【海外試乗】新型 アストンマーティン ヴァンテージ|とことん走りに没頭できる、全方位で進化を果たしたFRリアルスポーツ!
カテゴリー: アストンマーティンの試乗レポート
2024/06/12
数値より“ドライビングパフォーマンス”を重視
デビューは2017年11月だから、気づけばすでに6年以上。アストンマーティン ヴァンテージが大幅な進化を遂げて登場した。試乗の舞台はスペイン・セビリア。実感したのは、今回のパフォーマンスの向上ぶりが半端じゃないということだ。
何しろその心臓、4L V型8気筒ツインターボエンジンは、カムプロファイルの変更、大型ターボチャージャーの採用など様々な変更によって、最高出力665ps、最大トルク800N・mを獲得している。従来モデルに比べて実に155ps、115N・mもの増強である。
結果的に0→100km/h加速は3.5秒、最高速度は325km/hと向上している。しかしながら、開発に際してはそうした数値よりも、あくまでドライビングパフォーマンスを重視したという。それを表しているのがキャッチコピーである「ENGINEERED FOR REAL DRIVERS」。直訳すれば「真のドライバーのために開発された」である。
8速ATは変速スピードが速められ、最終減速比を従来より低く設定。つまり最高速ではなく加速、レスポンス重視の設定とされた。
そして車体は、フロントボディクロスメンバー、エンジンクロスブレース、前後アンダートレイなどを見直して、特にサスペンションの取り付け剛性を高めている。サスペンションも6軸のセンサー、新しい電子制御ダンパーやスプリング、アンチロールバー、ブッシュ類の採用、E-デフやESPの制御も完全に改められているという具合である。とにかく全域、手が入れられていないところは皆無と言っていい。
内外装についても同様である。特にフロント部分は、新デザインのヘッドライト、拡大されたグリル、30mmワイドになったフェンダーなどによって、印象ががぜんワイルドに。これらは単なる意匠ではなく、熱対策やタイヤサイズ拡大に対応する機能優先の変更だ。
大型タッチスクリーンを使ったインテリアも洗練度を高めている。これは内外装ともに言えることだが、デザイン面だけでなく品質感においても、従来より確実にレベルが上がっているように感じられた。
一般道のドライブでも進化のほどは明らかだった。ボディは剛性感にあふれ、ステアリングも中立付近の据わりが非常にしっかりしている。そしてステアリングを切れば即座にレスポンスして、意のままのラインを容易にトレースできる。
決して過敏なわけではない。リアがしっかり落ち着いているからこそ、ここまでステアリングをダイレクトにできたのだろう。
全域でアクセル操作に忠実に反応するエンジンと、ダイレクトな締結感のATのマッチングも上々。もちろんパドルを引いてマニュアル変速させるのもいい。軽いショックをいとわない瞬時のシフトは快感だ。
そして午後にはサーキットへ。パワフルかつレスポンシブなエンジン、切れ味の良いターンインといった基本的な印象は同様ながら、限界付近の走行では電子制御の躾の良さにも感心させられることとなった。
面白かったのが、新採用のATC(アジャスタブル・トラクション・コントロール)。これはESPのヨー制御をキャンセルし、トラクションコントロールを8段調整可能とするものだ。電子制御の介入を減らし、大パワーを生かして積極的にリアを滑らせながらの走行に挑んでいると、時に冷や汗をかくような瞬間も訪れるが、そんな時にはすかさず最小限だけ手を差し伸べてくれる。これは楽しい。
実は今回の試乗、開発陣は電子制御の設定を完全にこちらに任せてくれた。大抵はESPをオフにしないようにと言われるのだが……。それはプロダクトに相当自信があったからに違いない。
もうひとつ、大いに感心させられたのが耐久性である。ほぼ1時間に及んだサーキット走行は、そんな具合でずっと全開。それどころか車両自体は、他国のジャーナリストが代わる代わる1日中走らせていたにも関わらず、最後までエンジンもブレーキも音を上げなかったのだ。これも大いに賞賛すべきだろう。
近年はGT3やGT4カテゴリーでのレース活動や、F1ペースカーへの採用などによって、一層スポーツ性をアピールする存在となっているアストンマーティン ヴァンテージ。真のドライバーのために開発されたというコピーに偽りはなく、打ち出されたそのイメージのとおり、とことん走りに没頭できる1台に仕上がっていたのである。
アストンマーティン ヴァンテージの中古車市場は?
DBシリーズよりコンパクトな、ブランドの中核モデルとなる2シーターFRスポーツ。メルセデスAMG製エンジンを独自にチューンした4L V8ツインターボエンジンをフロントミッドに搭載する。ZF製8速ATをトランスアクスルレイアウトとし、前後重量配分を最適化している。電子制御式リアデフもブランド初採用。
2024年6月前半時点で中古車市場には35台ほどが流通。価格帯は1100万~6300万円と幅広い。2020年に追加設定されたMT仕様や、2022年に登場したV12ツインターボを搭載した限定モデルも数台が流通している。新型は2024年第2四半期からのデリバリーとのことなので、手に入るのはしばらく先。マイナーチェンジ前のモデルでアストンマーティンのリアルスポーツを体感しておくというのはいかがだろうか。