【試乗】新型 BMWアルピナ B3/D3S|乗り心地が変わった!?アルピナの悩ましき選択肢
カテゴリー: BMWアルピナの試乗レポート
タグ: BMWアルピナ / セダン / ステーションワゴン / 4WD / B3 / B3ツーリング / D3 / D3ツーリング / EDGEが効いている / 西川淳
2023/06/08
“スポーツカー”なB3か? それとも“GTカー”なD3Sか?
「今、一番欲しい車は何ですか?」
「今最もオススメの車は何ですか?」と並んで車好きから多い質問だ。少し前までなら、即答でこうだった。
「今ならBMWアルピナ B3のセダン(リムジン)ですねぇ」
ところが、最新のB3に試乗して、最近その答えにためらいが生じている。なぜか。ベースとなる3シリーズ(G20型)のマイナーチェンジに伴ってアルピナ版も改良されたのだが、そのドライブフィールもまた、ディーゼルのD3Sも含めて、前期モデルとけっこう違っていたからだ。
前期型3シリーズ(G20型)をベースとしたB3リムジンのドライブフィールはあまりに衝撃的だった。一昨年の日本カー・オブ・ザ・イヤー選考会でも満点を投じたほどで、頑張れば購入できる(つまりロールス・ロイスを除いて)最高の実用車だった。
B3はBMW M製Sエンジンを積んだ初のアルピナだ。D3Sのディーゼルストレート6も素晴らしいエンジンで力強さでは互角、3シリーズとディーゼル6発の組み合わせはアルピナだけで、燃費性能の良さもロングツーリング派の筆者には捨てがたい。けれどもエンジンそのものの官能性ではS58型の方が圧倒的に上。さらに、あんなにデカくて薄いタイヤを履いているというのに、まるで滑空しているかのような乗り心地に驚愕した。
ロールス・ロイスが3シリーズを作ったらこうなる。それが前期型B3というモデルだった。アシのセッティングが違うのだろう、D3Sにはそこまで素晴らしい乗り心地はなかった。とにかくB3はアシのいいやつだったのだ。
そんなアルピナの3シリーズがマイナーチェンジし、デモカーの登録が終わったというので喜び勇んで乗ってみれば、前述した(前期モデルとドライブフィールがけっこう違うという)印象になってしまった。
想像するに、Sエンジン搭載に思いを強くしたユーザーが、もっとスポーティな乗り味を望んだのではなかったか。節の利いたメリハリのある動きと乗り心地の車に変身していたのだから。けれども滑らかに転がるような走りをみせた前期型のドライブフィールが好きな筆者にとっては硬派な乗り味に思える。コツコツと硬めの心地からは大きなホイールの存在が確実に感じられるし、タイヤの薄さもはっきりと実感する。どちらかというとMモデルに近い、スポーツカー的なテイストだ。
これはもう前期型を中古車で探すしかないじゃないか! でも、それじゃブッフローエ(アルピナ本社)へオーダーをかける楽しみがない。マーケットに自分好みのボディ色が流通しているとは限らないし。アルピナはすでにBMW AGによるブランド買収が決定している。今後は本家(BMW AG)に委ねられることになった。それはそれで楽しみなのだが、ブッフローエで開発・生産された最後のモデルを買っておきたいというのも車好きの人情というものだろう!
後期型B3リムジンに試乗したのち、こんどは後期型D3Sツーリングを試すこともできた。ご覧のとおりアルピナらしくない実に素敵なボディ色で、かなり筆者の好み。BMWインディビジュアルカラーに設定されたアーバングリーンという色だが、BMWでは日本仕様の選択肢にないらしい。そして乗ってみればなんと前期型より乗り心地が滑らかで、静粛性も向上しているように思えた。全体的には、以前よりずいぶん望ましいドライブフィールだ。これならディーゼル版もアリ、かもしれない……。
そう思いつつD3Sツーリングをもう少し長い距離で試してみると、やはり高速燃費は16km/L前後でB3に比べると3割くらいは伸びる。リッターあたりの燃料価格差を考えると長距離ドライブ派には無視できない経済性のよさだ。
後期型ならD3Sツーリングでも良いか。いやいや、やっぱりSエンジンの誘惑は断ち難い。待てよ、BMWが開発するなら今後もSエンジンを積む? 待て待て、ひょっとしてフル電動ブランドへと変わる可能性だってあるぞ……。
とっても悩ましい今日この頃……。マイナーチェンジでカタチ以外にこれほど好みを覆されたのは久しぶり。やっぱり車選びは愉快なのだった。
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
ライバルとなるBMW M3(現行型)の中古車市場は?
BMW M社が仕立てたサーキットでの本格的な走行を可能とした高性能なMハイパフォーマンスモデル。BMWアルピナがラグジュアリーなハイパフォーマンスGTモデルであるのに対し、こちらはサーキットでの走りを追求したスポーツカーとなる。現行型には、ベーシックな3シリーズには採用されていない、縦型の大型キドニーグリルが備わった。
2023年5月時点で中古車市場には30台程度が流通。平均価格は約1110万円で、車体価格が1000万円を切る物件は数台のみとなる。遅れて登場した4WDモデルも、5台程度と少数ながら流通している。