【試乗】新型BEV「アバルト 500e」を本場イタリアで体験! 痛快な“サソリの毒”に刺されてきました!
2023/06/23
ベースは大好きなフィアット 500e
2020年、フィアット初のBEVとして、“イタリアの国民車”と名高いフィアット 500e(チンクエチェントイー)を発表しました。私もその様子をオンラインで見ていましたが、レオナルド・ディカプリオ氏が出演していたのが印象的だったのを覚えています。そのときの感想は、「やっぱりかわいい! でも、電気か……」と、時代の流れとして当然なことでもあるのですが、BEVになったことにちょっと複雑な心境だったのも確か。
それから2年後、日本でもフィアット 500eが発表され、私はそのエクステリアのキュートさに一目ぼれ。残念ながら、我が家はまだBEVを購入できる環境ではないので購入には至っておりませんが、去年の「2022-2023日本・カー・オブ・ザ・イヤー」のデザイン部門にはこの車を推したいくらい、ルックスが気に入っています。
一番のお気に入りポイントは、なんといってもフロントマスク。特にライト部分はまさに“目”のような形をしています。ボンネット部分がまぶたのように見えて表情を豊かにしているのですが、それがNHK総合テレビジョンで放送されているバラエティ番組「チコちゃんに叱られる!」のメインキャラクター・チコちゃんの目にそっくり! ちょっとシュールでキュートな彼女のようで、これまた心を引かれるんです。
今回の試乗会で見てきたのは、そんなフィアット 500eをベースにしたアバルト 500e(チンクエチェントイー)。日本では2023年秋の発表とのことなので、一足お先にイタリアでその姿を拝んできました! なんと、日本からの参加者はたったの2名のみ。貴重な機会をいただき、感謝です!
ちなみにアバルトとは、1949年にカルロ・アバルトによって設立されたチューニングメーカーで、1971年にフィアット傘下に。現在でもフィアットの車をベースにしたチューニングモデルを提供しています。トレードマークのサソリを配したアバルトの車は日本でも人気が高く、販売台数はイタリアに次ぐ世界第2位。昨今ではアバルトを愛してやまない女性ファン“スコーピオンナ”も急増しているそうです。
BEVならではのデザインと臨場感のある走行音
期待を胸に訪れたイタリアで、ついにアバルト 500eとご対面。アイコンである目の上部が黒くなり、さらに目ヂカラアップ。その下のランプもえくぼのようでかわいい!
フィアット 500eのフロントバッジは「500」でしたが、アバルト 500eではブランドネームの「ABARTH」の文字を採用。その上には、アバルトのブランドロゴであるサソリのエンブレムが鎮座。また、サイドボディやホイールにあしらわれたサソリのロゴは“電気”を連想させる新たな装いで、電動化を前面に打ち出したデザインとなっています。
ちなみに、フィアット 500eとの見た目の違いは、バンパーやサイドスカート、ホイール、ステアリングホイール、シートなどが顕著。
ボディサイズはフィアット 500eに比べて41mm大きくなり、全高は9mm低くなっています。フロントオーバーハングが42㎜大きく、リアのオーバーハングは1mm小さくなり、ホイルベースが長くなったことで走行時の安定性が向上。車両重量は45kg重くなっています。
バッテリーの蓄電容量は42kWhで、強化されたモーターの最大出力は155hp。バッテリー自体はフィアット 500eと同じですが、モーターの制御が違い、特にスターティングポイントを変えたのだとか。開発陣に話を聞いたところ、数値は公表できないもののダンパーの減衰やスプリング、スタビライザーなども変更を加えているとのこと。最大85kWの急速充電に対応し、約35分で80%の充電が可能となっています。
アバルト 500eにはベースグレードとトップグレードの500e TURISMO(チンクエチェントイー・ツーリズモ)があり、ボディタイプはハッチバック(HB)とカブリオレ(CB)の2つ。今回の試乗車はすべてツーリズモで、私が乗ったのはCBタイプでした。
そして、今回の大きな特徴は“音”。本来、BEVはモーター音が聞こえるだけですが、ガソリンエンジンを搭載するアバルト 695のエグゾースト音を忠実に再現する「アバルト・サウンド・ジェネレーター」が搭載されています。これが魔法のスイッチになって、気分を盛り上げてくれるんです。
いざ、試乗へ
試乗会場は、ミラノから約70kmの場所にあるステランティスのテストコース「バロッコ・ブルービング・グラウンド」。元々はアルファロメオのテストコースだったのが、現在は同じステランティス傘下であるフィアットをはじめフェラーリ、ランチア、マセラティなどのイタリアブランドがここでテストを行っています。
本命のアバルト 500eを試乗する前に白のアバルト 695で同じコースを2周、そのあとアバルト500eで3周することに。コースは加速、直線安定性、直線の荒れた路面、コーナー、機敏性やレスポンスの良さを体験できるようになっていました。
アバルト 695はMTですがトルクがあり、シフトチェンジのタイミングに200回転ぐらい自動で上がるので、シフトチェンジがしやすく、なにより運転が楽しい。
そして、いよいよアバルト 500e。ドライブモードはツーリズモ、スコーピオンストリート、スコーピオントラックの3つありますが、まずは最もアバルトらしい(?)スコーピオントラックモードを選択。サウンド・ジェネレーターを設定しているので、停車中でもアイドリング時のように野太いエグゾースト音が響き渡ります。
そしてアクセルを踏むとスタートからピューッと加速! 速い速い! 前の組の人がスタート時にホイールスピンをしていましたが……なるほど、そうなるわけね。
気になっていたエグゾースト音は確かにアバルト 695と同じで、スピードに合わせて音の調整がされるので、人工音なのに違和感はありません。そして、意外にもBEVなのにステアリングもアクセル、ブレーキが重めでしっかり手足に車からのフィードバックがあります。「スコーピオントラックモード」から「スコーピオンストリートモード」にするとパフォーマンスを保ちながら回生ブレーキが利き、ワンペダル感覚でブレーキを踏まずとも車をコントロールできるように。
なにより楽しいのはコーナーの立ち上がりからのアクセル全開。このときの加速感は、アバルト 695以上! このワンペダルドライブはスコーピオンストリートモードとツーリスモモードにのみに設定されていますが、他のBEVに乗ったことがある人であれば違和感なく受け入れられると思います。
そのあとの公道試乗では、ツーリスモモードとスコーピオンストリートモード中心にバロックのテストコース周辺をドライブしてみましたが、うっかりサウンドジェネレーターをオンのまま走ったら静かな町に轟音が響き渡ってしまいました。このオン/オフは停車したときにしか変更できないため、これはちょっと面倒に感じることがあるかも。
ツーリスモモードのときは加速も穏やかになるので、時々スコーピオンストリートモードでピリリと“サソリの毒”をエッセンスとして楽しんでみると良さそうです。
“毒”といえば、実はカラーネームも特徴的。私はアシッドグリーンというカラーに試乗しましたが、新色の“ポイズンブルー”もなかなかいい色でした。
日本には2023年秋ごろ上陸予定ですが、7月に公開を控えているスパイアクション超大作映画「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」にアバルト 500eが出演しているそうなので、待ちきれない方は劇場で一足先にその姿を拝むことができそうですよ!
カーライフ・エッセイスト
吉田由美
短大時代からモデルを始め、国産メーカーのセーフティドライビングのインストラクターを経て「カーライフ・エッセイスト」に転身。車回りのエトセトラについて独自の視点で、自動車雑誌を中心にTV、ラジオ、WEB、イベントなどで広く活動中。様々な車を紹介するYouTube「吉田由美ちゃんねる」も好評配信中!