【試乗】新型 マクラーレン 750Sスパイダー|街乗りすら心地よい! サーキット以外でもドライバーを飽きさせない“スーパーカーの新境地”的モデル!
カテゴリー: マクラーレンの試乗レポート
2024/05/12
ドライバーを急かさない大人のスーパーカー
2シーターミッドシップスーパーカー“だけ”を生産する世界で唯一の量産ブランド(年産1000台以上)となったマクラーレン。中でもスーパーシリーズと呼ばれるV8ミッドシップモデルはブランドのビジネスコアであり、最新モデルの750Sで第2世代後期を迎えている。
彼らの量産ロードカービジネスにおける原点は2011年に誕生したMP4-12Cだ。第1世代のMP4-12Cはその後2014年に650Sへと進化。さらに2017年には第2世代の720Sが登場し、2023年夏、750Sへとマイナーチェンジを果たしている。
650S以降のマクラーレンでは車名の数字がそのままエンジンの最高出力を表している。720Sから750Sへは30psアップというわけだが、実はその間に高性能バージョン765LT(ロングテール)が存在する。750Sにはほとんど同じ性能のエンジンが積まれたと考えていい。要するに750Sはロードユースをメインに765LTをリファインしたモデルなのだ。事実、クローズドコースでは765LTに迫るパフォーマンスを実感できた。
マクラーレンの各モデルは従来からスパイダー化を考えて設計されており、強固なカーボンシャシーから小さなルーフパネルを外したところでボディの強さに何ら変化を感じることはない。街乗りでの心地よさは相変わらずスーパーカー離れしている。路面の状態が手にとるように分かるというのに嫌みがない。硬質だが角の取れたユニークな乗り心地を見せる。
ステアリングレシオが速くなり、トレッドも広がった。そのぶん前足の存在感が強くなって、やや重めながら動きはより鮮やかだ。動きに自然さが増している。微妙に足の硬さを緩めたからだ。結果的にはこれまで以上にキビキビとノーズの向きが変わるというのに、意のままが増して扱いやすい。
右足を軽く踏み込むだけでトルクが溢れ、軽量な車体を前へ前へと押し流す。反応鋭い初期加速は初代MP4-12Cから共通する魅力だけれど、750Sがこれまでのスーパーシリーズと比べ圧倒的に上回ったと思ったのはエグゾーストサウンドが耳に心地よいことだ。
高速クルージングの安定感も確かに向上した。エアロダイナミクスをさらに煮詰めたことはもちろん、足回りの改良に合わせてアクティブシャシーの制御もいっそうきめ細やかになったからだろう。定速でクルージングすれば本当に安心安楽なGTカーだ。
マクラーレンでの高速走行中の魅力といえば、やはり劇的な追い越し加速だろう。750Sもまたパシーンと鞭打たれたサラブレッドのような瞬発力と、どこまでも持続しそうで怖いくらいに力強いトルクフィールを味わうことができる。加えて、750Sではドライバーの腰とリアセクションとの一体感がいっそう綿密になった。ドライバーごとよどみなく瞬時に移動できるという感覚が常にあった。だから心地よいし、疲れない。カーボンシャシーのミッドシップパッケージならではのライドフィールである。
クローズドコースで大いに威力を発揮したブレーキ性能も、公道ではペダル半分程度の踏みで十二分に利き応えを感じ、それゆえコントロールもしやすい。プロ対応レベルの高性能を扱いやすく民主化して搭載する手腕という点でマクラーレンは今、最も先に進んでいるブランドのひとつである。
最も感動したのは、だらだらとした流れの中にあっても750Sは恐ろしく従順で、しかもドライバーの気持ちを穏やかに保つことができるという点だ。イタリアンブランドとは違って妙にドライバーを急かさない。流れの悪さによるいら立ちさえ抑えてくれる。とにかく車との一体感を超えた“同志感”があった。ある意味それは高級車を作り続けてきた英国ブランドの特徴で、つまりは大人のスーパーカーである。
もちろん、750Sのパフォーマンス的な真骨頂はというと、例えスパイダーであっても、サーキットなどでのスポーツ走行にある。けれども日常的にそんなことを味わうことはできない。アクセルもブレーキも日常生活の移動においてはせいぜい“5分の1”の性能レベルで事足りてしまう。けれども750Sは、否、マクラーレンのスーパーカーはそんなときでも実にフレンドリーで穏やかに振る舞い、それでいてドライバーを飽きさせない。
マクラーレンはスーパーカーの新たな楽しみ方を提案し続けているのだった。
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
先代となるマクラーレン 720Sスパイダーの中古車市場は?
マクラーレンの中核モデルとなるスーパーシリーズの第2世代モデル。P1で初採用された一体型カーボンモノコック(モノケージⅡ)を採用。V8ターボエンジンはパーツの41%を変更し3.8Lから4Lへと変更されるなど、先代の650Sから大幅な進化を遂げている。スパイダーはクーペより約2年遅れて2019年に日本導入。11秒で開閉可能なリトラクタブルハードルーフを備えている。クーペ同様、上級仕様のパフォーマンスとラグジュアリーが設定された。
2024年5月上旬時点で、中古車市場には20台弱が流通。価格帯は3300万~3900万円となっている。一方のクーペは35台ほどが流通、価格帯は2400万~3600万円となる。ラグジュアリーが半数程度を占めており、ベーシックモデルとパフォーマンスが同数程度というシェアとなっている。