【海外試乗】新型 ロータス エメヤ|圧巻のリニアな加速フィールで街中でも心地よい電動ハイパーGT!
カテゴリー: ロータスの試乗レポート
2024/08/09
創始者の夢を実現した電動グランドツアラー
リアミッドシップのエミーラを最後に内燃機関は諦め、フル電動ブランドとして再出発するロータス。まずはエレトレという電動SUVを導入し、日本の車好きを驚かせた。
なるほど、ロータスとは思えないボディサイズとすさまじいパフォーマンスからは、電動化を機にラグジュアリーブランドへと脱皮したいという思惑が露骨にうかがえる。もちろん、北米や中国といった巨大市場も意識したことだろう。“ブランド知名度の低い市場”では今どきSUVスタイルは譲れないコンセプトでもあった。
とはいえ、日本の昔からのロータスファンにはあまりに唐突だった。エレトレに続く4ドアクーペのエメヤにしたところで同じかもしれない。少なくとも価格帯は……。
けれども歴史的にみてロータスは高性能サルーンには縁があった。少なくともSUVよりずっと深い縁だ。実をいうと創始者コーリン・チャップマンは4ドアロータスを欲したことがあった。彼は社用車のメルセデス・ベンツ 450SEL 6.9に幹部連中を乗せて“車内会議”しつつ、時速130km/hで新工場へと日々走っていたらしい。それゆえそういう使い方に適したロータスを計画したのだ。
1980年代初め、コーリンは元ピニンファリーナのパオロ・マルティンにコンセプトモデルのデザインを発注する。ロータス 2000エミネンスだ。残念ながらエミネンスプロジェクト自体は経営不振とコーリンの死去によりスケールモデルの段階でストップしてしまう。
その後、1990年代になってオペルベースの高性能なセダン、ロータス オメガが登場。BMW M5やメルセデス・ベンツ E500の好敵手となって、コーリンの夢を一部実現した。
創始者の果たせぬ夢を電動ハイパーGTとして完全に実現する。それがエメヤというわけだ。
メカニズムは基本的にエレトレと共有する。けれども、背の低いクーペプロポーションとスポーツセダンらしい性能を実現すべく、バッテリーセルの形状そのものを変えている。
グレード構成もエレトレと同じ。最高出力約612ps(450kW)/最大トルク710N・mを誇るスタンダードのエメヤ、パワースペックは同じで装備充実のエメヤ S、そして高性能なモーターとアクティブダンピングシステムを備え最高出力約918ps(675kW)/最大トルク985N・mまで高出力化したエメヤ Rという3グレード仕立て。床下に配された800Vシステム・リチウムイオンバッテリーの容量は102kWhで3グレードに共通だ。
試乗会にはオプションの22インチホイール+ミシュランパイロットスポーツEVを履くSと、これまたオプションの21インチピレリPゼロRを履くRが用意されていた。いずれの個体もイメージカラーのソラーイエローをまとう。
試乗会はドイツ・ミュンヘンからオーストリアの山岳地帯を走るというルートで行われた。ドイツ国内は主に速度無制限のアウトバーンで、オーストリアに入ってからはカントリーロードから本格的な山岳路、街乗りまで、と様々な条件下でSとRを試した結果、完成度が高いと思ったのはSの方だった。
Rがダメかというとそうではない。ダッシュはただただすさまじい。アウトバーンでは最高速もきっちり(メーター読みで)250km/hに達した。どのドライブモードであっても、アクティブダンピングシステムの恩恵で街中の乗り心地も優れている。けれどもリアモーターの出力がより高く、2速ということもあって、有り余るパワー&トルクの制御に不安を感じることがあった。特に前輪の落ち着かなさが気になった。なるほどその方がいかにもロータスらしくスリリングなのだが、街乗りと高速道路がメインユースという向きにはSの方が安心して扱える。
それほどエメヤ S(そしてエメヤもおそらく)の走りはRに比べて違っていた。街中の乗り心地から加速や高速走行時の安定感まで全域にわたって上等だと思った。圧巻は230km/hあたりに達するまでのリニアで安心感のある加速フィール。モードをスポーツにしておけば街中の乗り心地も引き締まって心地よい。また4つのライダー(LiDAR)と18のレーダー、大小12個のカメラによるADASも優秀だ。
エメヤを試すならS。マーケティング担当によれば、Sがやっぱり売れセンらしい。
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。