フェラーリ 296GTS▲V6ツインターボを搭載したPHEVを採用する、2シーターミッドシップモデルのオープンバージョン。オープン化による重量増を最小限に抑え、クーペとほぼ同等のパフォーマンスを有している

フェラーリの新たな主力は“V6ツインターボ×モーター”

GTB(ベルリネッタ)からのGTS(スパイダー)追加という流れはフェラーリのみならずスーパーカー界のもはや定番戦略だ。「売れる」オープンモデルを作らない手はない、というわけで多くのスーパーカーは開発時からオープンモデルの設定を想定している。カスタマーもそのことをよく知っていて、オプションもほどほどにできるだけ早くクーペモデルを手に入れたあとに、凝った仕様の屋根開きモデルをスペシャルオーダーして、気長にクーペを楽しみながらオープンモデルの納車を待つ、という猛者も少なくない。ニューモデルへの需要はどこのブランドでも高く、フェラーリは特に極端な売り手市場のため、そういう離れ業が可能というわけだ。

マラネッロの新たな主力モデルとなった296シリーズ。新開発V6エンジンと電気モーターを組み合わせたPHEVのミッドシップ2シーターモデルで、“ピッコロ12シリンダー”と開発陣が愛称で呼ぶV6エンジンの高い性能と官能、そしてグラマラスなスーパーカースタイルで人気を博している。GTSは、これまでのV8ミッドシップモデルと同様に電動格納式のリトラクタブルハードトップを備えたオープンモデルで、ルーフを含むリアセクションのデザインはクーペのGTBに比べて大きく変えられた。中でもエンジンが透けて見えるカバーやトンネルバック風のデザインによって、296独特のクラシックグラマーなリアフェンダーがより強調されたことがスーパーカー好きを喜ばせた。

軽量ルーフトップはおよそ14秒で開閉可能で、時速45km/h以下であれば走行中の操作も可能、というのは小型リトラクタブル式ハードトップのメリットだ。その他、基本的なメカやスペックはクーペに準じる。すなわち、663psの3L V6ツインターボエンジンに167psの電気モーターを加え、システムスペックとして最高出力830ps、最大トルク740N・mを実現する。オープンシステムの追加に各種補強(A/Bピラーやサイドシル)もあって重量増(+70kg)とはなっているものの、そもそも高いパフォーマンスを誇る296だからその影響は最小限だ。事実、0→100km/h加速(2.9秒)など体感的に重要なスペックはGTBと同値とした。7.45kWhのリチイオンバッテリーを積み、満充電時の電動航続距離は25km、135km/hの速度域までBEVとして走る、というあたりもGTBと変わらない。
 

フェラーリ 296GTS▲パフォーマンスを最大限に高めるというアセット フィオラノ パッケージ装着車(写真)。内外装の軽量パーツに加え、サーキット走行に最適化されたアジャスタブル・マルチマチック・ショックアブソーバーなどを備える

試乗車には人気パッケージオプションである“アセット フィオラノ”が奢られていた。サーキット走行をたしなむ走り屋オーナー向けのパッケージだけれど、バイカラー仕立てが欲しくて選ぶというカスタマーも少なくないようだ。1960年代の美しき時代をほうふつとさせる296だけに、ヒストリックなレーシングリバリーがよく似合う。

専用デザインのシート(ディアパソンスタイル)に、ふた付きセンターコンソールなどインテリアもGTBとは少し違っている。とはいえ、座って前を向いてしまえば見慣れた296だ。ステアリング上の操作方法などを思い出しつつ走りはじめた。

満充電に近い状態で出発すると、電動で走行可能な距離は20km程度という表示。それでも閑静な住宅街や早朝の街中を静かに走り抜けるには十分なEV航続距離で、最寄りの高速道路インターまで周囲に気を使うことなくドライブできる点が何よりも嬉しい。途中の信号待ちでルーフを開けてみると、真夏の朝だったからかセミの鳴き声がいきなりシャワーのように室内へと降り注いできて驚いた。

ルーフを開ける前から気づいていたけれど、以前試乗したスタンダードのGTBに比べて少しゴツゴツとした乗り心地だ。これはサーキットに最適なダンピングで固定されたアセット フィオラノの足によるもので、スタンダード同士の比較であればGTSの方がよりマイルド。488やF8のときもそうだったし、実際に296GTSを短時間だけ試乗した経験からもそれは確実だ。普段乗りに使うならスタンダード仕様がオススメである、スパイダーは特に。

オープン状態でもV6サウンドが心地よく耳に響く。クーペ状態ではかなり抑制されるが、それでも“聴いていたい”サウンドの類だ。トンネルの中でリアのウインドディフレクターだけを下げて背後のエンジンサウンドを楽しむ、なんて芸当もGTSならでは。

長距離ドライブはWETモードで超安定のクルージングを楽しむことができた。高いギアで固定しておいても加速で流れを十分にリードできる。PHEV化による重量増も感じないし、ショートホイールベース化によるトリッキーさも皆無だった。
 

フェラーリ 296GTS▲フルデジタルインターフェイスを採用。インテリアはセンターコンソールのデザインなどを変えることで296GTBと差別化が図られている
フェラーリ 296GTS ▲専用デザインのシートを装着。ガラス製ウインドディフレクターは電動で高さ調節ができる

もちろん296GTSの真骨頂はワインディングロードだ。オープンにして最新のマラネッロ製スーパーカーを堪能する。サーキットでは多少感じてしまう重量増感も、ワインディングロードレベルではかえって重心位置が分かりやすく感じられる。そのため扱いやすさはV8ミッドシップとは比べ物にならないくらいによく、モーターの助けを借りたここ一発の加速フィールと相まって、進化したスポーツカーを駆っているという満足感に浸ることができた。

攻め込んでいるときのアセット フィオラノは確かに素晴らしいものだったけれど、それでも山を下りた瞬間にノーマルの足が恋しくなってしまう。ちなみに、アセット フィオラノにフロントリフターはない(固定ダンパーだから当然だ)。それで困ったかというと、実はそうでもなかった。見た目にもノーマルより少し車高が高いように感じられた。
 

フェラーリ 296GTS▲リトラクタブル・ハードトップを採用。ルーフは2分割されエンジン前方に格納される
フェラーリ 296GTS▲クローズ時には296GTBとほぼ同様のスタイリングながら、オープン時には流線型でよりスポーティに仕立てられている
フェラーリ 296GTS▲V6エンジンが見えるようにガラスハッチを採用。2分割されたルーフはエンジン前方に収納される
フェラーリ 296GTS▲こちらはスタンダード仕様。アセット フィオラノ パッケージ装着車とはフロントバンパーの形状などが異なる
文/西川淳 写真/タナカヒデヒロ、フェラーリ・ジャパン

自動車評論家

西川淳

大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。

クーペモデルのフェラーリ 296GTBの中古車市場は?

フェラーリ 296GTB

クーペ版となる296GTBは、フェラーリにとって販売の主力となる2シーターV8ミッドシップの後継モデルとして2021年に登場。基本性能はオープンの296GTSと同等だが、フィオラノ(フェラーリのテストコース)のラップタイムはGTBの方が0.8秒速い1分21秒となる。

2023年8月後半時点で、中古車市場に流通しているのはわずか数台のみだが、新車では納車に1年以上かかることがあるので、以降中古車に気に入った仕様が出てくるようであれば検討してみてはいかがだろうか。
 

▼検索条件

フェラーリ 296GTB× 全国
文/編集部、写真/フェラーリ・ジャパン

【試乗車 諸元・スペック表】
●アセット フィオラノ パッケージ F1 DCT

型式 7LA-171K 最小回転半径 -m
駆動方式 MR 全長×全幅×全高 4.57m×1.96m×1.19m
ドア数 2 ホイールベース 2.6m
ミッション 8AT 前トレッド/後トレッド 1.67m/1.63m
AI-SHIFT - 室内(全長×全幅×全高) -m×-m×-m
4WS - 車両重量 1540kg
シート列数 1 最大積載量 -kg
乗車定員 2名 車両総重量 -kg
ミッション位置 コラム 最低地上高 -m
マニュアルモード
標準色

ジアッロモデナ、ロッソスクーデリア、ロッソコルサ、ロッソムジェロ、ビアンコアヴス、ネロ、ブルーポッジ

オプション色

ビアンコセルヴィノ、ロッソフェラーリ F1-75、グリジオアロイ、アルジェントニュルブルクリンク、グリジオチタニオ、グリジオシルバーストーン、ネロデイトナ、ブルーツールドフランス、ロッソディーノ、カンナ ディ フチーレ、ヴェルデブリティッシュ、ブルースコツィア

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※諸元・装備情報は一部本国仕様の情報を掲載しております

型式 7LA-171K
駆動方式 MR
ドア数 2
ミッション 8AT
AI-SHIFT -
4WS -
標準色 ジアッロモデナ、ロッソスクーデリア、ロッソコルサ、ロッソムジェロ、ビアンコアヴス、ネロ、ブルーポッジ
オプション色 ビアンコセルヴィノ、ロッソフェラーリ F1-75、グリジオアロイ、アルジェントニュルブルクリンク、グリジオチタニオ、グリジオシルバーストーン、ネロデイトナ、ブルーツールドフランス、ロッソディーノ、カンナ ディ フチーレ、ヴェルデブリティッシュ、ブルースコツィア
シート列数 1
乗車定員 2名
ミッション
位置
コラム
マニュアル
モード
最小回転半径 -m
全長×全幅×
全高
4.57m×1.96m×1.19m
ホイール
ベース
2.6m
前トレッド/
後トレッド
1.67m/1.63m
室内(全長×全幅×全高) -m×-m×-m
車両重量 1540kg
最大積載量 -kg
車両総重量 -kg
最低地上高 -m
掲載用コメント ※諸元・装備情報は一部本国仕様の情報を掲載しております
エンジン型式 - 環境対策エンジン -
種類 V型6気筒DOHC 使用燃料 ハイオク
過給器 ターボ 燃料タンク容量 65リットル
可変気筒装置 - 燃費(10.15モード) -km/L
総排気量 2992cc 燃費(WLTCモード) -
燃費基準達成 -
最高出力 633ps 最大トルク/回転数
n・m(kg・m)/rpm
-/-
エンジン型式 -
種類 V型6気筒DOHC
過給器 ターボ
可変気筒装置 -
総排気量 2992cc
最高出力 633ps
最大トルク/
回転数n・m(kg・m)/rpm
-/-
環境対策エンジン -
使用燃料 ハイオク
燃料タンク容量 65リットル
燃費(10.15モード) -km/L
燃費(WLTCモード) -km/L
燃費基準達成 -