の場合はスタッドレスタイヤへの履き替えがオススメです。
タイヤチェーンは安価ですが、装着に手間がかかり、降雪路と乾燥路が連続する場面では取り外しを繰り返す必要があります。一方で スタッドレスタイヤは高価ではあるものの、乾燥路もそのまま走れるので降雪時に慌てて装着する手間がかかりません。履き替えは冬場に一度で済みます。他にも、両者には次のような特徴があります。
タイヤチェーンの特徴
・凍結路で特に有効
・高速走行できない
・保管場所に困らない
スタッドレスタイヤの特徴
・標準タイヤに近い感覚で走れる
・圧雪路で力を発揮
・一部の凍結路は走れない
・保管場所が必要
チェーン規制が発令されたら運転しない
「冬用タイヤ規制」はタイヤチェーンだけでなく、スタッドレスタイヤでも走行することができます。しかし、警報が発せられるほどの大雪が降ったときには注意が必要です。
「チェーン規制」が発令されると一部の道路では、スタッドレスタイヤを履いていてもチェーンがなければ走行できません。そもそもチェーン規制が発令されているということは、すでに運転するのは危険であるということ。車での移動を控えるべきです。
スタッドレスタイヤは装着前に残り溝を確認する
スタッドレスタイヤは摩耗によって大きく性能が落ちます。スタッドレスタイヤには標準タイヤと同じ「スリップサイン」だけでなく、50%摩耗すると露出する「プラットホーム」というブロックがあります。これが表面に現れていたら、雪上や氷上で性能を発揮できません。シーズン前に確認し、新品に交換してください。
また、経年でも性能が低下し、一般的には3~5年がスタッドレスタイヤの寿命といわれています。製造から年数が経過したら、たとえ溝が残っていても交換するように。
寒冷な気温に備えてワイパーなども交換する
同じ車であっても雪国の車がトラブルを起こさないのは「寒冷地仕様」だから。つまり、寒冷地で走行する場合はワイパーなどのゴム製部品、ウオッシャー液などの液体を交換する必要があります。さらにスタックなどのトラブルを想定した装備も、忘れず車に載せておきましょう。
寒冷地仕様に交換するもの
ワイパー
標準的なワイパーは寒冷地で使用すると金属部分に雪が詰まったり、ゴムが硬くなったりして、フロントガラスを満遍なく払拭できなくなることがあります。金属部分がカバーで覆われ、寒冷地でも硬化しにくいゴムを使った冬用ワイパーに交換しましょう。
ラジエター液
ラジエター液(冷却液、クーラント)は寒冷地でも凍らないようになっていますが、効果は濃度や経年によって変化します。濃度が薄くなっていると凍結し、ラジエター本体を破壊してしまうことも。冬シーズン前、寒冷地に出かける前に必ず濃度と量を確認しておきましょう。ラジエター液の寿命は約2年程度なので、経過している場合は交換してください。
ウオッシャー液
ウオッシャー液も濃度が薄い(=真水に近い)と凍結しやすくなります。市販されているウオッシャー液には凍結温度が記されているので、自分が車を使う環境に適した製品を使用してください。
バッテリー
気温が低いと、バッテリー上がりを起こしやすくなります。寿命は製品や使用環境によって異なりますが、長くても5年程度が目安。始動に不安を感じる場合は、新品に交換しておきましょう。
車内に載せておくべきもの
ジャッキ
チェーンを装着する際に必要です。またスタックから脱出する際に役立つこともあるので必ず用意し、使用できる状態かも確認しましょう。
ブースターケーブル
バッテリー上がりを起こしてもブースターケーブル(ジャンプコード)があれば他車にレスキューしてもらえるので安心です。
スコップ
雪に埋もれてスタックした際、降雪時に車内で待機する際には、スコップで車周辺の雪をかき出す必要があります。除雪作業には角型スコップが便利です。
スクレーパー
ガラスに付着した氷を落とすのに使います。凍結したガラスにお湯をかけるのはNG。急激な温度変化でガラスが割れる可能性があります。
解氷スプレー
スクレーパーでガラス面の雪を落とす際、解氷スプレーがあれば素早く作業できます。
けん引ロープ
スタックして自力脱出できなくなった車は、他車に助けてもらうほか手段がありません。けん引ロープがあればJAFなどのロードサービスに頼らなくても、いざというときに他車に助けてもらうことができます。
毛布やサバイバルシート
スタックや事故で救出を待つときや、大雪で車両滞留が発生したときなどには、車内で長時間すごす事態になるかもしれません。エンジンが始動できないことも想定し、毛布やサバイバルシートなどの防寒具を用意しておくと良いでしょう。
段ボールや広幅板
雪道や泥道で深い溝にタイヤが落ちて脱出する場合、あると便利。段ボールや広幅板は、幅が20cm以上あるものを選びましょう。ゴム手袋と合わせてトランクなどに常備しておくこと。
大雪時に駐車するときの注意点
大雪が降っている場所や、極端に気温が低い場所で普段と同様に駐車すると、出発するのに時間がかかったり、思わぬトラブルに見舞われたりすることがあります。
ワイパーを立て、サイドブレーキは使わない
氷点下では、ワイパーが凍結したフロントガラスに固着してしまうことがあります。強引に剥がすと、ブレード部分が千切れて使用できなくなることも。車を離れる際は、ワイパーを立てておくように。
また、サイドブレーキのワイヤー部分が凍結し、解除できなくなることもあります。寒冷地ではサイドブレーキを使わず、AT車の場合はシフトポジションをPに、MT車の場合は1速(下り坂ではリバース)に入れて駐車しましょう。
倒壊しそうな駐車場所を避ける
2014年2月に発生した豪雪では、多くの家屋の屋根やカーポートが雪の重みで倒壊しました。大雪警報が発表されたら自らの身を守るため、また車の損傷を防ぐために倒壊しそうな建物内に駐車するのを避けてください。
雪道やアイスバーンを走るときの注意点
積雪路や凍結路は、普段の道路に比べて著しく滑りやすくなります。とにかくスピードを落とし、急ハンドルなど急のつく動作を避けること。車間距離はふだんの2倍以上開け、先行車の減速や事故を早めに察知できるよう細心の注意を払ってください。
セカンドギアで発進してアクセルをゆっくり踏む
発進時に起こることが多いのが、タイヤが雪に埋もれてしまうスタック。そんなときは、まずセカンドギアに入れ、オートマ車の場合はアイドリングを利用しながら少しずつアクセルペダルを踏むのがポイント。スノーモードやトラクションコントロールが付いている車ならスイッチをオンにし、切り替えが必要なパートタイム式4WD車なら4WDにシフトしておきましょう。
ちなみにスコップがあればタイヤの下に砂などを入れて摩擦を大きくしても、スタックを避けられます。
ブレーキペダルを早めに踏む
雪道ではブレーキングは慎重に。先方の危険を早めに察知し、早めのブレーキングを心がけてください。
最近の車にはほとんどABSが付いているので、ブレーキを強く踏んでもタイヤがロックしないようになっています。しかし、急ブレーキをかけた経験がなく、ABS作動によるペダルへの反動に驚いて、いきなり足を離してしまう事例があります。滑るとハンドル操作で車体を戻すことは困難です。広い駐車場など周囲が開けた安全な場所で故意にABSを作動させ、反動に慣れておくと安心です。
カーナビなど先進装備を信用しない
カーナビが案内してくれたルートは必ずしも安全とは限りません。走り始める前に経路を確認し、雪が深い所や凍結していそうな所を通っていたら、迂回できるルートを探しましょう。
プリクラッシュセーフティや先行車追従型クルーズコントロールなど先進的な予防安全装備も、雪道で頼りすぎるのはNG。カメラやセンサーに雪や氷が付着した状態や、視界が悪い状態だと作動しなくなります。あらかじめ雪や氷を落としておくことも有効ですが、安全運転を心がけることが重要です。
ホワイトアウトしたら、すぐに待避
雪と風によって視界が遮られるホワイトアウトアウトが発生したとき、そのまま運転を続けることは危険です。ホワイトアウトしたら、すみやかに安全な場所に車を止めること。ただし、路肩は後続車から追突される可能性があります。安全な駐車場や待避所、非常駐車帯を徐行して探し、待避してください。
滑りやすい場所はあらかじめ減速
日影になっている所や北向きの道路、風が通り抜ける場所、川の上の橋は特に凍結しやすい箇所。カーナビの地図や地形から危険箇所を判断し、十分にスピードを落として侵入しましょう。
滑りやすい場所1:交差点
多くの車が行き交う交差点は、タイヤによって路面の凍結部分が磨かれた「ミラーバーン」になっていることがあります。赤信号での停止時はエンジンブレーキを使って手前から減速し、ゆっくり停止しましょう。また、横断歩道の上や他の路面より低くなっている所は水が溜まりやすく、凍結していることも。できるだけ加減速やステアリング操作をせず、一定速度で通り抜けるのが安全運転のコツです。
滑りやすい場所2:日影、北向きの場所
日影になっている所、北向きの道路では路面に流れ出た水が凍り、黒く見えることがあります。これは「ブラックアイスバーン」という現象。濡れているだけに見えてしまいますが、圧雪路や白い凍結路よりもさらに滑りやすくなっています。
滑りやすい場所3:橋の上
橋の上は風の通り道になっており、気温が下がるため路面が凍結しやすくなっています。高速道路では「橋の上」だと認識しにくい箇所が少なくありません。できればカーナビや地図で橋のある場所を事前に確認。注意が必要な箇所を覚えておきましょう。
滑りやすい場所4:トンネル出口
山間部では、トンネルを出た途端に路面状況が急変することがあります。それまで乾燥していた道路がトンネル出口から急に凍結していたり、雪が降っていたり、強風が吹いていたりすることが少なくありません。トンネル出口では手前から十分にスピードを落とし、ハンドルを両手でしっかり握ること。ただし、急に減速すると追突される危険があるので後方車両にも注意してください。
雪でスタックしたときの脱出法
まずはハンドルを真っ直ぐにしたまま、進める分だけ前進と後退を繰り返して、タイヤ周辺の雪を少しずつ踏み固めます。スコップを持っている場合は、事前にタイヤやバンパー前の雪を取り除いておいてください。タイヤが側溝や穴に落ちてしまった場合は、雪を集めてタイヤ前にスロープを作る方法が有効です。
次にアクセルペダルをゆっくりと踏み込みます。空転させると雪を掘ってしまい、かえって脱出できなくなります。アクセル操作は慎重かつ控えめにするのがポイントです。
砂箱を活用する
豪雪地帯では路肩に「砂箱」が設置されていて、誰でも使うことができます。タイヤが空転しているときには砂箱内の砂袋を取り出し、路上に砂を撒きましょう。タイヤと雪の間に毛布などを詰める方法も有効ですが、タイヤハウス内への巻き込み、後方への蹴り出しには注意してください。
車が雪害を受けた場合の対応
災害規模の大雪によって人や車が被害を受けたときには、警察やロードサービスを呼んでも現地に到着するまでに時間がかかることがあります。寒冷な気温下で待機するときには、低体温症や凍傷にかからないよう注意が必要。寒い日は使い捨てカイロなど防寒具は必携でしょう。
スタックして抜け出せない場合は救援を求める
スタックして自力での脱出が不可能なら、他車の救援に頼むしかありません。他の車に助けを求め、けん引ロープをつないで脱出を図ります。他車が見つからない場合や、他車でけん引できない場合には、JAFや加入している保険会社のロードサービスを呼びましょう。
なおJAFへの電話は♯8139で、最寄りのコールセンターにつながります。JAF会員でなくても、有料でロードサービスを依頼できます。救援が到着するまで車両後方に三角表示板や発炎筒を置いて注意喚起し、安全を確保してから待機してください。
マフラーが雪で詰まっていたら危険
車内で救援を待つときは、排気ガスによる一酸化炭素中毒に注意。マフラーの出口を雪がふさいでいると排気ガスが車内へと侵入し、一酸化炭素中毒に陥る恐れがあります。周辺の雪をスコップなどでかきだし、窓を開けて換気します。
建物が倒壊したら車を動かさない
雪の重みでカーポートなどが倒壊した場合、車は無理に動かさないこと。倒壊がさらに進む可能性があります。車はそのままにし、自分は安全な場所に避難。市区町村か消防、警察に救援を要請しましょう。
また、災害規模の大雪によって建物や車が被災した場合、国や市区町村から補助金が出ることがあります。災害規模、被害状況などによって適用が異なるので、各自治体に確認してください。その際は、記録として被災した車の写真を撮ることも忘れずに。
自動車保険が適用されるか確かめる
車への雪害は、基本的に車両保険の適用範囲内となります。ただ、被災状況や加入会社のプランなどによって金額や使用の可否が異なります。保険会社に連絡して、詳細を確認しましょう。
監修
河田恵昭(かわた よしあき)。京都大学名誉教授。関西大学社会安全研究センター長・特別任命教授。日本政府中央防災会議防災対策実行会議委員。人と防災未来センター長。日本における自然災害に関する第一人者であり、防災・減災・縮災の重要性を説いている
CREDIT
絵: | 岡村優太 |
写真: | 河田恵昭、Adobe Stock |
文: | 田端邦彦(ACT3) |
参考: | 国土交通省「豪雪地帯対策の推進」 国土交通省「雪崩防災」 首相官邸「雪害では、どのような災害が起こるのか」 日本自動車タイヤ協会 内閣府「特集2 土砂災害に備える」 新潟県庁「空き家住宅・建築物の屋根雪管理に心掛けましょう」 JAF「雪道・アイスバーンでの運転の注意点」 JAF「タイヤの違いによる制動距離の比較」 |