日産 サクラ▲自動車テクノロジーライターの松本英雄氏が、日産 サクラに試乗した際のレポートをお届けする

日産の新たな電気自動車をけん引する可能性を大いに感じたポテンシャル

日産の最新BEVである“アリア”の出来栄えは素晴らしかった。

そして今、日産として初の軽自動車BEV“サクラ”を目の前に、勢いを感じてならないと思うのである。

まず、日産と三菱自動車の関係についておさらいをしよう。日産は、三菱とアライアンスを組んでから、今までになかったものを三つ得た。

一つは三菱の軽自動車のノウハウ。二つ目にプレス技術。三つ目に四輪を自在に操る電動化の技術である。

日産がフルEV“リーフ”を発売し、国内の電気自動車をけん引したという事実がある。しかし、EVとして本当の真価を問われると、個人的には、それは完全な形ではなかったと思っている。

三菱自動車の電動化技術も投入して完成したシリーズ型ハイブリッド、ノート e-POWERとBEVのリーフで培われた電動制御が前回試乗したアリアを誕生させ、それらのアーキテクチャーを基に、今回のサクラが生まれたのだ。

世界で唯一の規格である軽自動車枠にそれらの技術をギュッと凝縮して作られたサクラはどうであろうか。楽しみだ。

随分と話がそれてしまった。では、ここからは追浜のGRANDRIVEにて走らせてみたのでお伝えしたい。

まず、言及したいのはエクステリアの質感だ。
 

日産 サクラ
日産 サクラ
日産 サクラ

このクラスにしては面が張っていて、小さくてもコストを感じさせるプレスラインが見当たらない。

ヘッドライトからテールライトに至るまで、デザインの破綻を生じない造形である。電動化ゆえに切り詰められる前後によって、キャビン中央部を大きく取っている。それによって感じる窮屈さも皆無だ。これは、長年三菱が軽自動車で蓄えたノウハウのたまものである。

ドアを開けたときのドアプレスも美しい。このクラスではルークス、ek、そしてこのサクラ以外は見たことのないクオリティだ。

500万円を超えるモデルでもこの処理の美しさに達していない国産メーカーも存在するから、細部に志を宿らせているのがよく分かる。インテリアの質感は、日産デザインの得意とするモダンさと都会的な雰囲気を融合させており、クリーンな印象だ。

日産 サクラ

この水平基調なクラスターは扱いやすさも兼ね備えている。そろそろスタートするとしよう。
 

日産 サクラ

モーターはノート4WDのリアに搭載されている動力で、車重とのパワーバランスが取れた発進加速だ。

驚くほど静粛性は高いと感じる。コーナーでも不安な要素がなく、このトレッドにしてはスタビリティが非常に高い。ツイスティーなS字カーブでも、乗員の身体の振れを抑えてくれるほどにハンドリングは素直で正確だ。

肝心な乗り心地も、重量がかさむバッテリーを搭載しているにもかかわらず、しなやかである。中高速域になった際には、リアからのロードノイズと路面からの巻き上げの音が気になるが、そういうシチュエーションを想定したモデルではないのであろう。

サクラは航続距離うんぬんよりも、このクオリティと補助金を加えた魅力的なプライスが重要だ。私の経験から、市街地を走りながら転々と場所を変えて走ったとしてもせいぜい80kmぐらいの移動なので、十分すぎる航続距離だと思う。帰宅して充電すれば、十分に日常で使用可能なポテンシャルである。

今の日産は開発陣営の勢いを感じずにいられない。開発、設計、デザインの三位一体となった今、迷いのないモデルを作っている。このサクラによって裾野を広くし、方向性の理解力を高めることができれば、ユーザーの広がりは大きくなると信じたい。
 

文/松本英雄、写真/尾形和美
松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。車に乗り込むと即座に車両のすべてを察知。その鋭い視点から、試乗会ではメーカー陣に多く意見を求められている。数々のメディアに寄稿する他、工業高校の自動車科で教鞭を執る。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。