マツダ純正の「緊急防災 車中泊セット」は超実用的な防災グッズだ
緊急防災 車中泊セットを作った理由とは?
マツダは2020年7月に緊急防災 車中泊セットを発売。それまで社外品の防災グッズをディーラーで取り扱うことはあっても、独自に作成したのは今回が初めてとのことです。マツダが車中泊セットを作った理由と背景について、宮地さんに尋ねました。
「平成30年7月豪雨」の被災経験から車中泊セットを開発
編集部 緊急防災「車中泊セット」を作った経緯を教えてください。
宮地孝和さん(以下、宮地) 近年の日本では地震や台風など自然災害が多発しています。「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」ではマツダ本社がある広島県も大きな被害を受けました。身近な地域での被災経験を踏まえ、マツダとして純正の防災用品を用意することになりました。
編集部 平成30年7月豪雨(西日本豪雨)は中部地方、九州地方などに浸水や土砂崩れなどの大きな被害がもたらされました。マツダの工場も影響を受け、生産体制に影響が出たそうですね……。
宮地 関係会社様含め、従業員自身やその家族が被災され、大きな影響を受けました。その経験から災害への準備や初動の大切さを学びました。そうした教訓もあって「予期せぬ災害時でもお客様の助けになりたい」と思い、自動車メーカーとして貢献できることを改めて考えました。その結果のひとつが「緊急防災 車中泊セット」です。
編集部 なるほど。しかし、気になるのは「車中泊」に特化したこと。2021年7月現在、メーカー純正の防災グッズでは類を見ませんが、どうして車中泊にこだわったのでしょうか?
宮地 今や防災用品はホームセンターやインターネット通販など至る所で手に入り、製品の内容も多種多様です。そうした中で、自動車メーカーが用意する防災セットはどんな内容が最適かと追求した結果、「緊急避難時の車中泊」に焦点を当てることにしたのです。
編集部 販売店を訪れた際に防災用品を購入できるのは利点ですし、コロナ禍では「分散避難」できる車中泊セットが車内に常備されているのも安心につながりますね。自社で車中泊セットを用意するにあたり、苦労したことはありますか?
宮地 当社は自動車や部品の開発については技術や知見を培ってきましたが、防災用品については知見が乏しい状態でした。手探りの状態で企画に着手したため、当時は試行錯誤の連続でした。
編集部 どのようにして知見不足を解決したのですか?
宮地 まずは、防災専門家にアドバイスをいただきました。同時に、平成30年7月豪雨で避難生活を送ったマツダ社員にもヒアリングしています。そういった様々な意見を反映させ、実用的な商品を目指しました。そのかいあって、緊急時にも有効な商品に仕上がったと自負しています。
車中泊セット開発のこだわりは?
緊急防災 車中泊セットは既成の防災グッズを詰め合わせただけではなく、徹底的なリサーチを元に実用的な組み合わせとなっていました。開発のこだわりや特徴、その利便性を宮地さんに教えてもらいました。
誰もが安全に車中泊できるように考慮した
編集部 車中泊避難には「プライバシーを守れる」「すぐに移動できる」というメリットがありますが、一方でデメリットもありますよね。
宮地 車中泊でリスクとなるのは、やはりエコノミークラス症候群。したがって車中泊セットでは、その対策に特に注力しました。具体的に言うと福助株式会社製の着圧ソックス「車中履くソックス」を採用したのです。
編集部 福助といえば、ストッキングや靴下の名門ですね! 「車中泊」専用のソックスを販売しているとは知りませんでした。
宮地 車中履くソックスは、福助製の医療用弾性ストッキングと同等の圧着性能をもっています。医療従事者の管理が不要な靴下として開発され、履いておくだけで足が圧迫され、エコノミークラス症候群のリスクを軽減できるとされています。
編集部 医療用弾性ストッキングは内閣府の「避難所運営ガイドライン」でも避難所での配布が推奨されていますが、採用している自治体はまだごく一部。緊急時に数が不足するとも予想されているので、同様の性能をもつ製品が防災セットに内包されているのは素晴らしいところですね。
宮地 ありがとうございます。抗菌防臭や消臭、吸水速乾など靴下としての機能も配慮していて、使い勝手も良いんですよ。
編集部 ソックスも気になりましたが、各防災用品を収める「防水ロールバッグ」も便利そうですね。
宮地 防水ロールバッグは「車中泊セット」専用に開発しました。浸水などの水害でも中身が濡れないように防水仕様となっています。加えて、水を運ぶための簡易的なバケツ代わりになり、バッグの中に詰め物をすれば枕にもなるなど、多用途に使うことができます。
編集部 車内に常備しておく防災グッズとして、コンパクトなこと、容器自体にも複数の機能があることはありがたいですね。ただ、コンパクトカーや軽自動車に常備する防災グッズとしてはサイズが少し大きいような……。
宮地 実は、お客様や販売店からも同様の声をいただいていました。そこで、2021年7月から従来の10L仕様より一回り小さい5L仕様を追加しました。内包するアイテム数も厳選し、よりコンパクトな仕様を用意しています。
編集部 車中泊といえば「シートの凸凹が気になって安眠できない……」という声もよく聞かれます。平らな荷室などで寝られれば良いのですが、それが可能なのはミニバンやSUVなど一部の車種に限られてしまいます。
宮地 落ち着いて眠れる環境を作ることは、避難時に健康を維持するうえでも大切。当然、車中泊セットでもケアしています。「防災エアーマットGOLON」は空気を入れて膨らませることで車室内の凹凸が軽減できます。
編集部 キャンプ用品では一般的になったエアーマットですが、車載用防災グッズでは珍しいですね。車中泊を快適にするアイテムといえば、虫よけのネットも用意されているのですね。
宮地 車内の温度管理も重要ですので、「虫よけウインドーネット」があれば窓を全開にしても虫などの侵入を減らすことができます。ネットには防虫加工が施されているのもポイントです。
編集部 排泄音が聞こえにくい吸水シート一体型で使い捨てられる「トイレONE(3枚入り)」も、車中泊の現実に即しているなと感じました。
宮地 安全性はもちろん、避難時にはプライバシーの確保も大事です。着替えやトイレ時に役立つ「目かくしポンチョ」なども車中泊セットに加え、性別や年齢を問わずにお使いいただけるよう考慮しました。
編集部 破れにくい取っ手付きの「非常用給水バッグ」も、持ちやすくて実用的だと思います。あと、最近ではあまり常備されなくなった「ブースターケーブル」がセットに含まれているのも助かるでしょうね。
宮地 車中泊では停車した状態で電装品を使うことが多いので、どうしてもバッテリー上がりが心配になると思います。自車のバッテリー上がりはもちろん、他車を救援することもできます。
車中泊セットを効果的に活用する方法は?
緊急防災 車中泊セットを活用すれば車中泊時の安全性は格段に高まりそうです。ただし、常に車中泊がベストな避難方法とは限りません。状況に応じて適切な避難方法を選択することが、災害時の安全確保には重要だと宮地さんは言います。
車中泊セットを車中泊のリスク軽減に活用してほしい
編集部 車中泊セットを使って、より安全に車中泊するためのポイントを教えてください。
宮地 まず、車内は温度変化が大きいので、暑さ対策、寒さ対策は欠かせません。暑いときは虫よけウインドーネットを使って窓を開け、適宜エアコンも使うべきでしょう。「気温が極端に高いor低い」「燃料がなくてエアコンがつけられない」など対策できない場合は、車中泊を中止して避難所に行く判断も必要です。
編集部 軽自動車やコンパクトカーなど車内空間が狭い車、シートがフルフラットにならない車で車中泊するには、どんな工夫が必要ですか?
宮地 防災エアーマットでできるだけ平坦な就寝環境を作り、車中履くソックスでエコノミークラス症候群を予防すると良いでしょう。ただ、それでも車内スペースは限られているので、無理に家族全員で車中泊するのは賢明ではありません。状況によっては、避難所に泊まる人と車中泊する人を分けるのもひとつの手です。
編集部 車中泊は完璧な避難方法ではないからこそ、状況に合わせた判断や工夫が必要ということですね。では、車中泊セットに含まれていないもので、ユーザーが別途用意しておくべきグッズはありますか?
宮地 段ボールや毛布、クッションなどを用意し、シート間の隙間やセンタートンネルなど車内の大きな凸凹を埋めれば、より快適に寝ることができるでしょう。また、防災エアーマットの上にバスタオルを敷けば、夏場の蒸し暑さや寝返り時の擦れ音といった不快さを低減できると思います。
編集部 平時に車内泊を試して“防災訓練”してみると、自分に何が必要か分かるかもしれませんね。
宮地 そうですね。水や携行食などの消耗品も、1日でどれくらい使うか分かれば用意しやすいかもしれません。
編集部 必要な物といえば、コロナ禍においては車内を除菌、消毒できるアイテムも必携だと思います。車中泊セットには含まれていませんが、マツダでは「マツダ車用除菌ウェットシート」も用意していますよね。
宮地 はい、新型コロナウイルス対策に有効とされる界面活性剤を主成分としたウェットシートです。除菌性能に優れながら、アルコール成分を含んでいないため、自動車部品が傷みにくいのが特徴です。
編集部 200mm×300mmという大きめなサイズなので、車内を清掃する際も使い勝手が良さそうですね。「マツダ純正」というのも、マツダ車ファンにとってはうれしいでしょうね。
■参考記事
災害時に車中泊で避難するコツ。必要な物やリスクを回避する方法も解説
車に積んでおくべき防災グッズとは? 災害と避難生活に備えよう
ユーザーからの車中泊セットの評判は?
自然災害が多い日本ですが、防災バッグの常備率はまだまだ低いのが現状。マツダから発売された車中泊セットは、消費者の災害対策意識向上に一石を投じることになるのでしょうか?
マツダ車オーナーには好意的に受け止められている
編集部 車中泊セットが発売されてから約1年が経ちましたが、ユーザーからの反応はいかがですか?
宮地 ありがたいことにお客様から好評をいただいています。販売店のスタッフにも評判が良く、過去に大規模な自然災害が発生した地域では販売スタッフからお客様へ自発的に提案していただいています。
編集部 2021年7月に追加発売された5L仕様のコンパクト版も反応が楽しみですね。車中泊セットは全国のマツダ販売店で購入できるんですよね?
宮地 おっしゃるとおりです。マツダ車のオーナー以外でも購入可能ですよ。
編集部 防災用品を揃えるうえで、車中泊セットをベースにするのは効率的だと思いました。自分に必要な防災用品と、セットの内容を照らし合わせて検討してみるのも良いかもしれませんね。
緊急防災 車中泊セット5L仕様
メーカー希望小売価:9,790円
品数:全7品(内容は下記のとおり)
(1)防水ロールバッグ
(2)車中履くソックス Mサイズ/Lサイズ各1個
(3)防災エアーマットGOLON 1個
(4)虫よけウインドーネット フロントドア用 1個
(5)トイレONE(3枚入り)
(6)目かくしポンチョ
(7)蓄光ホイッスル
緊急防災 車中泊セット10L仕様
メーカー希望小売価:15,950円
品数:全10品(内容は下記のとおり)
(1)防水ロールバッグ
(2)車中履くソックス Mサイズ/Lサイズ各1個
(3)防災エアーマットGOLON 2個
(4)虫よけウインドーネット フロントドア用 2個
(5)トイレONE(3枚入り)
(6)目かくしポンチョ
(7)蓄光ホイッスル
(8)非常用給水バッグ5L用
(9)タオル(個別包装)2枚
(10)ブースターケーブル DC12V/80A用
CREDIT
写真: | マツダ、編集部、Adobe Stock |
文: | 田端邦彦(ACT3) |