火山が噴火したときの対応。車を守る火山灰への対処と運転時の注意点
知っておきたい火山噴火による被害
火山噴火による被害は、火砕流や噴石など突発的で大規模なものから、地域によっては日常的とも言える火山灰まで様々。当然、噴火している火山の近くにいるほど大きな被害を受ける可能性は高くなります。
火砕流などによる被害
噴火している火山に近い場所では時速100km以上の速度で数百℃に達する固体粒子と火山ガスが流れる「火砕流」や「溶岩流」といった、大規模な災害が発生。
さらに、火山を覆う雪や氷が火山活動で溶かされ、火山噴出物と水が混合して地表を流れる「融雪型火山泥流」、火口付近で溶けた雪や雨水などが火山堆積物と混ざって流動する「火山泥流・土石流」といった土砂災害が発生することもあります。
噴石による被害
噴火によって火口から岩石が吹き飛ばされる「噴石」が落下する危険もあります。噴石のサイズは様々で、直径数cm程度の小さな噴石は風の影響で遠方まで流されて降ることも。一方で、大きな噴石は20~30cm以上。風の影響をほとんど受けずに飛散します。
火山ガスによる被害
火山活動により噴出する高温のガスを「火山ガス」と言います。二酸化硫黄や硫化水素などの有毒物質が大量に含み、吸い込むと気管支などへの障害や中毒など人体に深刻な被害をもたらします。
火山灰による被害
噴火による被害で最も広範囲に影響するのが、火山灰です。火山灰は小さな粒子なので、風に乗って数十~数百kmといった広い範囲に降り積もります。「人体への直接的な被害は少ない」とされていますが、咳が出たり、目が痒くなったりすることも。肺疾患のある人や、コンタクトレンズを着用している人は症状が悪化する恐れがあります。
火山灰による車や交通への影響
火山灰の降灰は交通にも被害を与えます。道路の視界を悪化させたり、路面が滑りやすくなったりと車の運転に影響するだけでなく、灰による漏電で信号機や踏切が作動しなくなる事例もあります。
加えて、車自体に被害をもたらすことも。エンジンルーム内に火山灰が入り込めば、エアフィルターが汚れて加速性能が悪化するなど悪影響が想定されます。なおEVやPHEVなどへの影響も心配されるところですが、そのような事例は現状では認められていません。
火山噴火と降灰を予測する方法
(引用元:気象庁「降灰予報」)
火山の噴火は予兆がない場合もあり、完璧に予想するのは難しいとされています。しかし、「火山防災マップで噴火のリスクがある火山の場所を調べ、周辺に近寄らない」など対策を取ることは可能。さらに観測データを元にした情報によって、現在の噴火危険度を知ることもできます。
事前に情報を収集し未然にリスクを下げることこそ、火山噴火による被害を免れる最善の手段と言えるでしょう。
気象庁の噴火情報を確認する
気象庁では直近の噴火が予想される火山について「噴火予報」「噴火警報」「噴火速報」などの情報を状況に応じて発表。これらの情報は気象庁のホームページやテレビ、ラジオなどで知ることができます。
噴火警報・噴火予報
噴火警報は「命に危険を及ぼす火山現象の発生が予想される場合や、危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に『警戒が必要な範囲』を明示して発表される」もの。
上記で定義されている火山現象とは「大きな噴石や火砕流など発生から短時間で火口周辺や居住地域に到達し、避難までの猶予がほとんどない災害」です。
火山活動の状況が静穏である場合や、火山活動の状況が噴火警報には及ばない程度と予想される場合には、警報でなく「噴火予報」となります。
他にも、火山噴火予知連絡会が選定した50火山のうち全国48の火山では「噴火警戒レベル」を運用。これは「警戒が必要な範囲」と、防災機関や住民などの「とるべき防災対応」を5段階に区分し、噴火警報や噴火予報と合わせて発表されます。
噴火速報
噴火速報は、噴火の発生が認められたときの緊急速報。登山者や周辺の住民に対して素早く情報を伝え、身を守る行動を取ってもらうために発表されます。これが発せられた場合、危険エリアからすみやかに避難しなくてはなりません。
火山ガス予報
火山ガス予報は、火山の噴火などによって有毒の火山ガスが放出されることを知らせる予報です。ただ、これは非常に希な予報。過去、東京都・伊豆諸島の三宅島でしか運用されておらず、2015年以降一度も発表されていません。
気象庁による「降灰予報」を活用する
火山灰の情報は気象庁の「降灰予報」で確認するのがオススメ。18時間先まで予想した降灰の量と範囲が「多量(1mm以上)」「やや多量(0.1~1mm)」「少量(0.1mm未満)」の3段階で表示されます。
さらに「降灰量階級表」では降灰量に応じた行動をガイド。「多量」ならば「運転を控える」、「やや多量」で「徐行運転を行う」など車の運転に関しても記されています。
(引用元:鹿児島市「桜島火山ハザードマップ」)
噴火のリスクがある火山を知る
火山噴火のリスクがある地域の自治体には「火山ハザードマップ」があります。これは、噴火による被害が予想される危険な場所や避難経路などを地図上に記したもの。多くのマップは「噴石は赤、火砕流と熱風は黄色」というように、予想範囲を被害の種類別に色分けしています。
火山の近くに住んでいる、または火山の近くに出かける場合は「火山ハザードマップ」をチェック。各自治体に問い合わせをしたり、防災科学技術研究所の「火山ハザードマップデータべース」で調べたりと、当該地区のリスクを事前に知っておきましょう。
火山噴火への備え
火砕流や溶岩流、噴石、火山ガスの発生などをともなう大規模な噴火の恐れがあるときは、危険なエリアに近づかないことが大前提です。
火山灰も「外出しないこと」が被害を防ぐ最も有効な手段ですが、万一に備えて準備しておくことも大切。被害を未然に防ぐ、あるいは軽減することができます。
閉じ込めに備えて防災用品を準備する
大量の火山灰が降ると信号の故障などによって交通がマヒし、何時間も車内から出られない可能性があります。あるいは車を置いて、避難しなければならなくなるケースもあり得るでしょう。万一に備え、車内に飲料水や携行食を備えておくと良いでしょう。
また、車に積もった火山灰を吹き飛ばすためのブロワー(送風機)、水で洗い流すための移動式高圧洗浄機もあると便利。運転時や作業時に火山灰から体を守る、防塵マスクとゴーグルも用意しておきましょう。
駐車時はボディカバーをつける
屋根の下に駐車するのが理想的ですが、それができない場合はボディカバーを被せましょう。降灰による被害を最小限に抑えられます。ボディカバーはズレないようバンドなどでしっかり固定。取り付け、取り外しはボディを擦らないように気をつけてください。
近くで火山が噴火したときの対応
火砕流や噴石は強力かつ到達スピードが速いため、被害を免れる方法は「逃げる」以外にありません。一方で火山灰については地域によって日常的に発生している現象であり、対策も立てられます。
火砕流の危険がある場所から避難する
噴火警報や噴火速報が発せられたら、ただちに危険区域から避難しましょう。火砕流は時速100km以上で迫ってくるため、目前まで迫ったら逃げ切れません。1991年に長崎県の雲仙・普賢岳で発生した火砕流では、避難勧告が発せられていた区域内にいた43名もの方が犠牲になりました。火砕流の温度は数百℃に達すると見られ、車や建物の中にいても被害を免れません。
溶岩流や噴石、火山ガスも同様です。場合によっては、車を置いて人間だけが危険区域外へと逃げる判断も必要です。
火山泥流の危険範囲から避難する
噴火時には、火山泥流の発生にも注意してください。火山堆積物が雨などの水分と混ざり、泥となって押し寄せる火山泥流は、火砕流や溶岩流より広範囲に被害をもたらします。火口から数十km離れた地域に到達することもあるのです。特に、ハザードマップなどで火山泥流の被害が想定される地域は要注意です。
当然、噴火警報や噴火速報が発せられたら、危険区域外へ速やかに退避。それが間に合わないときは頑丈な建物の2階以上へと避難してください。また、噴火に伴って地震や崖崩れ、道路の陥没などが発生する危険もあります。土砂災害が起きやすい地域には近づかないようにしましょう。
走行前に火山灰を洗い流す
フロントガラスに火山灰が積もっているときは、走行前にバケツやホースの水をたっぷりかけて洗い落とすこと。火山灰をそのままにワイパーを作動させると、ガラス面を傷付けてしまいます。ウオッシャー液も噴出するとワイパーが連動するので、注意が必要です。
衝突被害軽減装置など先進安全装備はカメラやレーダーなどに火山灰が積もり、正常に作動しない恐れがあります。さらに車の電子回路が誤作動を起こす可能性も。ボディ全体を入念に洗い流すなど、手入れを怠らないようにすること。走行中に車がおかしな挙動を示したら、安全な場所に一時停止するなど慎重に行動してください。
なお、ちり取りなどで集めた火山灰を下水道に流すのは厳禁。水分を含んで膨らみ、下水道を詰まらせてしまう可能性があります。ゴミ袋に入れて捨てるのが正しい処理です。分別方法については、自治体の指示に従ってください。
ヘッドライトを点灯して徐行する
降灰中に運転するときは他者からの視認性が悪くなるため、昼間でも積極的にヘッドライトをつけることが原則です。
さらに、道路が降灰で雪道のように滑りやすくなったり、排水溝が詰まって冠水したり、信号機が故障したりする可能性があります。危険に対処できるよう、すぐに止まれるスピードで走ることを心掛けてください。
マスクやゴーグルで人体の安全を確保する
火山灰の粒子は微細なため、外気導入口などから車内に侵入してくる恐れがあります。もし運転中に灰が目に入ってしまったら、とても危険です。万全を期すには、ゴーグルを着用して運転すること。
コンタクトレンズを着用している人は角膜剥離を引き起こす危険性があるので、メガネに取り代えてください。喘息など慢性的な肺疾患のある人は、防塵マスクを着用すると良いでしょう。
車が噴火による被害を受けたときの対処
車が噴火の影響を受けたときの対応方法は、被害の種類によって異なります。火山灰なら、事後の処理次第で故障するリスクを十分に下げることが可能。逆に火砕流や溶岩流、噴石に被災したら廃車になる確率は高いでしょう。
もし被害が少ないように見えても、火砕流や溶岩流の影響下にあった車は高熱で損傷している可能性があります。当該エリアの噴火警報が解除された後、整備工場などで検査するのが無難でしょう。
火山灰はブロワーをかけてから水洗いする
火山灰には「水を吸うと固まり導電する」という特性があります。そのため、火山灰がエンジンルーム内に入り込んだり、ボディに降り積もったりしたと想定し、まずはブロワーで吹き飛ばしてから水洗いしてください。
エアフィルターも取り外して裏側からブロワーで火山灰を吹き飛ばしましょう。エンジンオイルについても、JAFや防災科学技術研究所、自動車メーカーは早めの交換を推奨しています。
速やかに整備工場で点検してもらう
大量の降灰下で走行した場合は、念のため整備工場やディーラーで点検してもらうこと。もしブレーキ部品に火山灰が残っていたら、とても危険です。圧縮空気などで清掃してもらいましょう。
火山噴火による被害には自動車保険が適用されない
噴火にともなう火砕流や噴石、火山灰で車が損傷した場合は、残念ながら車両保険が適用されません。噴火は極めて巨大な損害を発生させる可能性があり、適切な保険料の設定が困難だからです。
しかし保険会社によっては、噴火により車が全損となった場合に限り、一時金を支払う特約を用意していることもあります。念のため、保険会社に確認してみるのも良いでしょう。
監修
河田恵昭(かわた よしあき)。京都大学名誉教授。関西大学社会安全研究センター長・特別任命教授。日本政府中央防災会議防災対策実行会議委員。人と防災未来センター長。日本における自然災害に関する第一人者であり、防災・減災・縮災の重要性を説いている
CREDIT
絵: | 岡村優太 |
写真: | 河田恵昭、Adobe Stock |
文: | 田端邦彦(ACT3) |
参考: | 気象庁 「火山」 熊本県「火山灰の降灰による健康への影響について」 JAF 「クルマ何でも質問箱 クルマの噴火(火山灰)対策とは?」 防災科学技術研究所「降灰への備え」 |