ポルシェ カイエン ターボ E-ハイブリッドクーペ  GTパッケージ▲マイナーチェンジで大幅な改良を受けたポルシェのベストセラーSUV。新型は3種類のPHEVモデルを設定、そのフラッグシップとなるのが、4L V8ツインターボを積むカイエン ターボ E-ハイブリッド。クーペには、トップパフォーマンスモデルのGTパッケージ(写真)が設定された

“カイエン史上最もパワフル”なPHEV

近年、ポルシェのベストセラーモデルといえば、カイエンだ。2002年に初代が登場して以来、総販売台数は125万台以上に上る。

2022年のポルシェのグローバル販売台数は約31万台。そのうちカイエンが9万5604台で1位、マカンが8万6724台で2位に続く。要は半数以上をSUVが占めている。ポルシェが導き出したSUVでしっかりと稼いで、911や718といったスポーツカーを持続可能なものとするビジネス戦略は、いまではスーパーカーメーカーやラグジュアリーカーメーカーにとっても常套手段となった。

2023年4月の上海モーターショーで、新型カイエンが発表された。新型はいわゆるマイナーチェンジ版であるものの“ポルシェ史上、最大級の広範な製品アップグレード”とうたわれるだけあって、変更点は多岐にわたる。

エクステリアでは、ヘッドライトの形状が変更された。目頭のあたりに注目すると先代では丸みがあるが、新型はとがったエッジの効いたデザインになっていることがわかる。新型はマトリクスLEDヘッドライトが標準装備となり、新たに各ヘッドランプあたり3万2000以上の画素をもち、ハイビームを制御する「HDマトリクスLEDヘッドライト」がオプション設定される。

ヘッドライトの変更に合わせてボンネットが立体的なデザインに、バンパーの開口部もより大きくスクエアな印象になった。リア部分では、先代では横一文字のリアコンビネーションランプの中央部分がくぼんでいたが、新型では1本の力強いラインに見えるようなデザインになっている。あえて新旧をわかりやすく差別化しないのもポルシェ流だ。

インテリアは全面刷新といえるほど大幅に変更された。電気自動車「タイカン」の要素を取り入れたもので、メータパネルは、完全にデジタル化されたフリースタンディングデザインの12.6インチ曲面ディスプレイを採用。小さなノブ型のオートマチックギアセレクターは、センターコンソールからステアリングホイールの隣に移設されている。

モデルバリエーションは、3L V6のベースモデルとなる「カイエン」をはじめとし、それをベースとしたPHEV(プラグインハイブリッド)の「カイエン E-ハイブリッド」、そして、4L V8ツインターボエンジンを搭載する「カイエン S」が先に導入されていた。ちなみに、ボディタイプもSUV(標準)とクーペの2種類がある。

そして、今回スペインで行われた国際試乗会に用意されたのは、「カイエン S E-ハイブリッド」とフラッグシップの「カイエン ターボ E-ハイブリッド」の2種類のPHEVだった。ポルシェでは先の「カイエン E-ハイブリッド」と合わせて3種類のPHEVモデルを設定したことになる。それらを総称して「カイエン E-Performance」と呼んでいた。
 

ポルシェ カイエン ターボ E-ハイブリッド▲ターボモデルのフロントマスクは、ブラックのエアブレードなどを備えた専用デザインとなる。写真はカイエン ターボ E-ハイブリッド
ポルシェ カイエン ターボ E-ハイブリッドクーペ▲S E-ハイブリッドとターボ E-ハイブリッドともにクーペモデルも設定される。写真はカイエン ターボ E-ハイブリッドクーペ

今回の試乗会のメインとして用意されたのが、「カイエン ターボ E-ハイブリッド」だ。車名に“ターボ”とあるようにフラッグシップモデルという位置づけとなる。最高出力599ps/最大トルク800N・mの4L V8ツインターボエンジンに、最高出力130kW(176ps)/最大トルク460N・mのモーターを組み合わせ、パワーユニットの合計出力は“カイエン史上最高”の739ps、最大トルクは950N・m。0→100km/h加速3.7秒、最高速度は295km/hに達する。さらに、バッテリー容量を先代の17.9kWhから25.9kWhに増大したことで、電気のみによる航続距離は最長82km(WLTPモード)を実現する。

バルセロナ市街地のホテルでカイエン ターボ E-ハイブリッドの鍵を受け取る。車に乗り込み、ドアを閉めるといかにもボディ剛性の高そうな音がする。デジタルメーターをのぞきこむと、フル充電状態ではなかったため、メーター内には電動走行可能距離は66kmと表示されていた。まず電動走行モードであるE-POWERで走りだす。朝のバルセロナ市街地は通勤ラッシュで大渋滞している。そうした中で排気音も排気ガスも出さないのは、精神衛生上いいものだ。市街地をくぐり抜けて、高速道路に入る。スペインの高速道路は片道2車線または3車線で、制限速度は大半が100km/h、速い区間でも120km/hと日本とよく似た設定。ターボ E-ハイブリッドは約130km/hまでは電動走行可能なためエンジンが始動することはない。

しばらく高速道路を走行したのちナビゲーションにしたがって山間のワインディングロードに入った。2.5トンという車重を感じさせない軽快なハンドリングでタイトなコーナーをクリアしながら、スタート後59kmを走行した時点でエンジンが始動した。市街地、高速、ワインディングの3ステージを、メーター表示のほぼ掛け値なしに走行できたことを鑑みれば、通勤や買物など日常生活を電気自動車としてカバーすることも可能だろう。エンジンの動力を使ってバッテリーを充電するE-CHARGEモードもあるので高速道路を走行中に充電をして、市街地では電動走行するといった使い方もできる。
 

ポルシェ カイエン ターボ E-ハイブリッドクーペ GTパッケージ▲GTパッケージは車高を10mm低く設定、シャシーとコントロールシステムには専用チューンが施される

ナビゲーションの目的地は、バルセロナ郊外にあるサーキット、パルクモートル・カステリョリだった。全長4140m、11コーナーがあり高低差は約50mもあるテクニカルなコースだ。ここではターボ E-ハイブリッドクーペにのみ設定される「GTパッケージ」を試す。これは先代の「ターボGT」の代替となるトップパフォーマンスモデルという位置づけ。実は新型にもターボGTは存在するのだが、残念ながら日本や欧州の排ガス規制に適合せず、主に北米、中国で販売されるという。

GTパッケージは、ルーフをはじめウイングなどにカーボンパーツを多用し、軽量バッテリーなどの採用で、ベースモデル比マイナス100kgの軽量化を実現。車高は10mm低くなっている。これにより0→100km/h加速は3.6秒に短縮、最高速度は305km/hに到達する。

サーキットでは、走行モードをスポーツプラスモードに切り替えてみる。ターボGT譲りのチタンマフラー内のフラップが開き、野太いV8サウンドが車内に響く。静かなのもいいけれど、ポルシェのV8サウンドはまた格別だ。足回りには伸び側と縮み側を別々に調整してくれる2チャンバー、2バルブ技術を採用した新開発のアダプティブエアサスペンションを標準装備するが、これが実にしなやかに動く。試しに縁石にタイヤを乗せてみても、ショックを素早く吸収してくれる。コースを上りきった先に、バックストレートがあり、エンドでは速度は200km/hを超える。そこからハードブレーキでコーナーへと侵入し下っていくのだが、GTパッケージではPCCB(ポルシェセラミックコンポジットブレーキ)を標準装着しているだけあってブレーキペダルを強く踏み込めばきっちりと速度を抑え込んでくれる。車重が2.5トンもあるSUVの試乗会にこのコースを選ぶのは、SUVであってもポルシェが作る以上はスポーツカーなのだ、という自信の表れなのだと感じた。

ポルシェはいま2030年までに80%超の市販車を内燃機関から電気自動車へとスイッチしていく目標を掲げる。タイカンに続く電気自動車の第2弾は、2024年1月に発表された2代目マカン。2025年にはこのカイエンも電気自動車版が発表される予定で、おそらく内燃エンジンモデルはこの3代目で最後になるだろうといわれている。カイエン ターボ E-ハイブリッドは、市街地でのゼロエミッションから、V8サウンドを伴う最高速300km/hの世界まで、その両方が味わえるいいとこ取りのモデルともいえるものだ。
 

ポルシェ カイエン ターボ E-ハイブリッドクーペ GTパッケージ▲GTパッケージは、ターボGT由来となるチタンエグゾーストシステムやカーボンリアディフューザーなどを装着
ポルシェ カイエン ターボ E-ハイブリッドクーペ GTパッケージ▲GTパッケージはフロントセクションのアクセントやホイールアーチなどをブラックとし、より精悍なスタイルとした
ポルシェ カイエン ターボ E-ハイブリッドクーペ GTパッケージ▲自立型曲面デザインのメーターディスプレイと12.3インチのセンターディスプレイを採用。助手席側に配置されるパッセンジャーディスプレイもオプションで用意する
ポルシェ カイエン ターボ E-ハイブリッドクーペ GTパッケージ▲GTパッケージにはスポーツシートを標準装備
ポルシェ カイエン ターボ E-ハイブリッドクーペ GTパッケージ▲システム合計出力739ps/950N・mを誇るパワーユニットは、GTパッケージでも同仕様となる

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文/藤野太一 写真/ポルシェジャパン

弟分のポルシェ マカンの中古車市場は?

ポルシェ マカン

2014年に登場した、ポルシェが「コンパクトSUVセグメントのスポーツカー」とうたう人気SUV。2L 直4ターボのベーシックモデルやT、3L V6ターボのS、2.9L V6ターボのGTSやターボなど、ポルシェのセオリーに沿ったラインナップが用意された。なお、2024年1月に本国で発表された、2世代目となる新型はBEVモデルのみとなっている。

2024年1月中旬時点で、中古車市場には490台ほどが流通。登場から10年近く経っているため価格帯は広く、225万~2000万円となる。現状、新車では手に入れることができないハイパフォーマンスモデルのターボも60台ほどが流通している。2代目のBEV化により、まもなく終了する内燃機関のマカン 、いまのうちから気になる1台を探してみては如何だろうか。
 

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文/編集部、写真/ポルシェジャパン